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旧約聖書のヘブライ語を学ぶための教科書

はじめに

前回のギリシャ語の記事をご覧いただいた方ありがとうございました。ヘブライ語の教科書についても同じような話をさせていただこうと思いますが、この記事だけ読んでいる方のことも考慮して、重複するような話も書きますのでご了承ください。

私は牧師でも神学者でもない一趣味人としてヘブライ語の勉強をしています。それでもいくらか皆さんと情報を共有してお役に立てればと思って記事を書いています。もし、この記事を読んでヘブライ語の勉強を始めたいと思われる方があれば幸いです。

はじめの一冊

谷内意咲『今日から読めるヘブライ語』

さて、ヘブライ語はギリシャ語と比べ、日本人にとって圧倒的に「文字」へのハードルが高い言語です。英語の義務教育やギリシャ文字を目にする機会などによって「アルファ」「ベータ」といったギリシャ文字にはみなさん触れたことがあるでしょうが、「アレフ(א)」「ベート(ב)」といった文字は生まれてこの方見たことがないと言われても仕方ないかもしれません。

そういうわけで、初級文法の本を一冊取り掛かろうというときに、「まだ文字を覚え切れてないのに、授業が先に進んでしまってモチベーションが保てない!」ということがよく見受けられます。この悲劇を避けるために書かれたかわかりませんが、この『今日から読めるヘブライ語』はヘブライ文字(子音と母音)に親しんで、気の長い話になるかもしれないが挫折しないで勉強したい!という人のニーズによく応えていると思います。

逆に、多くの外国語を学ばれているような方には物足りない本かもしれません。

日本ヘブライ文化協会『ヘブライ語入門』(以前は、「キリスト聖書塾」の名前で出ていました)

一冊で初級文法をきっちり終えることについていえばこの本は大変便利です。少し、「聖書ヘブライ語」と「現代ヘブライ語」の話をしましょう。

いわゆる旧約聖書はヘブライ語(この時期のものを聖書ヘブライ語と呼んだりします)で書かれましたが、口語としてのヘブライ語はかなり早い段階(2,3世紀?)で使われなくなってしまいました。しかしユダヤ人は礼拝の中で、あるいは学術的宗教的記述の中ではヘブライ語を保存しており、口語としてもこの100年ほどで復活しました。現在のイスラエルでもこのヘブライ語が話されています。こちらを現代ヘブライ語と読んでいます。

2000年ほど経った割りには断絶があるせいで、他の言語ほど聖書の時期と現在のヘブライ語の隔たりはありません。とはいえ独自の文法解説が必要ですので、教科書は聖書ヘブライ語と現代ヘブライ語で分かれていることが多いです。

しかし、このヘブライ語入門は最初現代ヘブライ語を解説し、最後の方で聖書ヘブライ語の読解に必要な知識を補うという形をとっています。現代人にとってこの学び方には一定のやりやすさがあるようです。

というのも、現代の言語であれば、文例や音声などの教材が豊富だからです。聖書ヘブライ語の話をするとき、どうしても網羅的な話をするときには理論的な推測によって復元された変化形などが書かれたり、あるいは擬古文としての作文が必要になってきますが、かなり不自由します。その点、基本的な部分を現代ヘブライ語で勉強すればそのような制限はありません。

もちろん、両者には時制の使い方や語彙の変化など無視できない違いがありますが、この本の利点は読んでみると実感いただけるでしょう。

そうは言っても別個で勉強したい人もいるでしょう。みなさん大好きニューエクスプレスからも両方出ているのでぜひ。

Thomas O.Lambdin "Introduction to Biblical Hebrew"

最初からきっちり聖書ヘブライ語に焦点を置いて勉強したい人は(あるいはドMな人は)こちらをどうぞ。かなり詳しく正確な説明を最初から提供してくれます。

次の一冊

Paul Joüon, T. Muraoka(村岡崇光) "A Grammar of Biblical Hebrew"

もとフランス語の本の村岡による英訳です。非常に重厚ですが、大抵のことは書いてあります。形態論が詳しいです。

聖書ヘブライ語の時制の概念は一筋縄では行かないところがあり、初級文法では全然おっつかないので、原文を読んでとりあえず何形か言えるようになったらこの辺を読んで理解を深めましょう。

というか時制だけでなくて色々無理です。この本をすぐ買いましょう。

もう一冊

Geseniusのヘブライ語文法はこの分野の古典になっております。紙で持っていなくてもいいですが色々考えたくなったらぜひ参照しましょう。Joüon-Muraokaと併用することになるでしょう。

辞書

ヘブライ文化協会の文法書を買った人はこれを買いましょう。セットになっている説明も多いです。

この本の利点は、巻末の活用表にあります。なんと言っても不規則な活用の多いヘブライ語ですが、ほとんどの活用はここに網羅されています。現代ヘブライ語の語彙に興味のない人でもちらっと見てみるといいでしょう。

ところで、聖書の語彙をこの辞書でカバーすることはできません。八割がたの単語は現代ヘブライ語にも残っていますが、意味の変わっているものもありますし、原文講読には歯がたちません。

聖書ヘブライ語の辞書はこのBDBと呼ばれるものがスタンダードでしょう。ただ、単語の語根と呼ばれる文字列がわからないとこの辞書は引けないのでよく文法書を読んでください。

後述のHALOTのconcise版です。あまりじっくりやるのには役に立ちませんが、これは単語をそのまま検索できます。

HALOTと呼ばれるクッソ分厚い辞書です。BDBと併用することになります。紙のものがどうやって手に入るか微妙なところですが、いろんな電子版があるのでそちらも考慮してください。私はAccordance Bible Softwareで購入しました。

אבן ששן(even shoshan)が作った辞書はヘブライ語の歴史辞書と呼ばれる範疇のもので最も有名な部類に入ると思われますが、なんとMacOSのデフォルト辞書に入っています!Macユーザーはいますぐ設定から辞書に追加しましょう。そして豊富な説明をヘブライ語で読むためにやはり現代ヘブライ語を勉強するのが聖書ヘブライ語の勉強にとっても実は近道だというオチに脱力してください(笑)

聖書ヘブライ語bot(2021/7/5追記)

拙作の、旧約聖書に出てくるヘブライ語botです。1日2単語ずつ、旧約聖書に出てくる数の多い順に紹介しています。よかったらフォローしてください。

YouTube; クミのヘブライ語講座(2021/9/27追記)

こちらも拙作のヘブライ語講座です。よろしければご活用ください。

私の勉強法

さて、私個人がどういう風に勉強してきたかをご紹介しますが、特にこの勉強法でうまくいったのか評価する術がありませんので、みなさんはご自身のやり方を見つけてください。

初級ヘブライ語の授業は半年間わりと真面目に出席して単位を取りました。教科書はヘブライ文化協会の文法書と辞書でした。文法書は半分くらい読みました。しばらくしてLambdinを買いましたが、読み切らないで、例によって原典購読をしようと思い創世記を訳読していました。創世記は10章くらいは読んだ気がしますがそのくらいでやめました。わからない文法はGeseniusを読んで補いました。辞書はもっぱらBDBでした。

だんだんヘブライ語はギリシャ語よりも長く険しい道のりだと分かりましたので、丸暗記と朗読をいくつかしました。

このサイトで聖書の朗読音声を聞くことができます。創世記の冒頭や詩篇をいくつか暗誦し、発音をこれに習って練習しました。活用や語彙の基本はこうやって覚えました。ヘブライ語の活用表を理屈なしで覚えるのはかなりきついです。

礼拝でも旧約を開く機会は新約に比べて少なかったり、預言書などは難解でとても言語の勉強として取り組めるものではありませんでした。それでも興味のある箇所を少しずつ訳して、Joüon-Muraokaを買い、HALOTを揃えました。

結局、旧約聖書の読解は注解書を片手に進むしかないと思い、ICCを見ながら創世記の私訳作りを始めました。今20章くらいまで訳してあります。聖書ヘブライ語の解釈は聖書解釈と密接に関わっており、同時に文法面からの精査が不可欠で、なかなか進みませんが、この形でJoüon-Muraokaがいくらか読み進められているのが自分のためになっていると感じています。

たまにどうにもよくわからないところがあると注解書の助けを借りながらeven shoshanの歴史辞書やイブンエズラの注解などに目を通します。大体の場合もっとその箇所のことが分からなくなるという本末転倒のような気もしますが、つまりこれがヘブライ語の勉強なのだと思います。勉強すれば何か分かるなどというのは幻想なのだと思います。

ヘブライ語の注解や辞書を読むためにはヘブライ文化協会の辞書でも足りないときがあります。現代ヘブライ語の辞書として一個補足でリンクを足しておきます。

終わりに

ヘブライ語の勉強を始めたい人を私は応援します。ぜひ聖書をヘブライ語で読む楽しみを味わってください。蛇足ですが、私はギリシャ語よりヘブライ語が好きだと思っているのですがヘブライ語の方がわからないという自覚で今日も勉強しています。

質問などあればコメントやTwitter@tabitha_kumi マシュマロなどでどうぞ。

羊たちの夕べチャンネルもよろしくお願いします。遊びにきてね。

追記

ヘブライ語の文字で詰まってる人は拙作のアプリをよければどうぞ


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