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【登山記】日蓮聖人が眠る仏の里~桜満開の身延山中を行く その1

 身延山久遠寺は、山梨県身延町にある日蓮宗の総本山である。
 山深いところではあるが、JR身延線が通っており、出発駅の富士駅からは約1時間程度で到着する。
 私の生家が日蓮宗ということもあり、何度か久遠寺には来ているらしいのだが、幼いころの記憶故、あまり覚えていない。しかし、この久遠寺の奥の院や日蓮宗守護の山といわれる七面山には、いつか登りたいと思っていた。
 桜の里としても有名であり、私が訪れた令和6年3月の下旬は、境内にある枝垂桜が見事に満開であり、素晴らしい旅・登山となった。

見事な枝垂桜を拝むことができた

 山中の仏教宗教都市の観があり、身延山の懐に入れば、自然と頭を垂れたくなるような神聖さを感じる。神道や仏教を区別することは無意味で、もともとここに聖なる雰囲気があったのだろう。
 鎌倉を中心に布教していた日蓮が、流罪となり、弟子の招きでここ身延の地に入った。一目で気に入ったという。さらに死後は、身延山に埋葬をしてくれとの遺言を残し死したという。
 執着を離れたはずの日蓮聖人にあっても、この身延の美しさは忘れがたく、離れがたかったのだろう。
 今も、ここの日蓮の体は眠り、日本国の安寧を願っている。

ロープウェイの下りから延暦寺の全体を見下ろすと、まさに桜の里だ

身延駅からバスまたはタクシーで三門へ

 身延駅に着き、予定のバスに乗ろうとしたが、すでに大勢の乗客がおり乗ることができなかった。増便はないようである。仕方なく、タクシーを待つこととした。タクシーは10分ほどできた。
 駅から土産物屋が並ぶ市街地を経て富士川を渡り、山中に入っていく。
 久遠寺入口を右手に折れると、間もなく「総門」が見えてくる。ここからが本格的に久遠寺の領域に入っていくのだ。
 両側には美しい垣根とすっくと立った杉の木が並び、訪れる者の居住いを正してくれる。しばらく行くと門前町が現れ、少しにぎやかな雰囲気があり、人通りも増える。タクシーは、その中を通り、私たちを「三門」前に降ろしてくれた。

巨大な三門 威容が伝わってくる
境内はかなり広いようだ
三門周辺も見事な桜が並んでいる
三門の全景

三門と本堂を結ぶ天国への道 菩提梯へ

 三門の名の由来は、空、無相、無願の三つの執着を解脱し、そして涅槃に至るという仏教の教えからきているそうだ。ここで涅槃とは、久遠寺の本堂に当たる。
 総ケヤキづくりの堂々たるこの三門は、京都の南禅寺、東福寺とならび「日本三大三門」と言われている。明治時代の再建だが立派なものである。
 我々は、ここで執着を捨て、この先にある菩提梯を苦行を経て登り、涅槃の本堂へ至るのである。

三解脱とは、仏門の修業において捨てるべき3つの執着を示します。「空」とは、世の中に固定的で不変のものはないと言う考え方、「無相」とは、すべてのものを差別しないこと、「無願」とは要求、願いを持たないことを示します。

やまなし歴史の道ツーリズムより
菩提梯を経て本堂へ向かう。スギ林の中を石畳の道を進む
道の脇に様々な石像や記念物があり、ここだけでもいろいろ面白い
見えてきた菩提梯 つまり天国への階段だ
かなりの勾配があるが、ここを僧は毎日のように往来しているのだろう。

 菩提梯は、かなり急勾配な上、一段一段の高さがあり、手すりを使わないと後ろへ転げ落ちてしまいそうな怖さがある。さながら蜘蛛の糸のカンダタの気持ちであろうか。
 途中で喘いでいる参拝者を数多く見かけた。しかし、皆前進んでいく。涅槃へは簡単にはたどり着けないのだ。
 とはいえ、階段を巻くようにある坂道をゆっくり上る方法や、更には三門から本堂裏までタクシーで行く方法もあるようだ。方便、方便。

本堂、祖師堂近くの枝垂れ桜を堪能する

 菩提梯を登りきると左手に朱の五重塔が見える。そして正面に見えるのが本堂だ。ここが涅槃である。

近年再建された五重塔
涅槃たる本堂

 本堂の中をじっくりとは見なかったが、パンフレットによれば、総坪数970坪、間口32m、奥行51mで荘厳なる天蓋、多くの仏像が収められているという。そして天井画は、加山又造画伯による龍が踊っているらしい。

日蓮上人を奉る祖師堂
この久遠寺の桜は樹齢400年以上と伝わる枝垂桜

 さすが日本でも有数の桜の名所であり、見事なものであった。
 枝ぶりや色も美しく日本人の心象風景に、ぴったりと合う壮麗な枝垂桜だった。境内には複数本の桜があり、この日はまだ時間が早かったせいか、カメラを構えた人が思い思いに撮影を楽しんでいた。
 私も何枚か撮らせていただき、それが冒頭の桜である。

ロープウェイには乗らず、本堂裏手より奥の院参道をいく

 さて、今回の本題は、この本堂裏手から延びる久遠寺の奥の院「思親閣」への登山道を行くことである。おおむね2~3時間の行程であり、なかなか骨の折れる道である。

ロープウエイ乗り場のすぐ近くから始まる登山道(東コース)

 奥の院へは東回りと西回りのコースがあるとのこと。今回は、東回りのコースをとった。登りを徒歩で奥の院まで行き、帰りはロープウェイで下ってくる計画だ。
 桜に見送られ、心地よい気候と素晴らしい晴天に恵まれた絶好のハイキング日和。足取りも軽く修行の道へ向かったのである。

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