ケサランパサラン
ケサランパサランを抱いた蝉が息絶えている歩道橋
私たちの空がこらえきれず激しく泣き始める夕刻
いつか手渡された時計草が似合うような
液体と気体との臨界を泳いで渡る
東京の、ある夏の日
ケサランパサラン
時計草を投影して
回る
あの人が逢いにきてくれた
こどもたちに一輪ずつ
ぽっちゃりとした指先で手渡された
あの日の
あの街には時計草があちらこちらに咲き乱れていて
時を止めてくれているような気がしていた
時を止めてくれているような気がしていた
家路を急ぐ歩道橋で息苦しさに再び泳ぎ出すのだが
道行く人が訝しさに女の視線の先を一瞥する
ケサランパサランを抱いた蝉が息絶えている
ケサランパサランが揺れながら時計草を投影して
概念はいつも在るとも言える
あなたたちには見えない
私たちは空に抱かれ詩を探していた
私たちは空に抱かれ詩を探していた
ケサランパサラン
遠雷が東京を微かに揺らすようにして
時計草は浮かび
粒子になり水を湛えた空とひとつになりながら
冗談ですよ、といたずらに
さよならを知らないままに
さよならを知らないままに
*2017/7/25
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