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「パーイの温泉へ」

世界一周129日目(11/4)

インドビザの申請でパスポートがない僕はバイクが借りられない。パーイの町自体は歩いてまわれるほど小さく、ちょっと外へ出るためにはバイクか自転車しかない。それかモーターサイ(バイタク)を使うかだ。僕の選んだ選択肢はもちろん“自転車"だった。目的地は7キロ離れた「ホット・スプリング」。パーイには温泉があるのだ。

ルアンパバーンで30キロの道のりを半分壊れた自転車で往復した僕にとっちゃあ7キロなんて近所のコンビニへ行く様なものだ。僕はパーイのレンタルバイクに自転車を借りて(50バーツ/164yen)漕ぎ出した。

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この町も観光地化した中心地からちょっと離れると景色ががらっと変わった。ゆったりくつろげるリゾートを売りにしたゲストハウスの看板は見かけるのだが、看板のポップさを別にすればタイの田舎を感じる事ができる。
景色が綺麗だ。アクションを起こさないと見れない景色もあるのだ。

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ルアンパバーンに比べたら温泉までの道はなだらかだった。
景色を楽しみながら自転車を漕いだ。

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写真を撮りながら40分そこらで温泉に辿り着いた。

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こじんまりとした温泉から湯気が立ち上っているのが見えた。温泉と聞いてイメージしていたのは日本の共同温泉のような場所だった。そこにあった温泉は脱衣所はなく、360°オープンのものだった。入っているとこ丸見えじゃないか。タイの温泉なんてそんなものなのだろうか?

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お昼前ということもあり温泉に浸かっている人の姿は見えなかった。
僕は受付に自転車を置いて入場料がいくらかブースの中でヒマそうにしているおばちゃんに尋ねた。「200バーツ(631yen)」とおばちゃんは事務的に応えた。

このしょっぱい温泉が!!?えっ!?うそでしょ?こんな外から丸見えのちっさな温泉の入湯料に600円も取るなんて!僕は「この温泉が!?」と指をさして訊き返したところ、おばちゃんは「フリー!」と答えた。意味がよくわからない。
「でもこっちは200バーツだ」とおばちゃんは言う。
なるほど。奥のエリアに入るためには入場料が必要みたいだ。

そうだよな。こんな地元感溢れる温泉はタダで入らせてくれてもいいよな。やっぱタイはオープンだぜ。肩まで浸かれそうにはないけど、半身浴みたいにして旅の疲れを癒そうではないか。
妙に納得した僕は上着を脱いで、荷物をまとめ、既に穿いてきたパタゴニアの水着のまま僕は温泉に両足を入れた。


「だぁあああああああっっっちぃぃぃぃいいい〜〜!!!」


僕は反射的に温泉から足を引き抜いて日本語でシャウトした。感覚としては「じゅっ...」という感じ。そんな僕を見ておばちゃんは爆笑している。湯気の立ち上る温泉は死ぬほど熱い熱湯だった。英語の喋れるスタッフが出てきて「ホスピタル?」とか訊いてくる。うう...両足が痛い...病院に行くほどではないが痛さでしばらくその場から動けなかった。おばちゃんは「ノー!ノー!」と言って僕が入った熱湯温泉を指さす。

「ちょっと!おばちゃん!さっき『フリー!』って言ったじゃないか!」
「ノー!『フリー!』See(シー)!」
いや!確かにおばちゃんは「Free」と言っていた!なに「見るだけ」とかぬかしとるんじゃ!誰が温泉見るだけにここまで来るか!それに、そこは「LOOK」だろ!
メガネをはずしていたのでよく見えなかったが、看板にはしっかりと「NO ENTRANCE」と書かれていた。時既に遅しとはこのことだ。

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僕が熱湯風呂に直行してしまったのにはいくつか原因がある。

ひとつはアローさんのところで見た日本人のレビューノートに「温泉と呼べるほど熱くなかった」と書いてあったこと。そしてもうひとつは入場料を払う段階でおばちゃんが曖昧なことを言ったこと。

ここまで来て引き下がってなるものか!僕は火傷した足をノソノソと引きずり入浴可能な温泉へと向かった。

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途中に流れる川でひとまず足を冷やそうと思ったのだが流れているのも温泉だった。敷地内を進むとばっちし人が入れるような温泉が整備されていた。僕は今度こそと温泉に足を入れたのだが、火傷した足は温度を敏感に感じてしまうため痛さで10秒も浸かっていることができない。そんな温泉を目の前にして入れないなんてあるかよ...。
そこで僕が編み出した入浴方法は「足をへりにかけて浮力に任せて浮く」というなんとも変な入浴方法だった。

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温泉に浸かっていると外の音は全く聞こえなくなった。

聞こえるのは自分の呼吸の音と心臓の鼓動だけ。「どっどっ...」と繰り返される音に耳を傾けながらはしばらく温泉に浮かんで空を眺めていた。いつもとは違う感覚をちょっと新鮮に感じて僕は温泉を後にした。


帰りはオシャレな雑貨屋さんに入っていつもなら絶対に注文しない様なジンジャー・レモンティーを飲んだ。

「ま、いっか」

今日一日の中では、この雑貨屋さんを見つけられたことが一番嬉しかった。観光地には時々ずば抜けて居心地がいいお店がある。そんな場所に巡り会えた時には幸せな気持ちになる。

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今日もバスキング(路上パフォーマンス)をすることにした。

バスキングを始める時刻は昨日よりも早めにしてみた。三日間も同じ場所でバスキングするなんてあつかましいよなあと思いつつもギターをケースから取り出し弦を鳴らす。
僕がここでギターを弾いているのは「ある人」と待ち合わせをしているからだ。なにやら僕のどマイナーなブログを読んでくれているらしい。「今日、パーイに到着したそうなので会いませんか」とメールをいただいたのだ。僕は相手の顔をしらないけど、その人は僕の顔を知っている。なんだか変な話だ。

通り過ぎるアジア人のどの人がそうなのか僕はそわそわしていた。30分ほど歌っていると僕の斜め前方に立ってじっとこっちを見ている女の人がいるのに気づいた。

待ち合わせした女性の名前はマルルさんと言った。大の東南アジア好きでパーイ自体には通算6回も訪れた事のあるという旅女子。そしてKー1好きという方だった。大半の世界一周ブロガーが参加するにほんブログ村の世界一周カテゴリーの他の人とは違ったタイトルということで僕のブログを読んでくれていたらしい。

「これ、今年はデング熱がはやっているそうなので使ってくださいね」とマルルさんは蚊よけクリームやコーラの差し入れをしてくれた。

僕は自分の日記を備忘録的にネットに公開しているが、それを楽しみに読んでくれている人がいて、その人とオフラインで会って、旅を応援してもらう。そんなことができるのはひとえにインターネットのおかげだろう。

(この人は片言の日本語を喋り、僕の歌を聴いてくれてた人)

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後から僕を見に来てくれたコモンさん、エミさん(この前名前間違えてすんません!)と一緒に僕たち4人はアローさんのゲストハウスに足を運んだ。

アローさんは僕が路上に出る前、わざわざ僕が泊まっている宿までやって来て「路上が終わったらごはんをごちそうしてあげるよ!」と招待してくれたのだ。この底の抜けの優しさは一体どこからやってくるのだろう?ゲストハウスの前に小さなテーブルを出してアローさん特製の野菜スープをいただいた。

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野菜スープを美味しく頂いたあとはアローさんにお礼を言って4人でそのままパーイの町を小腹を満たしにフラフラとうろついた。今までどんな物事にも楽しさを見いだそうと些細な物事に「旅アンテナ」を張っていたけどー、こうして旅先で会った人たちと過ごす時間もまた楽しい。


別れ際にマルルさんがコムロイを飛ばしませんかと僕たちに提案した。

露店でコムロイを買い求めすぐ裏手の小さな駐車場で中の燃料に火をつけた。熱気がたまるまでみんなでコムロイを抑えてお店のおっちゃんにいつ離すのか訊く。「まだ!まだだ!」と言うおじちゃん。熱気を含んだコムロイはだんだんと熱くなっていった。

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「みんなで一緒に離そうね」エミさんが言う。
「私、ずっとコムロイ飛ばしたかったんですよ」とマルルさん。
「よーし!今だ!」とおっちゃんに言われてみんなで一斉に手を離したはずが最後まで手を離さなかったのはお店のおっちゃんだった。

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コムロイはどんどん、どんどん空高く登っていった。コモンさんと僕はアスファルトに寝転んで紙でできた小さな熱気球の行方を見守っていた。

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やがて僕たちの空に放ったコムロイは星と同じ大きさの点になり、

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「ふっ」と夜空に溶けていった。

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ああ。今日も最高だった。
些細な失敗でさえ、時間が経てば笑い話になる。


現在、自作キャンピングカー「モバイルハウス」で日本を旅しながら漫画製作を続けております。 サポートしていただけると僕とマトリョーシカさん(彼女)の食事がちょっとだけ豊かになります。 Kindleでも漫画を販売しておりますのでどうぞそちらもよろしくお願いします。