インド駐在
サラリーマン人生もそろそろ終わりかけていた2016年の初め、代表から突然の打診があった。
担当役員として指揮していた大型M&Aで買収した会社を円滑に統合するため、現地に行って欲しいという話であった。買収した企業は日本円で売上700億円、社員数4,000名のグローパル企業である。
オランダに本社があったが、実質的にはインドのムンパイにあるグループ会社が本社機能を持っていた。つまり、インドに行ってくれないかと言う話であった。
インド? かなり悩んだ。この時すでに63才、体力的にどうなのか? 出張レベルでは海外に多く行ってはいたが、コミュニケーション力はあるのか? 前のオーナーが健在な中でリーダーシップが発揮できるのか? 残すことになる家族、友人の反応は? またインドの衛生状態も気になった。
いろいろな不安が交差する中で赴任の決断をした。頼まれた事をいやと言えない性格、M&A交渉をしていた最高責任者だった事等が決断を促したのである。
しかし、今から考えると決断した一番の理由は「好奇心」だったと思う。インドって、どのようなところで、どのような人たちが、どのような生活をしているのか?
また、グローバルの商域、生産基地、多国籍の人材によるビジネスは、どのような方針や運営をしているのか?
63才はもう遅いのかも知れないが、不安よりもそのような「好奇心」が上回った。サラリーマン人生の最終章を飾るにふさわしい決断でもあった。
M&A統合のプロセスには2つの手法があると考える。ひとつは、早い段階で買収側の方針や運営に沿って、その会社を一変させていく方法、もうひとつは、現地側の自主性を尊重しながら、買収側の方針を徐々に浸透させていく方法である。
現地に行って、インドの人たちの優秀性、自律性、パワーを強く感じた。オーナーは一点の曇りもなくコストNo,1の世界成長を方針とし、その方針の下、幹部は「One Team」で目標に向かっている。
余談だが、昨年のラグビーJapanで盛り上がった「One Team」というスローガンだが、赴任した会社ではこの時既に使っていた 笑。
赴任して1か月で東京本社に対して、現地の自主性を尊重しながらの「柔らかな統合」で進める旨、提案した。そして受け入れられた。
統合ストーリーを共有しながら、どの機能で統合効果を得られるのか、システムのや文化の違いを確認しながら、次のこの会社のポジションをどこに置くのか、皆で良く話し合った。着実に足元の業績を残しながら、彼らの自主性を尊重し、オーナー会社からグループ会社へ脱皮、統合の1stステップは成功し帰任したと自負している。
私が接したインド人の幹部は、米国、英国の優秀な大学のMBAを取得し、優れた頭脳に行動が伴った精鋭たちであった。世界のどこへでも売りに出かける志の高い猛者でもある。また世界のどこでも住める、インディアンドリームを信じて疑わない人たちでもある。なかなか日本人ではお目にかかる事はない人材であった。
生活域では、スーパーに行ってもレジの若い女性が英語でちゃんと会話する。ゴルフ場のキャディーもしかりである。多分、インドの人が都市部に出た場合、地方によって全く異なるヒンディー語よりも英語の方がコミュニケーションを取りやすいことを肌で感じているのだろう。
約2年弱の赴任であったが、随所にインドの底知れぬ潜在能力を感じた。また反面、人口13億人、インフラの遅れ、貧富格差、カースト制の名残等、問題が多いのも確かである。が、これからの10年で、世界の中で大きな存在になる国であることは間違いないと確信している。
帰国してもう3年になろうとしているが、私の人生の中で特に印象的で思い出に残るインドでもあった。その詳細はおりにふれてお話したいと思う。
インドも現在コロナで大変な事態になっている。この災難を早く乗り越えて、大いなるインドを構築してもらいたいと心から願っている。
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