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僕と宝塚歌劇

来年の2月5日から宝塚大劇場で
『NEVER SAY GOODBYE』-ある愛の軌跡-  
という宝塚歌劇団 宙組の公演が封切られる。
この『NEVER SAY GOODBYE』という演目に僕は並々ならぬ思い入れがある。16年前に僕が宝塚にドはまりする(ヅカヲタとなる)きっかけとなった演目だ。


その『NEVER SAY GOODBYE』公演が冒頭のとおり来年2月に初めて再演されることになった。しかも初演当時と同じ宙組での再演となる。正直興奮している。
宝塚の一本モノの演目の中で良作とされ何度も再演がなされている演目があるなかで、僕はこの『NEVER SAY GOODBYE』も名作だと思っている。
なのにこの16年間一度も再演が実現していなかったのだ。不思議で仕方がない。当作品の作曲家フランク・ワイルドホーンと揉めたのかと勘ぐるぐらいだ。

この作品だけは逃すまい、観に行かねばと決意して今回10年振りぐらいに宝塚のチケットを取って来年2月に遠征することにした。
そこで、この際だから僕のヅカヲタ遍歴や今振り返ってみて思うことなどをここに記しておこうと思う。


宝塚にハマったきっかけ

当時宝塚好きな知人に誘われて、東京宝塚劇場へたまたま観に行った演目が、宙組の『NEVER SAY GOODBYE』というやつだった。

通常宝塚の公演は、

【前半がお芝居→幕間(休憩)→後半がレビュー(ショー)】

という構成がオーソドックスな流れとなっている。

だがこの作品はいわゆるレビュー(ショー)が無い1本モノという分類になる公演だ(厳密にはお芝居が終わった後、短いレビューはある)。
1本モノの有名どころだと『エリザベート』や『ファントム』などがぱっと思いつく(宙組好きなんで、、、さーせん)。

この『NEVER SAY GOODBYE』は、
確か物語り前半の第1幕が約1時間半、物語り後半の第2幕が約1時間半の計3時間程のお芝居だったと思う。

『NEVER SAY GOODBYE』のあらすじはこうだ。

1936年。ナチス政権下のベルリンオリンピックに対抗してバルセロナで人民オリンピックが開かれる。取材に訪れた人気写真家ジョルジュは、リベラルな女性劇作家キャサリンと運命的な再会を果たし、二人は恋に落ちるが、やがてスペイン内戦に巻き込まれて行く。
ファシズムと闘う人々の愛と勇気が、「ONE HEART」をはじめとする数々の名曲で綴られる、ミュージカル大作。

ミュージカル『NEVER SAY GOODBYE』より

このたまたま観に行った『NEVER SAY GOODBYE』のなかで、ラ・パッショナリアという役を演じていた娘役(演者)さんの圧倒的な歌唱力に僕は心を鷲掴みにされてしまったのだ。

ラ・パッショナリアの役どころを少し説明すると、スペインの内戦において民衆を扇動、鼓舞する象徴的なキャラクターとして描かれている。こうした力強い女性像というのは当時から解放の象徴だったのかもしれない。

ラ・パッショナリアは歴史上実際にスペイン内戦当時実在した人物で、実際の名前はドロレス・イバルリ(1895-1989)というスペイン人女性で、劇中でも台詞として幾度と無く登場する「ノーパサラン!(¡No pasarán!)」《奴らを通すな!》のスローガンを掲げた、政治的指導者だ。
※なぜかイギリスのグラスゴーに彼女の石像が建てられている。

たっちんちゃんとの出会い

舞台上段からラ・パッショナリアが小銃を片手に、内戦状態の市街地に颯爽と登場して、高らかに「民衆よ立ち上がれ!」と歌い上げるのだが、その迫力もさることながらまあ歌が上手い。
その民衆を奮い立たせるパワフルな歌い方が役どころとマッチしているし、この娘役さんは一体どんな人なのだろうか。

お芝居の前半が終わり幕間の休憩時間に、開演前に購入したパンフレットでラ・パッショナリア役の顔写真が載っているページをめくっていた。
そこで僕は彼女の名前を知る。和音美桜さん、当時歌の87期と呼ばれた歌うまさんを多数輩出している期で、中でも彼女は特に歌唱力に定評があった。

彼女の愛称が『たっちん』なので、以降たっちんちゃんと呼ばせていただきます。

募る思い

『NEVER SAY GOODBYE』は当時ゴールデンコンビとして宙組トップを務めていた、和央ようかさん(たかちゃん)と花總まりさん(まりちゃん)の退団公演でもあった。
つまり、チケットが恐ろしく取れないのだ。
結局この『NEVER SAY GOODBYE』の演目は1回だけしか観劇することが出来なかった。

『NEVER SAY GOODBYE』初演時のパンフレット


けれど、ラ・パッショナリア役のたっちんちゃんの事が忘れられない僕は、各生徒(演者)さん毎に私設FCのような『会』というものがあるという情報を知る。
例えば、僕の私設FCなら『たこまりね会』という風。
今まで知らなかった世界に足を踏み入れるという好奇心もあったし、どうやらその『会』とやらに入会できると色々とベネフィットがあるらしいという(スマホが普及する以前の話しなので情報を得るのも今ほど簡単ではなかった)。

その『会』というものに入ってみたい!僕はそう思いました。
どうやら入会方法は大まかに2つのルートがあり、お目当ての生徒(演者)さんにファンレターを出して入会希望ということを伝える方法がまず1つ。
もう1つは会を運営しているスタッフにコンタクトを取るというものだ。

邂逅~プランB~

僕もさっそく事前にファンレターを書き、入会希望である旨と連絡先などを書いておいた。
それを携えて公演終了後に東宝(東京宝塚劇場)の楽屋口で出待ちをし、直接ご本人にお渡しして入会希望であることを伝えました。
しばらくして自宅に入会案内が届きめでたく入会の運びとなった。

今どなたか会に入りたいなと思っている生徒(演者)さんがいたとして、そもそも会が作られているのか?会があったとして、入会方法として何がOKなのかNGなのかは事前にちゃんと下調べした方がいい。
僕の時は16年も昔の話しだし、まあこのご時世僕みたいな出待ちの仕方はもう無理なんだろうなとは思う。

よく分からなかったら無難にファンレを劇団に送ってその中で会に入りたい旨を伝えるのが安パイだと思うし、
あと、公演前に劇場の入り口でチケ出ししているお目当ての会のスタッフさんに話しかけるのも手っ取り早いと思う。ちゃんとやさしく色々教えてくれるはず。

ちなみに一度どこかの『会』に入会した時点で縛りが発生し、会の掛け持ちはご法度です。箱推し組推し、DDみたいな感じで応援したいなら『会』には入らない方がいいと思う。

そして、直接手紙をお渡ししてほんの1分にも満たない様な時間だったけれど、この時めちゃくちゃ緊張したのを今でもよく憶えている。交わした短い会話の内容もその時の顔も服装さえもよく憶えている。
ステージから降り舞台メイクを落とし、私服に着替えた彼女の姿は普通にどこにでもいそうな清楚な年頃の娘っていう感じで、小柄で小さいし、とにかく緊張した。
ラ・パッショナリアの凛々しい姿とオフの姿のギャップに僕は完全にやられていた。

いわゆる『会』とは

大前提として私設FCなのでそれぞれの会によって運営方法に違いがあると思いますが、入会するとだいたい大まかに4つぐらいのベネフィットがあります。

1.会報など(生徒さんに関する情報をいち早く入手できる)
2.FCグッズ(ブロマイドや会服などその他購入可能)
3.お茶会(交流会に参加できる)
4.チケットの取り次ぎ(いわゆる会席が入手できる)

※これはあくまで僕が入会していた会の話しです。恐らくトップ会とか数千人規模で会員がいらっしゃるところはもっと色々違うと思う...。

上掲のことを細かく書いていくとキリがないので、今回は割愛させてもらう。

宝塚(ムラ)界隈は独特の決まり事が色々あって、最初は戸惑ったが会に在籍しているうちに自然と覚えていったし、覚えてしまえばなんてことはない。分からない事があれば、勇気を出して近くにいるお姉さま方に教えを請えば、快く教えてくださる筈だ。今ならググれば大抵のことは調べられるし、ハードルは下がっているのかもしれませんね。

あと、会の方々は僕の体感で95%以上女性だったので僕のような小僧はやはり肩身が狭い。お茶会のときなど、彼女や奥さんと同伴ならまだしも単独入会の場合男性はある程度覚悟しておいた方がいいかもしれない。

生活が宝塚中心に回る幸せ

この『NEVER SAY GOODBYE』を皮切りに『会』にもめでたく入会した僕は、たっちんちゃんが卒業するまで宝塚にドはまりしていくのでした。
自分の生活サイクル全てが宙組の公演サイクルに合わせて回っていく感覚というのが表現としてとてもしっくりくる。

たっちんちゃんが入団から退団までずっと在籍していた宙組の公演は『NEVER SAY GOODBYE』以降もちろん全部観に行っていますが宙組の公演が無い期間は、あのキラキラした世界に触れられない禁断症状みたいなものが発症して他の組の公演も結構満遍なく観劇しに行っている。

当時土日・祝日を中心にチケットを申し込んでいたのだが、宙組のチケットは友会宝塚友の会という名の公式FC)とクレジットカード会社協賛の貸切公演の両方でSS席を狙いつつ、会席(会で取り次いでくれる席)を毎公演4~8枚ぐらい申し込んでいたと思う。
他の組の公演は会席が使えないのでSS席の抽選だけ数枚分申し込んでおいて、SS席当選かハズレからの復活スライド当選でS席が当たれば行く。
下の座席表をみてみるとお分かりいただけると思うが、SS席は全体の席数に比してかなり少ないので抽選でほぼはじかれる。

東京宝塚劇場座席表

それにこの座席表は今現在の座席表で、僕が通っていた当時は1階席のSS席は本当に中央の1ブロックだけと、2階席の中央ブロック3列ぐらいがSS席だった。当選確率を上げる方法はいくつかあるのだが、それでもまあSSは当たらない。
間違って後方のSS席に当たるよりも、S席で前から5列以内とか引き当てるとかなりアツい。近すぎてちょっと首が痛くなるけど銀橋(ステージからせり出しているアーチ状の細い花道みたいなやつ)が本当に目の前だし、野鳥の会しなくていいしでずっと夢の国に没入できる。
僕は当時2回だけS席の3列目と4列目を引いた時があって、えらい興奮しながら観た記憶がある。SSの変な後方席より全然アドだし。脳汁ばしゃばしゃ具合がダンチだ。


その他、お茶会に出席する為に宝塚に遠征したり、バウホールといって宝塚大劇場に併設している少し小さい劇場で行われる公演や梅芸(梅田芸術劇場)で行われる公演を観るために遠征したり。
その他にも公式のグッズ、会で販売しているグッズ、毎公演毎のお花代とかまあなんか凄くお金と時間を使っていた。

かと言ってこれだけ時間とお金を掛けていたことに後悔しているわけではなく、とことんつぎ込んだからこそ楽しい思い出が沢山できてあの頃の事を思い出すと、とても充実していたなあと思う。

そして、ひと月に幾ら使ったかを計算しないようにしていた。なぜなら、お金の計算をしてしまうと、あのキラキラした世界から一気に現実に引き戻されてしまうからだ。
とにかく己の欲望のままにチケットを申し込み、後はその手にしたチケットの日程にしたがって劇場に行く。そしてご贔屓の生徒さんを観る。ただそれだけでいいのだ。それで充たされる。


このヅカヲタ期間で学んだのはヲタ活をする上で、楽しそうなら「とりあえず乗っかれ、乗っかってから考えろ」だし、時間とお金があるなら無理しない程度に興味の対象に「惜しみなく全BETした方が楽しいし後悔しない」ということ。

ファンレターを書く癖が付いたのもこの頃で、毎公演ごとに必ず舞台の感想や応援のメッセージを書いてお渡ししていた。公演期間が終わってちょっと経つとお礼状が必ず届くのだけど、そこに直筆のサインと共に毎回一言二言のお返事やメッセージを書いてくれていて、それを見るのがいつも楽しみでした。

たっちんちゃんからのお礼状

お礼状や年始の挨拶状などは、やはり『会』に入っていて良かったなと思う点の1つです。


ヅカヲタ卒業

僕がたっちんちゃんと出会ってから早幾年、『Paradise Prince』という公演でたっちんちゃんは退団となりました。
僕はなんとか会席(会が取り次いで取り置きしてくれるチケット)で千秋楽の席も確保することができ、本当の最後の最後まで見送る事ができました。

『PradisePrince』・『ダンシング・フォー・ユー』

『Paradise Prince』公演のレビュー演目『ダンシング・フォー・ユー』で最後は勿論たっちんちゃんがエトワールで、本当に堂々たるラストエトワールだったのですが、ライトグリーンの衣装を身に纏い大階段から一番に降りてきて高らかに独唱した時の圧倒的な歌声と、その後の会場の鳴り止まない拍手の渦は今でもありありと脳裏に焼き付いています。何度聴いても鳥肌どころじゃなく、全身が震えるあの歌声はやっぱり凄いの一言に尽きる。
あんなに印象に残っている舞台の1場面は後にも先にもありません。

エトワールってなに?

さっきから聞きなれないエトワールという単語を普通に使ってしまっているので、少し説明させていただきたい。

要はショーの最後におこなわれるパレードの開幕を飾る歌の上手い生徒さんの見せ場。といったところだろうか。
普通、下級生を10~15人程度従えながら一番最初に大階段から降りてきて、大階段上でその公演のテーマ曲を独唱するのがエトワールだ。
そしてエトワールを務めるのは何も娘役さんだけではなく、男役さんもエトワールに抜擢される。
選ばれる条件などは気になればググってみるといい。その生徒さんが路線に乗ってる乗ってないなど様々な憶測が語られていると思う。

基本的には一人の生徒さんがその公演のエトワールを務めるのだが、時にはダブル、トリプルエトワールというフォーメーションを組む作品も意外とある。
たっちんちゃんもその昔『満点星大夜總会』でトリプル(まちゃみさん、たっちんちゃん、みきちゃん)、『宙 FANTASISTA!』でダブル(みっちゃん、たっちんちゃん)を経験している。

まあ要はいくさのクライマックスで崖の上から一騎駆けで先陣を切る一番槍みたいなものです。前田慶次みたいな感じですよ。そりゃもう花形です。


宝塚退団後のたっちんちゃん

宝塚を退団後もたっちんちゃんは舞台役者として東宝系の舞台などに出演し、その演技と歌声を響かせていました。有名どころの作品だと、『レ・ミゼラブル』のファンテーヌ役でしょうか。

僕もたっちんちゃんを追いかける様に出演作品を観に行ったり、ディナーショーに足を運んだりする日々がしばらく続きました。

そのうち僕自身仕事が忙しくなったり、プライベートが忙しくなったりしていつの間にかたっちんちゃんの舞台を観に行かなくなっていました。ただ、本人のblogだけは欠かさずチェックしていて、次はあの作品に出るんだなとか、結婚したんだなとかそういうのは耳に入っていました。

たっちんちゃんの現在はというと、ご結婚され近年一児をもうけられて一時的にお仕事を休養・セーブしておられましたが、今年は『モーツァルト!』で舞台に復帰されておられました。

『モーツァルト!』は既に公演が終わり、今後どういったお仕事をされるのかはまだ分かりませんが、
タイミングが合えば久しぶりに出演舞台を観に行こうかなって最近思い始めています。

今回の『NEVER SAY GODDBYE』の個人的な見どころなど

初演当時から宙組にずっと在籍している寿つかさ(すっしぃ)さんが16年の時を経て今回も出演されるということ。今は宙組の組長として下級生さん達を指導する立場になられているということ。

そして、『NEVER SAY GOODBYE』初演に出演している方が今も在籍しているとういうのは下級生さんたちからすると再演するにあたってとても心強いのではないだろうか。
ちなみに僕が当時通っていた時に宙組に在籍していた生徒さんで今も宙組に在籍しているのはもうこのすっしぃさんしか残っていない。
アイドルにも言える事だが、時の移ろいというのはかくも儚いものだと身に染みる。

そしてなにより、もう一人重要な人物それは今回主人公ジョルジュ役を演じる宙組現トップ男役の真風涼帆さんだ。
なんといっても初演当時この『NEVER SAY GOODBYE』は92期生のお披露目公演でもあった。
お披露目公演というのは音校(宝塚音楽学校)を卒業し、まだ組配属されていない生徒さんが揃って初舞台を踏む公演である。

その92期生の中にこの真風涼帆さんもいらっしゃったのだ。あの初々しい袴姿の中に居たのだと思うと、感慨深いものがある。

観劇の楽しみとしては、初演時との演出の違いを見つけてみたい。これは初演を見た事のある人にとってはどんな作品だろうと楽しみの1つだと思う。
僕は『NEVER SAY GOODBYE』のDVDをセリフを覚えるぐらい見ているので、今回ちょっとしたセリフの変化や衣装や舞台美術の変化にも気が付くかも。

更に、もしかしたら新たにご贔屓の生徒さんが見つかるかもしれない。僕はもちろん今回ラ・パッショナリアに配役される生徒さんは注目して観ようと思っています。
来年実際に観劇しに行った後に感想なんかを気まぐれにnoteに書くかもしれません。

あとがき

『NEVER SAY GOODBYE』が再演されるというトピックスが飛び込んできたことが一番の要因ではあるものの、
今年本当にたまたま見て好きになったアニメ作品『かげきしょうじょ!!』で昔々ヅカヲタをしていた記憶が掘り起こされ、こうして記事を書くにあたりだいぶ触発されたのは言うまでもない。ちなみに山田さん推し。

まあ宝塚というところは結構好き嫌いがクッキリ別れる界隈ではあるものの、話のネタ程度に1回は観に行ってみるのもいいんじゃないかなと思う。この宝塚という文化が100年以上続いているということは、それだけの理由がどこかにあるのだから。



万が一サポートして頂けるような神がいらっしゃいましたら、取材費としてありがたく使わせていただきます。