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無印良品の感情的な価値を高める「くらしの良品研究所」

オウンドメディアと聞くと、よく思い浮かべるのはSEOで流入を増やし、コンバージョン獲得やリード獲得を目指すメディアではないかな、と思います。

今回取り上げる「くらしの良品研究所」は、上記のようなメディアではなく、顧客との関係性構築であったり、商品に対して心理的・感情的な価値を感じてもらうための発信だったりが目的の、CRM系のメディアとして成功していると考えられているメディアです。

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今回は、そのメディアの戦略についてトレースして、考察していきたいと思います。

■メディア戦略を考察する流れ

1. メディアの概要
2. メディアのターゲット市場
3. メディアの目的
4. メディアの競合
5. メディアにおいて必要性が高いもの
6. メディアにおいて競合より優れているもの
7. 今後改善していくべきポイント

■1. メディアの概要

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■2. メディアのターゲット市場

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無印良品の提供している価値から、「ちょっといい暮らしを実現したい」というコンセプトにあう人がターゲットになります。

商品の選択基準 としては、省資源、低価格、シンプル、アノニマス(匿名性)、自然志向などを基準にするという特徴です。
コスパいい商品、シンプルなパッケージや形、自然素材、木のぬくもりなどが当てはまります。

2014年のライフスタイルの定点観測調査によると、女性の35%ぐらいがターゲットになりそうです。男性はちょっと少なめです。

CL4(自分の手の届く範囲で堅実一般層)
CL6(いいもの求める買い物上手)
CL9(家族思いの良識主婦)

行動特性としては、統一感のある生活(家具や雑貨、洋服など)を実現しようとするというのがありそうです。くらしの良品研究所内にある「IDEA PARK」のリクエスト欄をみると、シンプルな雑貨や素材にこだわった服が欲しいなどのコメントが多数あり、この行動特性は当てはまるのではないかと思います。

■3. メディアの目的

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大きく2つあると考えています。

1. 感じいい暮らしを実現したい人を集めること(客数UP)
2. 無印良品をもっと好きになってもらい、買う商品の種類や量を増やすこと(客単価UP、購買頻度UP)

1つ目は、何を買うか決まっていなくて、おすすめの商品を検索してから購入するような人にリーチして、無印良品の商品を知ってもらうことがメインになると思います。あるいは、twitterInstagramなどのSNSやアプリで発信して、知ってもらうことです。

ahrefsなどのツールや記事を見たところ、SEOはそこまで力を入れていないようなので、後者のSNS・アプリでの集客がメインとなっていると考えられます。

TwitterやInstagramはそれぞれフォロワーが69.3万人、262.4万人とかなりリーチできる人が多いです。Instagramはどちらかというと商品を買うことに貢献すると思われるので、くらしの良品研究所の流入にはそこまで貢献していないと思われます。twitterも記事に対するRT数やいいね数がそこまで多いわけではないのでInstagramと同様かなと思います。

2017 年 12 月時点ではダウンロード数が約 1,000 万件、アクティブユーザー数(MAU)も約 700 万人に達していて、アプリでの記事配信を通して、くらしの良品研究所へ流入している人が多そうです。

2つ目は、コミュニティサイトとしてメディアを運営することで実現しています。無印良品は特にこの2つ目に注力していると思います。

無印良品にマッチする人との関係性をさらに強くしていくために、顧客と一緒に商品を作り上げるコミュニティサイトまで作っているのです。

ここでは意見を投稿するとポイントがもらえるというメリットがあるだけではなく、自分の意見が反映されて商品が作られたかどうかまで可視化されるため、無印良品が好きな顧客にとってメリットばかりです。

■4. メディアの競合

くらしの良品研究所と直接的に競合になるメディアはないと思われます。

「ちょっといい暮らし=コスパのいい商品で暮らす」と考えると、ターゲットのメインが中所得者以下がメインとなります。そういったターゲット層に対して、暮らしに関わる商品全般を提供している企業は無印良品以外に目立った競合はなく、一部の商品群であれば「ユニクロ・GU(衣類)」「IKEA・ニトリ(家具)」が競合となります。

そういった競合に対して、無印良品は「コンセプトに合ったユーザーに販売する商品の種類や購入頻度を高める戦略」をとっており、「顧客との関係性構築」がより重要となっています。

それに対して、ユニクロやニトリは「”安い商品”をフックにより多くの商品を買ってもらう合計購入モデルで利益を上げる戦略」をとっていると考えられ、「顧客をあつめる」方が重要になってきます。そのため、競合は無印良品のようなメディア戦略をとっていないのではないかと考えています。

■5. メディアにおいて必要性が高いもの

1. 感じいい暮らしを実現したい人を集めること(客数UP)
2. 無印良品をもっと好きになってもらい、買う商品の種類や量を増やすこと(客単価UP、購買頻度UP)

2つのメディアの目的に合わせて考えます。

- 5-1. 感じいい暮らしを実現したい人を集めること(客数UP)

商品のこだわりや無印良品の世界観が伝わるコンテンツを配信することが必要になると思います。感じいい暮らしを実現したい人に刺さるコンテンツが必要です。

例えば、商品のこだわり、コスパの良さ、開発者の思い、おすすめポイントなど。

無印の「肩の負担を軽くするリュックサック」は、開発するにあたってユーザーアンケートやインタビューを通して、顧客の声を反映しながら試行錯誤して作った商品でかなりこだわりが強いものになっています。そういった商品の開発フローを事細かに記事にして発信しており、無印良品のこだわりがよく伝わってきます。

- 5-2. 無印良品をもっと好きになってもらい、買う商品の種類や量を増やすこと(客単価UP、購買頻度UP)

好意度を上げるために接触頻度を増やすことや、不満や要望に対して対応するといったことが必要だと思います。

前者は、無印の思いやこだわり、実現しらいライフスタイルなどが伝わる記事や、それを実現するための新商品の通知などを定期的に配信することで、単純接触効果でもっと好きになってもらうということです。

後者は、感じいい暮らしを実現したいと思っているユーザーの理想とのギャップを埋めていくことで、より無印良品を好きになってもらうということです。

コメント欄を見ると、「シンプルな〇〇も欲しい」「他の会社の〇〇はだめだ」みたいなコメントが集まっており、ユーザーの不満・要望が溜まってきています。

そういったのを回収する機能をメディアに搭載しているのは無印良品だけであり、感じいい暮らしを実現したい人は必然的に無印良品に不満・要望を投稿することになります。そして、実際にリクエストに応えて、商品を改善したり、商品を開発したりすることで、期待に応えています。

ユーザーの声から開発された商品はこちら

■6. メディアにおいて競合より優れているもの

「リクエスト・要望機能が他社よりも優れている」という部分が、競合との差別化を生んでいると思います。

これが実現できているのは、「そのユーザーの声を商品開発に反映させる仕組み」のおかげです。オウンドメディアでは完結しない部分に、優位性があるのです。

声を反映させる仕組みがなければ、声を聞いたところで、何も反映されず、ユーザーを裏切ってしまいます。これが怖くて手を出せない企業も多いと思います。この仕組みがあるから、開発状況を可視化し、オウンドメディア上で、ユーザーとの双方コミュニケーションをすることができているのです。

この仕組みを無印良品が実現できる理由は大きく2つ↓

「無印良品は仕組みが9割の会社であること」
「企業文化、企業のコンセプト・ビジョン」

無印はマニュアル化が進んでいる企業であり、この仕組みも社員が徹底して実行することができるのです。そのマニュアルが、ユーザーの声を聞き、それを商品開発に生かすまでのサイクルを全て含んでいるため、再現性良く継続して実現できています。

加えて、「他者の立場に立って、課題の解決を行う」という企業文化があり、ユーザーとの対話を重視する(会社としてのスタンス)から行動に移していけるのです。

以上のように、企業の内側の文化や会社の仕組みが重要な要素となっていて、模倣困難性が高いと考えられる。文化を作って浸透させるのに何年もかかりますし、そもそも文化には変数が多く、他社が事細かに知る術を持っていないということからも、模倣するのは難しいです。

■7. 今後改善していくべきポイント

今後もコア層を取り込んでいく戦略を強化していくのがいいのではないかと思います。

アップルに熱狂的なファンが多いように、シンプルには惹かれる人が多いと思います。そういった、シンプルな無印良品の良さを伸ばしていくべきだと思います。

今のオウンドでの大きな課題は、双方コミュニケーションの不足とズレにあると思います。

CX戦略をより強化していくために、

・返信まで1か月ぐらい(ステータスが変わっている)
・返信が人間味が薄い
・商品がユーザーの希望とずれている

といった問題を解消していく必要があると思います。

①双方向コミュニケーションの質を高めるために、まずは返信頻度を1か月→1週間にする。

・リクエストをLINEやアプリ(MUJIPASSPORT)と連携する
・一定の条件で連絡をとる設計をする。コミュニケーションにおける仕事を1週間あるいはそれ以下の時間でできるようにマニュアル化する。

②リクエストのコメントも「商品販売しました」というそっけない感じではなく、

・商品化したこと
・リクエストの何を反映し、何を反映しなかったのか、どんな工夫をしたのかを書き示す。
・加えて、その理由まで記す

細かいことではあるが、毎回のコミュニケーションを誠実にすることで顧客との関係性が作られていく。(行動が文化を作る)

③ユーザーの商品の希望とずれることもあるので、ヒアリングを行う仕組みを作る。

・開発着手が決まった際に、ヒアリングする(LINEやメールでコミュニケーションを取ってもいいかもしれない。)
・あるいは、聞きたい項目を整理したリクエストフォームを作る

細かく期待値の調整をしていくことで、ユーザーのリクエストに答えることができる。また、文面では読み取れなかった潜在的な欲求を知ることに繋がり、商品のヒットにつながると考えられる。

■最後に

今回は #マーケティングトレース のオウンドバージョンをしてみました。今後コンテンツマーケティングの知識を身につけていきたいと思っているので、定期的に調査をしていきたいと考えています。

他にも無印良品に関する記事を書いているので、興味がある方は是非ご覧になってください。

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■参考文献

(1) 無印良品のCRM戦略, 守口 剛(早稲田大学 商学学術院 教授), JAPAN MARKETING JOURNAL Vol.35 No.3(2016)

(2) 「CX戦略」だけが生む、お金では買えない企業アセットとは,

(3) 良品計画の川名部長が語る「消費者の共感」を生む無印良品のデジタルマーケティング, 

(4) 現代版「ハレとケ」にみるマーケティングの進化, 

(5) 顧客をつなぐMUJI passport「良品計画」


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