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【紀行文】葉桜の高遠城と充実の諏訪博物館を堪能した

黒耀石を巡る旅。前回まではこちら。

重要文化財のある遠照寺へ

 高遠で登山の疲れを癒すべく温泉につかる予定であったが、若干早かったため、一旦国道152号を外れ、山一つ向こうの長谷地区へ向かった。そこには重要文化財の遠照寺(おんしょうじ)という日蓮宗の寺院がある。
 こちらに立ち寄ったのは、時間が余ったゆえの偶然なのだが、つい最近日蓮宗の総本山、身延山久遠寺に参詣したばかりだったので、その縁に不思議を感じた。信州は、かなり日蓮宗関係の寺院があるように思った。
 また七面様は、身延山の傍にもある山の名前であり、日蓮宗を守護する女神の名前だが、ここでも同様の信仰を形成したようだ。あまり仏教各宗派の布教方法に詳しくはないが、調べてみると面白そうだ。

文化財の指定理由の看板が分かりやすかった
重要文化財の釈迦堂
5月中頃は、牡丹寺としてにぎわうとのことだ

葉桜の高遠にて、まずは高遠蕎麦を食す

 遠照寺を出て、長谷地区から高遠湖の裏手に回り、国道152号に戻った。このルートは、桜シーズンの高遠城公園への裏道でもある。高遠城公園を通り過ぎ、市街地に入る。ここには飲食店や土産物店が軒を連ねている。
 とりあえず温泉に浸かりたかった。さくらの湯に入った。泉質はぬるぬるのアルカリ単純泉で、気持ちよく浸かることが出来た。
 その後、先ほどの市街地へ戻り、信州といえば蕎麦!ということで蕎麦屋に入った。すっかり忘れていたのだが、高遠そばは、大根の絞り汁、焼味噌を溶き入れた独特のつゆで食べさせる。
 大根のしぼり汁の辛みがよいアクセントとなり、香ばしい味噌と相まってこれはこれでおいしい蕎麦だった。

ざっくり切った田舎風蕎麦
大根のしぼり汁に焼き味噌を溶き入れる出汁

葉桜の高遠城公園もいいものだ

 高遠は言うまでもなく「桜」で有名である。私も数回、色濃く染まった見事な高遠小彼岸桜を見にはるばる来たことがある。
 しかし、ゴールデンウィークには既に桜は散り終えており、一面の葉桜となる。葉桜は一般的には、あまり見向きもされない。事実、ゴールデンウィーク中のこの公園に人はまばらだった。
 同行者は中世の城の専門家であるので、この高遠城が日本百名城に指定されていることから、どのような整備をされているかが興味のあったところであったようだ。しかし明治期に高遠城が取り壊されて以来、桜の整備に全振りした形であったため、城としての整備はあまり顧みられなかったようだ。 
 一通り公園内を見て、非常に残念であるとこぼしていた。
 帰りの車では、それまで饒舌だった彼が「寝る」と言ったきり、本当に寝てしまってしゃべらなかったほどだ。
 私は、ゆっくりと一面鮮やかな緑の葉桜の中を歩くのも悪くはないと思ったのだが、それは、高遠の桜祭りの喧騒を知っているからの感想であろう。
 高遠は秋の紅葉のシーズンも素晴らしいらしいので、その時期に来てみるのも良いかと思った。

城ではないが、高遠閣という町民が出資して作った古い木造建築の登録有形文化財がある。なかなか威風があり立派な建物だ
堀などの遺構は残っている
看板も文化財的な整備感覚からすると確かにイマイチ感がある

高遠焼の桜色の釉薬に心惹かれる

 私はこの高遠で好きな物がある。高遠焼きだ。釉薬に特徴があり、緑色または青色のグラデーションが美しいものである。近年は高遠小彼岸桜をイメージした薄紅色の釉薬も開発されており、私はそちらの方が好きだ。以前訪れた時もその色の茶碗を購入した。それは今は娘が使っている。
 今回は、家にもう一つ欲しかった「蕎麦ちょこ」を購入した。

窯元で直売もやっている。高遠城公園のすぐ近くだ
美しい色合いの高遠焼の数々
この右手の優しい色合いの蕎麦ちょこを購入 価格も優しい

 この後伊那方面に行くことも考えた。諏訪から天竜川沿いの伊那地区は、歴史的つながりがあり、それは遺跡の上からも明らかである。その一端を見るべく訪れたい遺跡があったが、その楽しみは後日に取って置くこととし、予定の諏訪市博物館に向かった。

偉大な諏訪の歴史を概括する素晴らしい博物館

 諏訪市博物館は諏訪市の歴史・文化を展示する市営の博物館であるが、市営でこれほどの整備が出来るのか!と感動するほど、大変素晴らしいものであった。

諏訪市博物館のエントランス
(中は写真が撮影できなかった)

 常設展示にあっては、諏訪大社の御柱祭りの映像資料、諏訪湖の御神渡りの音を聞かせる装置、甲賀三郎の伝説の解説ビデオなど目と耳でしっかりと学べるようになっている。
 特に、諏訪湖の御神渡りは、諏訪地区に住む人にとって音とともに訪れる神秘的な現象であり、それを体感できる装置は、その民族的、歴史的価値の本質を理解できていないと導入できないものだと思う。
 また、その記録は連綿とそして確実に記録に残されている。これは諏訪の歴史だけでなく、気象学的にも貴重な資料とのことだ。
 諏訪は太古からの伝承・風俗が色濃く残っており、そこに住む人々、そして諏訪に魅せられた人々が、大切に今に、これからに貴重な遺跡・遺物等を残そうとしている。信州独特の学究的・文化的土壌は、連綿と続いてきた風土的特徴にまで昇華し、人々の気質となっているのではないか。そうした気質、そして情熱が諏訪学とも呼べる一大ジャンルを生んでいる。そしてこの地では、多くの偉人が生まれている。藤森英一氏もその一人だ。
 常設展示の一角にある、諏訪湖の底に眠る曽根遺跡についての資料を見た。私は素人なのであまりよく知らなかったが、これは考古学上指標となる遺跡であり、伝説的な遺跡であるとのこと。諏訪湖の湖底に眠っているこの遺跡を丹念に発掘し、研究した藤森氏の遺産は、人そしてモノとして今も脈々と伝わっているようだ。
 一階の企画展示室にあっては、諏訪大社の御柱祭などで実際に使われた祭具や記録映像を見ることが出来た。改めて、危険を伴う勇壮な祭りであり、そのエネルギーの高さに驚く。地域全体が神懸っている。そう思わざるを得ない。

 このホームページもとても充実している。
 こちらの博物館、定期的に立ち寄りたいと思う。

続きはこちら。

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