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「ベトナムの田舎でスケボーなんて乗れやしない」

世界一周62日目(8/29)

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昼過ぎにオープンバスはホイアンのバスターミナルに到着した。

周りの旅行者たちはターミナルで待ち構えていたバイタクやタクシーに連れられて自分たちの予約した宿へ散っていった。


ターミナルに一人残された僕はとりあえずベンチに腰を下ろし、タバコを一本吸ったあと、ギターが壊れていないか確かめるために数曲弾いた。

客引きのおっちゃんたちはあらかた勝負を決め終え、運転手といっしょにベンチに座ってくつろいでいる。

さっきまでターゲットを僕に絞っていたバイタクのおっちゃんの話では「街の中心地までけっこうあるぞ!おれが連れてってやる!チープ!チープ!」らしい。

オフラインのマップからして歩けない距離じゃないと思うんだよな。

バスの運転手さんに宿のかたまっている場所を聞き出し僕は重たいバックパックを背負ってホイアンの路上に出た。


この街はどこかのどやかな空気が流れる。

夏の太陽が照りつける中、子供たちは校庭ではしゃぎ、露天のおばちゃんたちは木陰でおしゃべりをし、バイタクのおっちゃんたちは暇そうにタバコを吹かす。

目測通り、宿は近い場所にあった。もはやベトナムのふっかけ具合に可愛さすら感じなくもない。決して油断してるわけじゃないけど、手口が分かっていればある程度対策も立てられるし、彼らとのやりとりにも余裕が出てくる。

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中国で馴染みがあったユースホステルの看板を見つけて僕はチェックインした。

一晩6ドル。ユース会員は朝に無料のコーヒーが飲める。

自分に割り当てられたベッドの脇に荷物を置いた後、ためこんだ洗濯物をシャワーを浴びるついでに洗濯した。僕はいつもシャワーを浴びる時に洗濯をするのだ。さて、このホステルに屋上はあるのだろうか?

「洗濯物干したいんだけど、屋上へはどうやっていけばいいのかなぁ?」僕は宿のおばちゃんに尋ねた。
「?そんなもんなわいよ」面倒くさそうにおばちゃんは言う。
オイオイ。こんな天気がいいのに室内干しかよ?

僕は洗濯物をScrubba Wash Bagに入れ、どこか干すのに最適な場所を探した。

見つけたのは貸し自転車場だった。ここなら乾くだろう。だが、洗濯物をそのままにして町歩きに出ることに抵抗があった。もしこれで衣類が盗まれてしまったらどうしよう?

3年前に初めての海外旅行で行ったインドを思い出す。安宿の屋上の日陰で欧米人が本を読みながら洗濯物が乾くのを待っていたシーンを僕は思い出した。これも旅の一コマだよな。僕は洗濯物を柵にかけたあと、パラソルの下に腰をおろした。向かいにはちょっとリッチなホテルがあり、旅行者が楽しそうに出入りしている。そんな彼らを横目に僕は何をするでもなくただ、ぼうっとしていた。

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「暑い…」

太陽に照りつけられ熱を帯びたコンクリートは僕のおしりを蒸らす。

洗濯物番ってほんとヒマだな...。この暑さじゃ本読む気にもなれい。
宿に戻りギターを持ってくるとバイクの走行音にかき消されながらも
練習をした。

「てかヒマだな...。
ベトナムに来てまで何やってるんだろう?ノービザで15日間の滞在っていうリミットもあるのにここで何もせず、ただぼうっとしてていいのか?これで一日終わっちゃうのすげえもったいないぞ?」

1時間半もすると空には大きな雲が群れをなし洗濯物に太陽が届かなくなった。僕は諦めて生乾きの洗濯物を両手に抱えドミトリーの絶妙なとっかかりに紐を通し、洗濯物を掛けた後町歩きをすることにした。

僕はインドの欧米人のように時間を贅沢には使えない。せっかちで多動症気味なのだ。



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ベトナムに来てからそれまで邪魔でしょうがなかったPennyBoardを使う機会が増えた。バイクだらけのこの国では道路がある程度舗装されているのでスケボーで街を移動することができる。

どんな国にもスケートボーダーはいるけどスケボーで移動している旅人なんて今のところ会ったことがない。僕がホイアンの街をPennyで駆けるとみんな面白そうに見てくる。僕は笑顔で返す。

途中スコールに遭ったので近くのフォーの屋台で早めの夕食を食べたあと、雨が弱まるのを見計らって町歩きを再開した。


川を渡ると、いっそうのどかな場所に辿り着いた。

イメージしていたベトナム。ココナッツやバナナの木が生える中、田んぼが広がる。夕陽が先程のスコールでできた大きな水たまりに反射して煌く。目の前に広がる全てが綺麗だった。

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『なんかー...、いいな...。みんなこれを見て、ホイアンが好きになるのかもな』

そんな風にのんびり構えていたらあっという間に日が暮れた。ここでは電灯も少なくまばらで民家の明かりも木々に遮られて通りが薄暗い。そして村のはずれにいる僕。

夜になるのを待っていましたとばかりに吠えだす犬。ベトナムの犬たちは小型犬くらいのサイズで愛嬌のあるヤツらばっかりなんだけど、暗い夜道で道端で遭遇するとマジで怖い。ていうか狂犬病怖い!

あれでしょ?予防接種接種してても24時間以内に病院でワクチン打ってもらわないとアウトなんでしょ?犬怖ええええええええ!!!

僕はオフラインのマップを頼りに命からがらベトナムの集落から逃げ出した。途中なんて、もう走ってたよね。
「やおおおぉおい!やおいっ!」とか言って生田高校ハンドボール部のかけ声で恐怖をぬぐい去る。

「ヘイ!モーターサイコォ!チープ!」
うさんくさそうなおっちゃんが僕と並走してふっかけてくる。客引きがいるんだ。ここまでくれば安心だろう。泥水がたまるデコボコ道から舗装された道に入った。

「I CAN RUN!!!」
体育会系の精神でバイタクの誘惑を振り切り

残された自分の先には道路が延々と続いていた。

右手に抱えたPennyが重い。ベトナムの夜は長い。



現在、自作キャンピングカー「モバイルハウス」で日本を旅しながら漫画製作を続けております。 サポートしていただけると僕とマトリョーシカさん(彼女)の食事がちょっとだけ豊かになります。 Kindleでも漫画を販売しておりますのでどうぞそちらもよろしくお願いします。