衝撃の再会。いとしのチャリー in オランダ
アムステルダムに住んでいた5年前。
Marktplaatsというセカンドハンド販売サイトで購入したレトロバイク、koga-miyakeちゃん。120ユーロだったかな。
自転車に詳しいわけではないが、とにかく気に入っていた。
そんな、いとしのチャリとの出会いから別れ、衝撃の再会までのお話だ。
出会い
販売者は、閑静な住宅街に住むおじいさんだった。奥さんとペアで25年前に購入して、世界中の国をこの自転車と一緒に旅をしたそう。わたしが買ったのは奥さんのもの。二人ともご高齢で乗れないから、手放そうということになったらしい。
丁寧に扱っていたため、25年間という長い道のりを駆けて、なおこの美しさ。色合いといい、このレトロ感。たまらない。タイヤは比較的新しかったので、乗り心地もよかった。オランダでは小柄な158cmというわたしの背丈にも合っていたので申し分なし。というか、わたしのサイズで気にいる自転車にはなかなか出会えないので、貴重な自転車だった。
狂気的なオランダの自転車事情
引き渡しの際、前オーナーは「外に駐輪する時は、必ず街灯やガードレールに固定して施錠しなさい。じゃないと、30秒で盗まれるからね」と言った。
これが、あながち冗談でもない。オランダの自転車事情は日本のものとは少し異なるので、少し説明しよう。
まず、ここオランダでは、多くの人が自転車に乗ると、狂う。
とくに、アムステルダムで気を抜いて歩いてはならない。なぜなら暴走自転車に轢かれてしまうからだ。自転車はライダーの性格を変えてしまうのか。普段、穏やかなオランダ人が狂気の速度で自転車道を飛ばしてくるのだ。ショッピング街で、知らずに自転車専用道路を♪のほほん♪と歩いてしまう観光客がいる。信号待ちから解放されたオランダチャリ軍団が、「そこまでお腹から声を出さなくても...」とこちらが引くくらい大きな声で、のほほん観光客に罵声を浴びせる。実際、観光客がルールを破っているので、悪いのだが、怒られ度が割りに合わない。
数年前、初めてオランダに遊びにきた母は、そのスピードに恐れ慄いていた。うっかり自転車専用道路を歩いていたと気づいた時には、「きゃっ」と生娘のような可愛い叫び声を上げて、クノイチのごとくひるがえり、歩道に飛び移っていた。還暦オーバーとは思えぬ身のこなしに、腹筋が痙攣するほど笑ったのを覚えている。
そして、オランダ自転車事情を語る上で避けて通れないのが、
自転車の盗難だ。
オランダは比較的安全に暮らせる国だが、自転車の盗難は日常茶飯事だ。オランダで最も遭遇しやすい犯罪と言っていいだろう。自転車の盗難に遭ったことがない人はいないのではないかと思うくらい。
オランダは自転車所有率世界一位の国だ。1700万人の人口に対して、所有されている自転車の数は2200万という。一人1.3台所有しているという計算になる。自転車であふれ返っている国だ。当然、人口には幼児や老人など自転車に乗れない人も含まれているので、感覚で言えば、自転車所有者一人あたりの所有台数はもっと多い。一人2、3台持っていても驚かない。
そのため、盗まれる機会も多くなる。そして、盗まれては、また買う、という負のループ。
盗まれた自転車は、オンラインや路上で販売されたり、中古ショップに売られたり。
新品を買うと狙われやすいので、中古で買う人がほとんど。そのため、中古自転車はよく売れる。また、どれだけボロくても、最低価格が50ユーロと割と高額なので、いい商売なのだ。
別れ
アムステルダムを離れ、2年半ほど前に越してきたオランダ南部の、愛する我が街で事件は起こる。
ある日、同棲中のオランダ人彼氏が自転車を貸してほしい言うので、当然快諾。彼はロードバイクと普段使いのママチャリを2台所有していたのだが、ママチャリの方は御多分に漏れず、盗まれてしまっていたのだ。それ以来、彼はわたしの自転車を使うことが通例となっていた。
自転車を貸してから、数日後、徒歩5分ほどのスーパーに買い物に行く際、いつも自転車を停めている駐輪スポットを横切った。何か違和感を感じたので、よく見てみると、
「あれ、わたしの自転車がない...?」
少し胸はざわついた。けれど、彼は、もともと物を同じところに戻すという習慣が希薄(要は片付けが苦手なタイプ)なので、「違うスポットに駐輪したのかな」と思うことにした。
帰宅後、彼に「わたしの自転車がいつものところになかったけど、どこに駐輪したの?」と聞いてみたところ、「え、いつものところに停めたよ」と返ってきた。
え........マジ?
よくよく話を聞くと、
・いつものスポットに停めたけど、他の自転車がたくさんあったから、ガードレールに固定できず、自転車単独で施錠した
・そういえば、駐輪場所の前にある川(カナル)で、浮いてる自転車を見た気がする
と言う。
オランダでは、酔っぱいが自転車をカナルに投げ入れるという笑えないイタズラも多いそうだ。
いや、絶対それやん!
「ようよう、彼氏さんよう。あんたオランダ人やろ。ガードレールに固定せなあかんのんくらい、わかってるんちゃいまんのん?もし、チャリ多くてガードレールに固定できひんかったんやったら、翌朝にでも施錠しに行くとかせなあかんやん。人に借りたもんなんやから、余分に注意払わな。」とわたしの関西Soulが震えた。
再会
どこかで奇跡を信じたい気持ちがあり、例の駐輪スポットを見るたびに、いとしのチャリーの面影を探していた。新しく自転車を買った後でも、未練がましく。
1年ほど時は過ぎ、なんと先週、衝撃の再会を果たしたのだ!
じゃじゃん
水揚げされていた。
オランダでは、川に投げ入れられる自転車が多過ぎて、定期的に水揚げ作業が行われるのだ。
嗚呼、、、変わり果てた姿に...
わたしのチャリを投げ捨てた酔っ払いには腹が立つし、うっかり者の彼氏には呆れるし、大切に乗ってこられた前オーナーには申し訳ないし、変わり果てた姿の可哀想なチャリーには悲しいし。それぞれに思うところはあるけれど、
いろんな感情を、なぜかふんわり安堵感が包み込んだ。
とりあえず、
おかえり、わたしのチャリ。
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