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発刊順:67 死への旅

発刊順:67(1954年) 死への旅/高橋豊訳

東西の冷戦下の西側陣営において各国の重要な科学者、医師、弁護士などが次々と謎の失踪を遂げていた。そしていま、ZE核分裂という新しい原子力に目ざましい成果をおさめた科学者ベタートンが行方を絶った。どこへ消えたのか。共産国側の仕業なのか―色を失ったイギリス情報部は必死の捜索を開始し、やがてベタートン夫人に瓜二つの赤毛の女性が身代わりのスパイとなって、極秘裡に未知の目的地へと潜入する。しかし最終目的地はどこにあり、そこでは何が彼女を待ち受けているのか?

ハヤカワ・ミステリ文庫の裏表紙より


裏表紙に「本格物をまさるとも劣らぬ女史会心のスパイ・スリラー」とあるが、それ・・・ほんと?
 
本格物といわれるスパイ・スリラーを読んだことがないので、私には比較するのは難しい。だが、この作品、スパイは確かに出てくるが、スリラーというような展開が途中からトーンダウンしてしまう。
 
自殺願望を持ったヒラリーは、いくつもの薬局をめぐって睡眠薬を手に入れる。偶然居合わせたイギリス諜報部員のジェソップは、ヒラリーの行動から自殺しようとしていることに気づき、説得したうえで、ある任務へ誘う。
それは失踪した科学者の妻オリーブになりすまし、旅をするというものだ。
旅先で出会う人々、見知らぬ異国での体験、高揚感はクリスティーの得意とする描写でそれなりに楽しめる。
 
だが、旅の目的もわからず、到着した「秘密の建物の中」で軟禁されてからラストまで、ほぼ冒険やスリルという味わいがなく、主人公が何するわけでもなく事件は解決する。
 
自殺を企てようとするほどの落ち込みは、与えられた任務を遂行して行動すると瞬く間に生きる意欲へと変容し、「心理的な葛藤」はかなり端折られている。

なので、ラストにはちょっとしたロマンスのハッピーエンドが待っているのだが、それほど盛り上がることもなく読み終えました。


HM1-24 昭和54年1月 第3刷版
2023年4月23日読了

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