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「観光地デート」

世界一周303日目(4/27)

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7:30にかけたアラームで間を覚ます。
もう一回ベッドに横になったら二度寝できる欲求をこらえて、脳みそを正常に機能させるためにしばらく胡座をかいた状態でじっとしていた。

なんてたって今日はデートだ。

「明日予定あります?」と昨日のシャワーからの帰り道、トモミさんにそうたずねられた。

「いや、明日はこれといって特に。まぁ強いて言うなら大きなショッピングモールがあるみたいなんでそこに行こうかなとか考えてました。そこだったらバスキングで稼げるかもしれませんからね(笑)」

「じゃあよかったら、明日どこかに観光しに行きませんか?」とお誘いを受けたのだ。

こ、これはデートでしょ!!!

「Do you have a girlfriend?(彼女いんの?)」

と訊かれると

「I'm falling love with "TRIP"
(旅に恋してんだよ)」

と応える自称「旅する漫画家」、実質無職、25歳のシミです!!以後お見知りおきを!ひゃっほーーーい!!!1989年、1月22日生まれ、B型だーーーい!文句あるかー!ばかやろーーー!

はっ、スイマセン!「デート」という言葉にときめき過ぎてました!

「で、どこ行くんですか?」

「いやぁ、どこ行ったらいいんですかね?」

あまり観光熱心ではないトモミさん。とりあえずアルメニアに来たんだからどこかに観光に行っておくべき!と決めたのはいいものの、予定も全くなく、二人して情報ノートをパラパラとめくった。

「あっ、ここなんてどうっすか?「ゲガルド修道院」みんな行ったって書いてあるし」

「そうですね。ここにしますか」

なにやら「ガルニ神殿」とセットで行けるようだが、
こちらは入場料も取られる上に、そこまで見応えがないそう。

そのレビューをあてにして、トモミさんと僕はゲガルド修道院だけに行くことにした。情報ノートのページをiPhoneで写真に撮ればもうないも怖くない。


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はいっ!まず最初ね!エレバン駅の前で73番のマルシェルートカを捕まえるミッション!ここで男を見せねば!伊達に9ヶ月以上も一人で旅をしてないよ!乗り合いタクシーを捕まえるなんて楽勝ぅぅぅ!!!

とりあえず、知ってそうなおっちゃんたちに訊いていく僕。だが、なかなかマルシェが見つからない。おっちゃんたちは「分からない」とか「あっち!」とかアバウトなことをいうばかり。
っかしいな…?情報ノートには駅前でマルシェに乗るって書いてあったんだけど…。

気づいたら駅前の広場をぐるっと一周してしまっていた。

「あっちの方に来ると思うんですよね」と、駅前の大通りを通り過ぎるマルシェを見てトモミさん。確かに通りにバスのマークが書いた看板があり、その周りに人が集まっている。位置的には反対車線なんだよな…。マップアプリを確認して僕は思った。

だが、トモミさんの推測は正しかった。そこにやってきたのは73番のマルシェ。僕たちは乗り合いタクシーという名のワゴン車に乗り込む。なかなかスムーズに行かないもんですねぇ…。

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「えっと次は「20~30分走って郊外に出たあと、プールを越えた先にある騎馬像があり、その先の停留所、ベンツのすぐ目の前で下車」ですね」

うぅん…ずいぶんとアバウトな書き方だなぁ。「プール/騎馬像」なんて見落としたらどうするんだろう?マップアプリでどこにゲドルド修道院があるのかピンを刺してある。こういう時にオフラインでマップが見れるのはすげえ頼もしい。

「あっ!あれプールじゃないですか!」と目印のプールを発見するトモミさん。それ、僕がやりたかったのに…。

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情報ノートに書いてあった通り騎馬像が見え、その前でマルシェは停車した。目印を発見した僕は先走って車を降りてしまった。降りた跡に写真に撮った情報ノートを確認して、自分がひとつ手前で降りてしまったことに気がついた。ダメダメっすね。シミさん。

乗り換える停留所がすぐ近くにあったのが救いだった。ちなみに運賃は100ドラム。25円。安い。

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「で、次は「ゴクト村へのバスに乗って終点まで行く」ですね」

まだまだぁ!ここで「頼れる男」を見せなければぁあああ!!!情報ノートの手描きの地図を頼りにゴクト村行きのバスターミナルを探す。ベンツを売っている店の近くでバスに乗れるのだとか。

「あれ?見つかりませんね」

すぐ近くにあるはずなのに、バスの停留所らしきものは見つからない。近くの人に「ゲガルド修道院に行きたいんですけど」と情報ノートに書かれていたバスの番号を見せる。声をかけたおっちゃんの一人に「ここに停まるから」と言われ、言われた通りお店の前でしばらく待っていたのだが、目当ての番号のバスはいっこうに通らなかった。お店の前は路上駐車スペースのようで、どう考えてもここにバスは停まらない。しばらくするとおっちゃんは思い出したかのように「こっちだ!」と言って僕たちが来た道を戻り始めた。

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案内された場所にはしっかりとバスの停留所があった。情報ノートに書かれていたとおりベンツのすぐ目の前にあったのだ。『それならそうと情報ノートに書いておいてよね!』とどこかの親切なだれかさんに対して心の中で文句を言う僕。自分の器、ちっさ!

僕たちの他にも同じバスを待っているおばちゃんがいた。「ゲガルド修道院に行くんです」とジェスチャーを交えて言うとおばちゃんはニッコリ笑った。

きらりと光る金歯。
アルメニアの人たちはなぜか金歯が多い。同じ虫歯の治療の仕方でも金歯になるとここまで印象が変わるもんなのか…。僕とトモミさんはお喋りしながらバスを待っていた。

金歯のおばちゃんは「ほらバスがやって来たわよ!」的なことをひとことも言わずにやって来たバスそそくさ乗り込んだ。僕たちはおばちゃんの姿が消えて、バスが来たことに気がついたのだ。
なんだよ。教えてくれてもいいじゃないか。
(って、僕、何サマ!?)

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ここまでは情報ノート通り、次はゴクト村まで行って、えっとそこからどうするのかな?

情報ノートでは先に「ガルニ神殿」から行き、そのあとに「ゲガルド修道院」へ行くルートで書かれていた。だから直接「ゲガルド修道院」に行くためには情報ノートから必要な部分だけ抜き取らなければならなかった。えっと、ゴクト村で降りるの?かな?

トモミさんと話ているうちに、バスの窓から見える景色は一気に変わった。僕がイランからアルメニアに来た時のように山々が遠くの方に見え、だだっぴろい草地に家がポツポツ立っている。ゴクト村に着く頃には羊の群れがバスの横から見えた。のどかな村を見ているとなぜか100%のフルーツジュースが無性に飲みたくなった。


バスが停まり、乗客たちのほとんどが降りた。もたもたしている僕らの前に座っていたカップルがトモミさんに英語で話しかける。

「500ドラム払えばこのバスは修道院まで連れて行ってくれるんだって」

「えっ!!?ちょっと待って下さい」

えっ?さっきのマルシェで100だったのに、修道院までで500もかかるの?それってボラれてるんじゃないのか?と思わず勘ぐってしまう。

僕はそういう旅をしてきた。騙されないように注意を払い、時には口論になり、怒っている素振りを見せたりして、できるだけ安く移動しようとしていた。

「ほら、さっきみんなが降りたところがゴクト村ですよ。本来ならあそこで降りるはずだったんですよ」

情報ノートから必要な情報だけ抜き取り、頭の中で整理できているトモミさんが僕に説明してくれる。
あぁ~…。何をおれはがんばっちゃってたんだろう?へんな見栄が張れないばっかりにここで気難しい顔をするのも違う。ここは頭をマシュマロにしてくだらねえことは忘れちまうのが一番だ。ポケーーーッ…っと。



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修道院は豊かな自然の中にあった。

険しく岩肌をむき出しにした山に囲まれ、修道院の周りでは青い葉をつけた木々が取り囲む。キャンプにきたくなるような場所だねとトモミさんは言った。このロケーションだけでもずいぶんと見応えがある。

僕たちは適当に修道院の敷地内をプラプラと見てまわった。

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なんだあれ?みんなで落ちている石をを投げてましたよ。

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あそこに乗ると100点だそうです。トモミさんは乗せることができたのですが、僕は何回トライしてもダメだした。こういうのってムキになっちゃうのを分かっていたのでここはスマートに諦めます(悔しい...)。

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どこが一番の見所なんだろう?
「とりあえずこのシンプルな教会に入っておきましょうか?」
見応えのあるものは最後にとっておきましょうと、外からは特に何もなさそうな教会に入っていったが、その建物こそが人を集める理由だった。

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ひんやりとした修道院内にはロウソクが灯る。天井に飽いた天窓からは日が差し込み、光の柱を作っていた。まるでインディー・ジョーンズに出てくるみたいだ。小さい頃に見た「最後の聖戦」を思い出す。

大昔、ここで祈りを捧げていたのか。ここで祈ればその祈りは神に届く気がするよ。

「すごかったですね。ここが一番のオススメだってことは、他のはこれほど凄くないってことですよねぇ」

エレバン周辺には同じようにマルシェやバスを乗り継いで行ける観光名所がいくつかあるが、僕もゲガルド修道院さえ見れれば十分な気がした。近くではスタイルのいい女のコが石段の上に座ってスケッチを始めたり、下の川ではバーベキューをしている人たちもいた。そんなアウトドアレジャーにも最適な場所なのだ。

修道院そのものも見応えがあったが、この場所にきても感じることはある。

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「で、このあとどう帰ります?」

僕たちはゴクト村からここまでバスに乗せて来てもらったが、修道院からは帰りのバスは出ていない。どうやら他の人はヒッチハイクでゴクト村まで戻るらしい。そんな簡単に車がつかまるだろうか?

僕とトモミさんはのそのそとゴクト村へ続く道を歩き始めた。周りの景色を見ながら行くのも悪くないな。その間に車が捕まればいいな。

楽観的に考えていたが、ゴクト村まで約6km。しかもアップダウンの坂道。1時間歩くのか…。

そんな懸念をよそに歩き出してものの2分で一台の車が停まった(笑)
サングラスをかけて指の間に煙草を挟んだお兄さんが窓から顔を半分出して「乗ってく?」と僕たちに尋ねた。

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お兄さんの写真がないので駅前であった少年に登場してもらいましょう!親指上げる前からヒッチハイクってなにそれ~~~~!!??

「せんきゅ~!ゴクト!OK?」

「乗りな」と仕草をするお兄さん。なに!アルメニアの人優し過ぎじゃないですかっっっ!お兄さんは僕たちを気にしてかしきりにカーステレオをいじって英語の曲をかけてくれた。僕もお兄さんに変に気を遣って日本語での会話はしないようにした。結果、無口な車内に。

ゴクト村で降ろしてもらい、ジャパニーズ・スタイルでお兄さんに頭を下げて、僕たちは帰りのバスに乗り込んだ。

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早起きしたせいなのか、ここまで「頼れる男」を演じようと無理に頑張ったせいなのか、座席につくとすぐに眠たくなった。観光って疲れるんだな…。

頭に浮かぶのは休日、子供たちを遊びに連れて行くお父さんの姿。お父さんって偉大だなぁ…。どこのお父さんだって平日の仕事で週末は疲れているはずなのに、家族と過ごす時間を作るんだからなぁ。「家族サービス」とはまた違うのか。やっぱお父さんのあるべき姿って「家族大好き」だよなぁ。むしろ進んで家族と一緒に過ごす時間を作っていくくらいじゃないとなぁ。
そんなことを考えながら、停留所まで寝て過ごした。そして来る時と全く同じマルシュで宿まで帰った。



宿に着くと「私、疲れたからお昼寝するね」とトモミさんは別のドミトリーに引き上げていった。

僕も昼寝をしようかなとベッドに横になりかけたが、ギターを持ってメトロに乗った。このまま一日を終えたくねえな。ここ何日かは連続でバスキングをやってみたい。ここは稼げる町なんだ。出来る限り昨日と同じ場所でやらないように心がけた。どこがいいレスポンスが得られるのだろう?

バスキングのベストポジション探しはけっこう大事だ。

そして見つけたのは静かな通り。

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人通りはそこそこ。

まぁ練習がてら何曲か唄って、別の場所を探そうと考えていたが、ここでがっつり1時間以上。レスポンスは想像どおりイマイチだった。

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他の場所を探して歩き回っていたら公園を発見した。ピアノを弾く男性の面白い彫刻がある。

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そこで自己満足の路上演奏。できるだけ自分の音楽にノるようにして弦を震わせる。最近新しい曲を作った。詩も未完成で唄うたびにアドリブが入る。

英語の歌詞なので使っているセンテンスも超絶シンプル。語法的にも間違っていると思う。まぁ、グロービッシュにそんなことはカンケーねえか。だが、そんな新しい歌にレスポンスが入るのだ。

ここの公園で1,000ドラムが2枚入ったのには驚きだ。名曲の予感…笑。

お母さんが「行くわよ!」って言ってるのに超真剣に僕の歌を聴いてくれた子供。 

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いつものようにクイーン・バーガーに入って一番安いコーヒーを注文する。稼いだコインを集計し終えたあとにキーボードを叩いて日記を書いた。

21時になるとPenny Boardで宿まで一直線の道を下った。


現在、自作キャンピングカー「モバイルハウス」で日本を旅しながら漫画製作を続けております。 サポートしていただけると僕とマトリョーシカさん(彼女)の食事がちょっとだけ豊かになります。 Kindleでも漫画を販売しておりますのでどうぞそちらもよろしくお願いします。