「深層心理では野宿がしたい(のだろうか?)」
世界一周119日目(10/25)
ルアンナムサに到着した時は、辺りは真っ暗だった。
一緒におりたラオス人たちはチケット売り場の前のベンチに各自持参した毛布にくるまって、さっさ寝てしまっていた。ターミナルで朝日を待つはめになることを考えて毛布を持ってくってすごいな。準備周到というか。中には地面で寝れるように「ござ」まで持って来てる人もいたくらいだ。
それにしてもクソ寒い。
パタゴニアのアウター、無印良品のVネック、WILD THINDSのハーフパンツ、KEENのサンダル。それが僕の格好だった。いくら東南アジアが日本に比べて気温が高いと言っても、ラオスの夜明け前の、しかも山奥の気温は低い。自分の体をすっぽり覆える毛布を持っていなかったラオスの少年は、寒くて眠れないのだろう。貧乏揺すりをしたり、ベンチから立ってターミナル内を行ったり来たりしていた。
僕はいつもサブバッグにきれいに折りたたんで忍ばせているサバイバルシートを身にまとった。風に煽られてうまく体に密着させる事ができない。
なんとかベンチに座りながら体を包もうと格闘しているうちに、サバイバルシートが破けてしまった。
ここまで旅をしてきて、コイツに助けられたのはモンゴルの草原でバスが止まってしまった時、タイの宿で扇風機の寒さから身を守る時だった。夏に世界一周に出発したので今のところ訪れた国はそこまで寒くはなかったというのもある。サバイバルシートは破けたらガムテープで修繕してたんだけど、今回は修復不可能なくらいに破けてしまっていた。
一応、モンゴルで他の旅行者からもらった別のサバイバルシートがあるので、一代目のシートとはグッバイした。まぁ次のもダメになったらどこかで新しいのを買えばいいさ。きっとネパールあたりで役に立つことだろう。
朝方の冷え込みは厳しく、サバイバルシートは気休めくらいにしかならない。僕は荷物の心配もあり、一睡もすることができなかった。
体温が下がらないように貧乏揺すをして寒さをしのいでいるうちに段々空が明るくなって来た。トゥクトゥクに数人のラオス人が乗り込んだのを見ると、僕は運転手に行き先を確認して10,000KIP(120yen)支払いそれに乗り込んだ。
ルアンナムサのバスターミナルと中心地は離れたところにあるのだ。
中心地に着くと僕はマップアプリを頼りにゲストハウスを当たって行くことにした。
ここにも外国人向けのゲストハウスはいくつかあった。中には欧米人のバックパッカーが泊まっているところもあった。だが全ての宿の宿泊料は僕にとっては高いものばかりだった。シングルルームで50,000KIP(618yen)。いや、これで「高い」なんて言っちゃダメなんだろうけど、僕からしてみたら10,000KIPもあれば良い物が食べられるのだ。宿以外の出費のことを考えると「50,000」という数字はデカい。
小高い丘の上に金色の仏塔が見えた。まだ勝負は終わってないぜ。ラオスでは「お寺に泊めてもらう旅人」がいるという。今晩はお寺のご厄介になるとしよう。
犬に追われながら、重たいバックパックを背負いながら、僕は丘の上にあるお寺を目指す。
お寺に着くと、敷地内のベンチにひとまず腰をおろした。テーブルにはジャージを着たがきんちょ2人が僕を見てニヤニヤしていた。
「おっす!」
日本語で挨拶する僕。
やっぱ泊まらせてもらうからには神主さん的な人に許可をもらわなくちゃいけないんだろうな。外堀から攻めて行こう!子供が落ちれば、神主も落ちるはずだ!
いつものように何気ない会話から、iPhoneの写真を見せて自分が旅する漫画家であることを子供たちに教える。すると一人の子坊主がペンと2ページ分切り抜いたノートを持ってきた。僕が彼らの似顔絵を描いてやると、途端に打ち解けた感じがした。(その割には写真に移りたがらなかったのな)ハーモニカとギターを披露するとつかみはバッチシだ。
いい感じで温まった場にボスの坊主が登場した。僕は簡単に自己紹介を済ませ、お寺に泊めてもらえないだろうかと彼に訊いてみた。彼は人を安心させる様な温かい微笑みを浮かべてこう言った。
「NO STAY…」
うん。わかってた。そう簡単にお寺に泊めてもらえないことくらい。そりゃそうさ。そんなどこもかしこも気軽に旅人を泊めてやるわけないもんね。はは。
お坊さんが去った後、「これ、よかったら」と申し訳なそうに小坊主はオレンジジュースを差し入れてくれた。そんな気遣いが心に沁みる。だが、『時々自分も吸ってます』的な雰囲気で「タバコ吸う?」はいらなかったかな笑。意外とラオスの坊主たちもスノッブだ...
折られた心を引きずってちょっとお寺のてっぺんにある黄金の仏塔を見に行くことにした。てっぺんからはルアンナムサの町が一望できた。いつも嫌でも耳に入ってくるバイクや自動車の走行音や、にぎわう人の騒がしさ、その他のノイズは遠くの方からしか聞こえなかった。
『静かだ…』
旅をしてきてここまで静かなのは初めてかもな。僕はゆっくりとタバコを吹かし、下に降りた。
下に降りてお坊さんと一緒にひまわりの種をかじりながら世間話をした。ラオスの「物」の70%は輸入品だというお坊さんの話は興味深かったな。そのほとんどが中国産やタイ産だそうだ。リンゴが中国産だったことには驚いたし、あの伝統ある袈裟はタイ製だった笑。
「Hi! Are you japanese?」
町に戻ると、僕はあてもなく町をふらついていると一軒のお店の前で人の良さそうなヤツに声をかけられた。「こっち来て座りなよ」と言ってくれたので僕は言われるままにバックパックを降ろし、お店の椅子に腰掛ける。なんで日本人って分かったんだろう?
彼の名前はブチャ。23歳。写真屋を営んでいる。3ヶ月前に日本の旅人と友達になり、日本の写真に興味を持っているそうだ。
僕のiPhoneの写真にとても興味を示し、僕がウトウトしている間、ずっと写真を見ていた。そろそろ本題を切り出そうか…
「ちょっとさ、お願いがあるんだけど、一晩ここに寝かしてくれないかな?」
「もちろんさ!それよりも明日空いてる?よかったら自然保護区に写真を撮りにいかないか?」
うはぁ~!良いヤツぅ~っ…!!!
僕はブチャにお礼を言いバックパックを置かせてもらうと、仕事の邪魔にならないようにカフェに漫画を描きに出かけた。5,000KIP(62yen)のベトナムコーヒーを飲みながら。Wi-Fiはないけど、作業環境はばっちしだ。
12時前から描き始めて今回も長いことテーブルを使わせてもらった。
ブチャの写真屋に戻ると彼は僕の顔を見るとこう言った。
「ごめん!今日急用ができちゃって出かけなくちゃいけないんだ。だからシミをここに泊めてあげることができなくなっちゃったんだ」
う、うん。分かってた。そう簡単に寝かせてもらえないくらい。そうだよね。旅ってそんなに甘くないよね。あれ?デジャヴュ...?
「大丈夫大丈夫。全然問題ないよ。I don't care!!(ニコッ)」
できるだけ彼に気を遣わせない日本人の演技力よ。
夕方になると犬は吠えだし、デカいバックパックを背負った僕の姿を見て吠えかかってくる。「なろうっ!やんのかコラァッ!!!」とヤンキーみたいな声を出して威嚇する。毎度吠えられる度にビックリするけどこのシチュエーションにも段々慣れてきた。安全な距離がとれるまで背後はとらせない。手を振り上げて自分を大きく見せる。狂犬病に感染した犬ならきっと水を怖がるはずだからペットボトルの水をちらつかせる。
・隙を見て路上の石を手に取る。
・石を投げるフリをする。(半分くらいはこの動作にビビる)
・追ってくる犬には噛まれない間合いをキープしながら飼い主に仲介させる。
まあ今のところ僕にできる対向手段はこんなもんだ。
僕はなんとかして朝方到着したバスターミナルへ戻ろうとしたがこういう時に限ってトゥクトゥクの姿が見当たらない。いつもはバックパッカーを見る度に「トゥクトゥク?」って訊いてくるくせに...。やっとのことで捕まえたトゥクトゥクは運転手の野暮用に僕をつき合わせたばかりか出発前になって値段を6倍にふっかけてくるヤツやはなっから2倍の料金をふっかけてくるヤツしかいなかった。トゥクトゥクなんて嫌いだ!
それにバスターミナルまでせいぜい15分くらいの距離なのに行きと帰りの値段が違うってどういうことだ?
僕は中心地にあるローカルなバスターミナルに辿り着いた。
逃げ込んだカフェで6,000KIP(74yen)の缶コーヒーを注文した後、それには一切口をつけず、出されたお茶をお供にブログの下書きをした。
頃合いを見計らってオーナーのおっちゃんに外のテーブルでいいので寝かせてくれないかと僕は頼んだ。もちろん、おっちゃんはYESと言ってくれるわけがない。
「ちょっとこっち来い」
手招きするおっちゃん。
えっ?もしかして「ここはダメだけど、ここならオッケー」のパターンかっ!!?
淡い期待を抱いておっちゃんの後について行くとその先にはホテルがあった。で、ですよね。観光客はホテルに泊まれと。もう自分でもなんでここまで節約してるのかわかんなくなってきたよ。
「カプチャイ...」(ラオス語で「ありがとう」の意味)
お礼を言って僕が向かった先はホテルではなくー...
すぐそばにある誰も住んでいない民家だった。空き家なのだろうか?しっかりした作りで野宿に丁度良いスペースがあった。念入りに野良犬がいないことを確かめ、荷物を置いた後、人がやって来ることがないか息をひそめて辺りの様子をうかがう。
バスターミナルの敷地内にはバーやカラオケがあり、重低音やバイクの走行音、酒が入った人の笑い声が聞こえてくる。30分ほど様子を探り、とりあえずは寝れそうだと分かると、野良犬が入ってこないように洗濯ヒモでバリケードを作り僕は寝袋にくるまった。
現在、自作キャンピングカー「モバイルハウス」で日本を旅しながら漫画製作を続けております。 サポートしていただけると僕とマトリョーシカさん(彼女)の食事がちょっとだけ豊かになります。 Kindleでも漫画を販売しておりますのでどうぞそちらもよろしくお願いします。