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爆発物処理班だった頃のお話。
「爆発物処理班」
これは僕の、かつてそう呼ばれた頃のお話。
物語の始まり
今から10年と少し前のこと。
大学生という「黒歴史を大量生産する時期」を知ることなく、
僕は高校を出て社会へと飛び出した。
田舎から都会への就職。故郷は超がつくほどの田舎で、某テレビ番組に突撃されてもおかしくない山奥の一軒家が僕の生家だった。
そんな僕にとって、キラキラした都会は別世界、異次元と言えた。誰にとっても煩わしいような電車の音も、時折現れる爆音の車のエンジン音も、酔っ払いが道路で騒ぎ立てる声も、全てが心踊るオーケストラさながらに、心を躍らせるような存在だった。
24時間365日、人がいる。人の息遣いが聞こえる。
こんなにも素晴らしい世界があったなんて。
なんの誇張もなく、ストレートにそう感じた。
もちろんこれはいい面だけを切り取った表現ではある。しかし土、草、木に囲まれた圧倒的な静寂の中で育った僕にとって、とてつもなく大きな意味を持つことだった。
そんなおのぼりさんが飛び込んだ『社会』。それは無限の自由だった。若さもあった。何も怖いものなんてなかった。
だから。
そりゃ合コンとかもいくよね、っていうのがこのお話の冒頭である。
爆発物処理班、爆誕す
そんなこんなで僕は「飲み会に誘えばだいたい来る奴」としての地位を確立した。
お酒と飲み会が大好きなのもあったが、何よりも夜に遊びに行くことが新鮮な感覚そのものだった。寝る暇なんてもったいないと言わんばかりに、遊び歩いた。
二十歳そこそこの健全な男子の体力に、限界はない。当時始めたばかりのドラムの練習を3時間こなし、汗を流してそのまま飲み屋に突撃、なんてこともザラだった。
とは言え、たいして顔もトークも上手くない。僕が飲み会に呼ばれるのは、もっぱら「飲み役」としてちょうどいい存在だったらしかったからだ。お酒を飲むようになってわかったが、両親から受け継いだアルコール分解能力は甚だ強烈で、いくら飲んでも顔色ひとつ変わることはなかった。
そんな「飲み役」がいるとどうなるかお分かりだろうか。誰かが飲めば、お酒は進む。おかわりのペースが早くなる。注文のタイミングで「次は何飲む?」と言われれば、だいたいの人が残った酒を飲み干すだろう。つまり全体の飲むペースが加速する。酔いが進めば、誰もが楽しくなってくる。
これが僕の最初の「お仕事」だった。ちなみにそういう役割を指示されたわけではない。ただ好きにお酒を飲んでいただけで、結果的にそうなってしまった、という話。
そんな飲み会にひたすら参加していると、僕にある一つの特性が備わっていることに気づいた。
それは、
「変な人」に割と好かれる
という特性だった。
飲み会、という戦場
さて。
最初に書いておくが、僕は変な人を馬鹿にしようなどというつもりは毛頭ない。この辺から多少刺激が強くなるかもしれないが、率直に言って僕は、むしろそういう人をリスペクトしている。
その証拠に、僕はカウンセラーの有資格者であることも伝えておく。試験だけ受かれば取れる資格ではなく、1年間のスクールに通い、プロカウンセラーによる地獄の指導の末に獲得した資格だ。
この当時の経験から、のちに僕はカウンセラーの資格を取得したと言っても過言ではないことをお伝えしておく。
話を戻そう。
そんなこんなで僕は「爆発物処理班」の称号をめでたく手にした。
飲み会で出会う「変な人」は僕が請け負うのである。
初めて知り合った男女数人でお酒を酌み交わすイベントを、巷では「合コン」と呼ぶらしい。
僕はあまりその呼び名が好きではなく、頑なに「飲み会」とだけ呼ぶ謎のこだわりを持っていた。
そんな飲み会だが、およそ3回に1回程度は明らかに様子がおかしい人が紛れ込む。様子がおかしいと言っても、ゴスロリファッションに身を包むような輩ではない。見た目はあくまでも普通なのだ。
だが、話すとにじみ出てくる独特の雰囲気がある人がいる。
そういう人はたいがい、いつの間にか僕の隣にやってくる。引き寄せの法則も裸足で逃げ出すケタ外れの異能だった。あ、僕がすごいんじゃなくて、そういう人たちのアンテナの話ね。
どちらかというとこっちが被害者というか、獲物みたいな状況となる。
男女が飲み交わす場ではよくある話だが、始まって1時間くらい経った頃合いにどちらか1グループがトイレに向かう。男女分かれて一度場を整理する必要があるからだ。
「あの子、好みだなぁ」的な、お約束のドラフト会議。多分女子側もそんな会話になっていたことだろう。
ちなみに僕の名誉?のために書いておくが、こういった飲み会のあと、俗に言う「お持ち帰り」的なことを一切したことはない。
僕が飲み会に参加する理由は、誰かとお酒を飲むことが純粋に好きだったからだ。モテないとか言ってはいけない。
そして「当たり」がいる飲み会では、僕に選択権はなかった。
「頼むぞ、処理班」
「おうよ」
その一言で僕のドラフト会議は終わった。単独一位指名、ってやつだ。
人外魔境の戦い
さて。そんな処理班の僕は、何度も強烈な人と巡り会ったことがある。
僕の目的はどちらかと言うとお酒を飲む場を楽しむことであり、その後のアフターケアはあまり求めていない。バンドに入りたてで忙しかったのもあるし、ライブが近ければ練習漬けだ。
ただし、僕にとっての戦いがここから始まることも多かった。オープンな場では本性を隠し、クローズドな場所で本領を発揮するタイプの人たちが大半だからだ。
連絡先を交換するのが通例なので仕方なく交換はするが、僕から次のお誘いをすることはなかった。ただ、相手が連絡してくる場合は別である。
無視をするのも冷たいし、なんか人としてダメな気がする。
今思えば、これが僕のダメポイントだったかもしれない。
ありがたいことにデートのお誘いも何度かいただいたことがある。
この場に書けそうなもので一番まともだったのは、目黒の寄生虫博物館への初デートのお誘いである。僕は緑豊かな山麓で育ったが、虫は非常に苦手だったので丁重にお断りをさせていただいた。
その他には、水商売を経営されていた方からガチで送迎ドライバーのオファーもあった。宗教の勧誘は確か2回ほど。
結論、人は面白い
爆発物処理班、だなんて少々申し訳ないタイトルをつけたが、この経験を振り返って僕は思った。
「結局人は、面白いんだな」って。
これが僕の唯一絶対の感想だ。
僕が巡り会ってきた愛すべき爆は……もとい『個性的な人々』は、そんなことを体を張って教えてくれたと思っている。
いや、正直言ってやべーな、ってこともあったけども。それはここで書いてしまうとものすごいアレなことになるので、割愛させていただく。
ただそういう人たちもすべてひっくるめて、この地球上には81億もの可能性が散りばめられているということだ。日本で言えば1億2000万だ。
……率直に言って、今のこの世は非常に世知辛くて生きづらい世の中である。そこそこ(たぶん)普通の僕ですら生きづらい。
彼ら彼女らは、きっともっと生きづらいんじゃないかな、と思う。
その背景には、昨今一部の勢力によって叫ばれる「多様性」といったような概念があるからだ。
マイノリティに光を与えるべく活動することを否定したいわけじゃない。当然のことながら声を上げる権利は誰にも等しくあるので、それはそれでいいと思う。
しかし、多様性といったような言葉が叫ばれる一方で、
その声が大きくなればなるほど、逆に大きく伸びていく『影』があることもご存知だろうか。
これは『寛容のパラドックス』というやつだ。
例えば多様性を声高に叫ぶとした場合「多様性を認めないことも多様性ではないか?」という反論の常套句が飛んでくることは珍しくない。
そんな時、多様性を叫ぶ人が「その通りです」と言ってしまうと、主張そのものが終わってしまう。多様性を認めてほしい、尊重してほしいという主張が誰にも届かなくなってしまう。
だから、多様性を主張する人々は、
「多様性を認めない多様性」を認めるわけにはいかない。
その結果、どうなるかは明白ではないだろうか。
「言っていることが矛盾している」「おかしい」「言いたいことだけ言って」と、他の勢力との対立が深まる。これが先に書いた『影』の正体だ。
主張をする自由があれば、反論をする自由もある。そして、世の中「あっちが正しくてこっちが間違い」ということはそこまで多くない。いや、ほぼ存在しないと言っても過言ではない。
詰まるところストレートに書いてしまえば、溝が深まると言える。
人々の思考が天下泰平になることはないだろう。ましてやインターネットが広まった現代では尚更で、各地で論争が巻き起こっている。
現代は世界規模の、かつてない『思考』戦国時代となっている。
別にこれがダメ、というわけではなく、シンプルにそういう時代なのだ。
しかし僕が出会ってきた彼女らは、正直に言ってそんなことは望んでいないと言わんばかりの人たちだった。
ただただ静かに、趣味嗜好を分かち合える人たちを探していたからだ。全然隠しきれていなかったけど、隠そうとはしていた。公にしたがらなかった。
書きたいことを書いていたら、はからずも少し小難しい話になってしまったが、こういった現実も含めての結論はシンプルに、こうだ。
今はもう連絡を取ることも無くなってしまったが、
僕に人の面白みを十二分に教えてくれた彼女らが、
良きパートナーと巡り合っていることを願わずにはいられない。
なんてね。おわり。
TACK
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