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発刊順:12 牧師館の殺人

発刊順:12(1930年) 牧師館の殺人/田村隆一訳

閑静な小村セント・メアリ・ミードで殺人事件が発生した。しかも、場所はこともあろうに牧師館の書斎―旧弊で頑固な村の治安判事が、射殺死体となって発見されたのだ。やがて、犯人とされる若い画家が警察に自首したことから、簡単に解決すると思われたが…遺留品やアリバイから新事実が発見されるに及び事件は意外な展開を見せ始め、村は混乱に包まれていった。
この作品で初登場した詮索好きでおしゃべりな老嬢、ミス・マープルは、持ち前の深い洞察力と炯眼で事件の真相へと迫っていく。

ハヤカワ・ミステリ文庫の裏表紙より


ミス・マープルがここにきてようやく登場。
とはいえ、初マープルものの語りは牧師さんで、マープルは村の噂好きでなんでも知っている一老嬢という立ち位置で、出番も少な目なのでそれほど存在感はない。
 
牧師さんの、心の中でいろいろツッコミを入れるところは、クリスティーお得意のユーモアが発揮されていて笑えます。
 
また、この牧師さん、人をいろいろと観察もしていて、登場人物の一人であるレストレインジ夫人について、 

じっとしているときの顔には、なんとなくスフィンクスのような雰囲気があり、しかも、こんなに変わった眼は見たことがない―ほぼ金色なのだ。

本文より

とある。
スフィンクスのような…なんて、とてもクリスティーらしい描写だ。
この頃には、マローワン氏と出会って再婚するあたりなので、
中東やエジプトに関するワードが出てくるのだなぁ。
 
牧師は語る。

「いいかい、きみ。きみは村の暮らしの中に潜んでいる、何かを探り出そうとする本能を過小評価しているんだ。セント・メアリ・ミードでは、誰も彼もがきわめて個人的なことまですっかり知っているんだよ。時間を持てあましているオールド・ミスに匹敵するような探偵はイギリスにはいやしないんだからね」

その他にも、いやらしいほど、しかもほんとうに意味もなく不作法なスラック警部とのやりとりとか、随所に面白い箇所があって、コメディタッチなミステリを楽しんで書いたのでは…と思ったら、

「『牧師館の殺人』は1930年に出版されたが、どこで、いつ、どうやって書いたのか思い出せないし、どういうことからこれを書くことになったのか、新しい人物―ミス・マープルを起用し、この物語の中で探偵として活躍させることを思いついたのかさえも、思い出せない」

クリスティーの自伝より

そうなの?
記憶がまったくないなんて…。
最初は「ミス・マープル」というキャラを主役にするつもりはまったくなくて、たまたま読者の反応が良く、後々シリーズ化されたのでしょうか。
後にはポアロよりもマープルの方に愛着を感じていたそうです。


HM1-35 昭和58年9月 第6刷版
2022年3月3日読了


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