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こんな構成の小説って他にもあるの?恩田陸「灰の劇場」を読んで感じたこと。

「恩田陸」作品を初めて手にしたのは、半年ほど前の2023年9月。

本屋に行く度に表紙が気になっていた「スキマワラシ」という作品。

廃墟の上に麦わら帽子被った女の子が虫取り網を持って佇んでいる表紙。ずっと読んでいたいというほど、そのノスタルジックな空気に魅了された。

そして、次に読んだのが直木賞を受賞した「蜜蜂と遠雷」。

ピアノコンクールに挑む4人の人物を中心とした物語。音楽が聴こえてくるほどの、その表現力に魅了され、この物語もまた、ずっと読んでいたいと感じさせれた。「蜜蜂と遠雷」を読み終わったのは2024年の2月。

その2月に「灰の劇場」という文庫本が発売されると聞いた。まだ「夜のピクニック」や「六番目の小夜子」を読んでいなかったけど、最新の恩田陸作品を読みたくて、発売後すぐに購入した。

挑戦的な構成

本の帯には「始まりは、『三面記事』。”事実に基づく物語”、開幕」と書かれていて、ミステリー?サスペンス?かなと思いながら読み進めた。

しかし、最初の数十ページで、異変に気が付いた。「あれ?これまで読んできた小説と違う」と。明らかに違う。「?」が頭の中でずっと浮かびながら読み進めていた。

これは小説なのか?
エッセイ?
いや、やっぱり小説?
どの目線で見たらいいんだ?

自分のいる場所がわからなくなっていた。まるで本の中で迷子になっているようだ。一体何を読んでいるんだろう?と。

私は小説を読むときには、登場人物と一緒にそこにいるような光景が頭に浮かぶ。今まで読んだ恩田陸作品も、主人公を後ろから見つめるようにして一緒に物語を進んでいるような感覚があった。

しかし、この作品では自分のいる場所がわからず混乱してしまった。

「いまこの小説の中で何が起こっているんだ?」と思いながら読み進めていくうちに、なぜこのような構成になっているのかが少しずつ理解できるようになった。

そのあたりからは、あっという間に残り200ページほどを読み切った。これまでの作品は「ずっと読んでいたい」という気持ちだったが、この作品では展開が気になり「早く読み切ってしまいたい」という気持ちになった。

長い時間をかけて、味わいながら読むのではなく、一気に読みきってしまいたいと思ったのは初めてだった。

挑戦するエネルギー

私が知らないだけなのかもしれないが、この手の小説は他に存在するのだろうか?

私がこれまで読んできた小説の中には、このようなものはなかった。

多くの名作を生み出してきたにも関わらず、このような挑戦的(たぶん)な作品を生み出すことは、きっと多くのエネルギーが必要だと思う。

いや、逆にこのような挑戦ができるからこそ、名作を生み出し続けることができているのかもしれない。

最後に

読み始めこそ「混乱」はしたが、この小説には、作者の悩みや考え、作者の感覚など、「産みの苦しみ」と呼ばれるものが多く描かれていたように思う。

読んでいるうちに、作者の頭の中を覗いているような感覚になり「産みの苦しみ」が伝わってくる。小説はこのように創られていくのか、と。

なぜこんなにも多くの名作を生み出すことができるのか、この「灰の劇場」を通して、少し理解できたような気がした。

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