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僕の夏休み②〜禁断の夕立浴で感じる夏の終わり〜

夏の午後、翳りのない晴天に、少しだけ色の付いた雲を見つけたら、やがて雨の合図。
気まぐれな夏の天気の、醍醐味の一つ。こんな日は、アレを体験できるかも知れない。やはり今日も、山深くの「おんりーゆー」へ。
車での道中、みるみる世界が暗くなっていく。夕立を心待ちにする人間も、ここにいるのだ。
まずは、アルカリ泉に浸かり、まどろむ。ひぐらしが透き通った歌声を響かせる。
遠くで、ゴロゴロと鳴り始めた。露天風呂に、小さな波紋ができる。ポツ、ポツ。降り始めた。目論見通りだ。
お盆休みの中の日曜日いうこともあり、今日は混み合っている。狭いサウナ室は、タイミングを間違えば、満室だ。たまたま、2人同時に出た瞬間、サウナ室に滑り込んだ。
ヴィヒタの甘い香りが満ちる。
今日は特に、子連れが多い。縦横無尽に走り回る子供達に、眉をしかめる。が、やめた。アホらしい。そんなことでイライラするのであれば、ここにいること自体がマイナスな行為だ。子供は、いつでも騒いでいる、それが正しい。そう割り切った。


サウナ室のいつもとは違う異変に気づいた。
熱い、のだ。普段はもっと頼りない程マイルドな設定なのに。温度計を見ると、堂々と100℃を示していた。こんなポテンシャルのあるサウナストーブだったのか!
お盆時、回転率を上げるために高温設定に切り替えられているのだろうか。これはこれで悪くない環境だ。一切のBGMもない静かなサウナ室に、雷鳴が轟く。部屋全体が床下から揺れる様な、そんな雷鳴だ。近くで落雷があったのかも知れない。小さな窓から露天風呂を確認すると、水面が大きく乱れている。外にいた客たちも、あまりの激しい雨に屋内の風呂場に移動する人も多い。夕立だ。

夕立のおんりーゆー

どっと吹き出した汗。そろそろ、水風呂へ。
ちょっと待った!
今日は、水風呂をあえて敬遠し、そのまま露天スペースのリクライニングチェアを目指す。
あまりの土砂降りのため、露天スペースに残っている猛者は少ない。熱された体を、大粒の雨が音を立てて叩く。構わずに奥側のリクライニングチェアに腰を下ろした。
わずかに開けた瞼、そこから世界をのぞく。森が、雨に煙る。
自分の体から、大量の湯気が発生しているのがわかる。少しづつ、この地球の涙が、オーバーヒートした僕の体を冷ましていく。頭の先から末端、瞼や唇、耳たぶや首筋、もちろん乳首や性器のの先端まで、夕立の雨は容赦なく、叩き続ける。おまけに、頭上を覆う紅葉樹を一度経由することによって、その粒の大きさは、増す。自然界の雨粒では存在しない巨大さとなって、僕の全裸をバタバタと叩くのだ。
雨の重低音だ。音楽のライブで、巨大なウーファーの前に陣取った時の様な、振動。体ごと、揺さぶられる。雷鳴。
猛暑に容赦なく照らされ続けた草木たちは、悦びの葉音を鳴らす。近くで1匹だけ、ひぐらしが鳴き続けている。
肩口から湯気が立ち上らなくなる頃、僕はふと、夏の終わりを想った。夏の初めに充満する能天気な期待感が、いつしか、僅かな寂しさを纏う様になると、夏の終わりの予感だ。
今日は、それを想うのにふさわしい日だ。
夕立は、全裸で打たれるものだ。
ゆく夏を浴びる。
暑ければ暑いほど、不思議と、その年の夏は短い。

ハンモックに寝そべり夕立を眺める
雨の森は、青く煙る

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