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発刊順:22 なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?

発刊順:22(1934年) なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?/田村隆一訳

なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?―男はこう言うと、身を震わせて息をひきとった。牧師の四男坊ボビィが、ゴルフの最中に崖下で瀕死の男を発見したのだ。事件は転落事故と断定された。ところが、数日後ボビィは何者かに大量のモルヒネを盛られた。九死に一生を得たボビィの心当たりといえば、ゴルフ場の転落事故しかない。あの男が言い残した言葉にどんな意味があるのだ?かくしてボビィは、幼馴染のおてんば伯爵令嬢フランキーと、無鉄砲にも探偵稼業を始めた…若き男女のユーモア溢れる縦横無尽の活躍を描く冒険推理。

ハヤカワ・ミステリ文庫の裏表紙より


なんてワクワクするタイトルだろう。
ゴルフを楽しんでいたボビィが、崖から落ちて倒れている人を見つけ、
その人物の死に際の言葉なのだ。
その言葉を聞いたばかりにボビィは命を狙われ、毒殺されそうになる。
病院に駆け付けた幼馴染みの伯爵令嬢のフランキー。
牧師の4男坊である、人は良いがちょっと抜けているボビィに対し、
美貌のフランキーはひらめきと抜群の行動力があり、まるで身分違いのトミー&タペンスのようだ。
 
ボビィにしても、

彼は年のころ27,8歳、好感のもてる顔立ちの青年だった。どんなに仲のよい友人でも、ハンサムだとは、お義理にもいえない顔だったが、ひどく人好きがするのだ。彼の目はまるで犬の目のような褐色をおびて、正直そうな人なつこさをたたえていた。

本文より

と、冒頭から主人公に魅力を感じるように描かれている。決してイケメンではないが…。
 
トミー&タペンスの「秘密機関」は冒険スリラー的だったが、今作は殺人事件を扱っていてしっかりとしたミステリである。
 
真犯人は初期の頃に書いていたような仕掛けがあったり、途中からこの人見かけと違って怪しさ満点…と気づくところもあったが、一番の謎である「エヴァンズ」の正体が終盤までわからないまま進むのだ。
フランキーも、「私たち、まだエヴァンズが誰なのかわかっていないのよ~」と言う場面など、とてもコミカル。
 
そもそも、ボビィはただ崖から落ちた人を見つけただけなのに、なぜ命を狙われたのか…ラストには驚きの仕掛けもあり、工夫が凝らされた作品です。


HM1-62 昭和62年10月 第8刷版
2022年5月11日読了

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