「ジョージアからトラブゾンへ in トルコ」
世界一周342日目(6/6)
いい目覚めだ。
辺りはもう明るくなっており、
公園内にチラホラと人の姿を見ることが出来た。
そりゃ向こうからもこちらの姿は
見られてしまうわけだから、
そこはスマートに撤収作業を済ませる。
にしても我ながら昨日はいい寝床を見つけたよ。
周りに人がいても誰もここまでは来なかったし、
誰かが近づいてくる気配を察知して
起きて身構えるということはなかった。
いかに暗闇と背景に同化するかが
キャンプをする上で大切なような気がする。
昨日の僕はさぞ公園の暗闇に溶け込んでいたころだろう!
撤収を終えると僕は朝食を求めて町をぶらついた。
まだどこのお店も閉まっている。
見つけたのは隠れ家のような建物の
地下室にあるパン屋さんだ。
お金の受け渡し口が低い所にあり、
身をかがめなくてはいけない。
1.5ラリ(87yen)の焼きたてのハチャプリと
0.5ラリ(29yen)の甘い菓子パンを買ってお店の前で食べた。
さて…今日はどうしたものか?
このままトルコに入っていいのか?
昨日のバスキングで余計にお金稼いじゃったし、
この小銭はたぶん両替できないだろうな。
日記も書きたまってるしー、
どうする?もう一日ここに滞在するか?
そんな僕のどうでもいい迷いに
反応するように急に雨が降り出した。
僕はパン屋の前で雨がやむのを待った。
石畳の路面は水はけが悪く、
すぐに大きな水たまりができた。
パン屋がある路地に車が入ってくると、
水しぶきを歩道にはね上げる。
さすがにパン屋の前はこなかったけど、
タイミングが悪かったら
泥水ぶっかかる人もいるかもしれないな…。
あー、どうしよう?
昨日友達に「明日トルコ突入するから!」
と宣言しておいて、今日も作業日とバスキングで
一日を過ごしてもいいのか?トルコ行くか?
いや、でも、国境を越えるときって
けっこう冒険なんだよな…。
きっと日記にしたらけっこうなボリュームになるよ。
ほんだら、ここできっちしかっちし
グルジア分の日記を書いてだな…
マジどーでもいいこと書いてるな。
「どうでもいい事をくどくど書く」のが
この日記のモットーなのだ。
僕の心を引き止めているのは
書き溜めた日記と昨日稼いだ小銭だった。
30分以上、雨宿りしているフリしうて、
パン屋さんの前でうだうだ過ごした。
や、でも小銭ったってたかだか4ラリっしょ?
2ドルくらい?2ドルのためにここに残るのか?
あ~もうめんどくせえ!
日記が書きたまったらそん時はそん時!
有言実行!トルコ行っちまえ!
それに呼応するように雨もおさまった。
いい旅立ちじゃねえか。
バスターミナルまでの道のりで営業している
両替屋さんを発見したので声をかけておく。
「あの、これトルコラリに
替えてもらえますか?
小銭もあるんですけど…」
「ああ。いくらだい?」
トルコがおれを呼んでいる!
ほぼほぼレート通り。
50リラ札と小銭を10ラリ分を両替して
手にしたのは70ラリ(3,451yen)。
これがトルコでATMにありつくまでの僕の旅の資金だ。
トビリシ・スクエアから国境の町、
サルピ行きのマルシェに乗り込んだ。
先日ツーリストインフォメーションで
訊いていた通り1ラリ(58yen)。
いやぁ、ここまでお金をピッタし使い切るのって
なんだか清々しいね!
乗客で一杯のマルシェの中で
唐突に後ろに座っていたおっちゃんが
僕にお菓子をくれた。
うちの親父が好きな和菓子に似たような
モサモサした黒糖のパンケーキみたいな丸いお菓子だった。
横にいた奥さんとニコニコして
おっちゃんはパクパク食べていた。
このおっちゃんがグルジア人なのか
トルコ人なのかは分からないけど、
おっちゃんが分けてくれたお菓子はこれから始まる
トルコの旅がうまくいくような予感を僕に与えてくれた。
マルシェは20分でサルピの国境に到着した。
すぐ近くにカジノがあった。
国境にカジノを作る意味はあるのだろうか…?
と考えずにいられない。
イミグレーションは
港にふさわしい大きな建物だった。
入国審査はあっという間だ。
出国スタンプを押してもらって、
トルコ側でパスポートを提出して
入国者のデータを残す小型カメラの前で
ヘラヘラ笑っていればあっという間にスタンプがもらえた。
入国スタンプをもらうと僕は
トイレに行って髪を洗っておいた。
風呂なし3日目。
洗面台で髪が洗える男になりました笑。
スイムタオルは首に巻き付けておく。
ここはグルジアやトルコはアルメニアみたいに
お風呂に入らなくてもいい乾燥した気候じゃないな。
できるかぎり髪は洗っておこう。
イミグレーションを出てすぐに気づいたことは
文字が変わったことだった。
ローマ字なんだけど、
そのうちのいくつかは剃り残した髭みたいに
「ちょろ」っとへんな物が生えていたり、
「O」の上に目のような記号がついていた。
単語もそれが何を示しているのか分からない。
イミグレショーンを抜けてすぐの所にモスクがあった。
そうかここはイスラム圏なんだな。
そして時差が発生していた。
グルジアからマイナス1時間。なんだか得した気分だ。
とりあえずトラブゾンを目指してみようじゃないか。
だが、国境から出ているのはタクシーのみ。
マルシェはあるのだが、別方面らしい。
国境を越えてすぐ近くの売店でコーラを買って祝杯をあげた。
うーっし!
まずは歩きますか!
ちょっと歩けばローカルの乗り物か
ヒッチハイクできんだろ。
イミグレーションから少し離れたところには
何人かヒッチハイクをしているような
おばちゃんたちがいた。
たぶんこれが地元の人の知恵なのかもしれない。
おばちゃんに尋ねると2ラリ(99yen)で
ホパという町まで行けるらしい。
そこからトラブゾン行きのバスが出てるんだとか。
おばちゃんに英語は通じなかった。
ワードを細切れにしてコミュニケーションする。
それで意思疎通がある程度できちゃうのは、
やっぱり僕たちが同じ人間だからだろう。
道は別れることなく続いていた。
フル装備で歩くとあっという間に汗でTシャツが濡れた。
首に巻いていたスイムタオルをバックパックに結んだ。
もっていたPenny Boardに乗って
距離を稼ごうかと思ったが、
フル装備でスケボーに乗ると、
すぐに前の足に負荷がかかった。
Penny送り返そうかなと思った。
車はびゅんびゅん僕のことは
お構いなしに道路を走っていく。
後続車もあるからヒッチハイクのために
止まってくれないだろうな…。
したたる汗。
額を拭いながらPennyに乗ったり、歩いたり、
見えて来た最初の町まで一時間。
ひぃ、ひぃ…。
もういい。マルシェに乗ろう。
近くにいた人に停留所の場所を訊いて
やって来たマルシェに僕は乗り込んだ。
ホパまで3リラ(148yen)。
ホパに着く前に他の乗客たちは
あらかた降りてしまった。
最後まで残っている僕に
ドライバーはどこで降りるのか尋ねる。
「トラブゾンまで行きたいんだよね」と
僕が告げるとドライバーのおっちゃんは
バスターミナルまで僕を乗せて行ってくれた。
そして間髪入れずにチケットオフィスで
トラブゾン行きのチケットを買う。
トラブゾンまで20リラ(986yen)。交通費がまた上がった。
誰かが「トルコに入ると普通に
一回の移動で2,000円くらいかかるよ」と
言っていたのを思い出した。
トルコではお金が飛んで行くのを
覚悟しなくちゃいけないな…。
メシも高くなったね。
運良く出発の15分前にチケットを買うことができ、
11時出発のバスに僕は乗り込んだ。
聞いていた通り、バスの中にWi-Fiが飛んでいた。
右手側には黒海が見え、
その反対側にはトルコの町並みが見えた。
グルジアやアルメニアと比べると
ずいぶん町並みがしっかりしていた。
アジアとヨーロッパの影響を受けた国、トルコ。
そうかもうヨーロッパの直前なんだな。
ホパ発のバスは他の町のターミナルにも寄り、
乗客の数は増えて行った。
そして、トラブゾンに近づくにつれ一人、
また一人とどんどん降りていった。
こういう時には少し不安になる。
持っているのはトラブゾン行きのチケットだ。
それは間違いない。
乗っていれば自分を
トラブゾンまで連れて行ってくれる。
だが、一体僕はどこで降ろされるんだろう?
こういう時は、できることならずっと
バスに乗っていたい気持ちになる。
でも、いつかは降りなくては行けないのだ。
「ほら、トラブゾンだぞ!
降りないのか??」
添乗員のお兄さんにそんな風にせかされた。
よしっ!トルコ!気合い入れていくぞ!
バックパックを背負って
とりあえずマップアプリで自分の現在位置を確認する。だが、ここが町のどこらへんなのかはわからない。
周りにはマルシェが何台も止まり、人々が行き交う。
辺りのお店はどこも活気づいており、
トラブゾンの町のエネルギーを感じることができる。
どうやら降りた場所は町の中心だったようだ。
広場を見ると人が絶えず流れている。
こういう人の多くいる場所に来ると
ウズウズするのはなぜだろう?
バスキングするならここしかない!
とにわか路上パフォーマーの勘が冴える。
だが、話に聞く所によると
基本トルコでの路上パフォーマンスは禁止
されているらしい。
警察にしょっぴかれることもあるとかないとか。
チャンスは一回か…。
とりあえず怒られたらすぐに止めればいいさ。
広場の周りは飲食店で囲まれていた。
シャウトしたらお店の人からも
ストップがかかる場合がある。
広場の中心にある銅像の近くでギターを構えた。
チューニングをしていると
ガキんちょやヒマなおっちゃんたちが集まってくる。
パフォーマンスする前からいい感触だぞ!
集まる割には、演奏が始まると
去って行く人もいるんだけど、
中にはちゃんと聴いていてくれる人もいる。
ポロポロっとギターケースに投げ込まれるコイン。
そしてやって来る警察。
えっ…まだ開始10分も経ってないんすけど…。
「プロブレム!」
と言って路上パフォーマンスをやめるように
ジェスチャーして去って行った。
しょっぴかれたくない僕は素直に従うことに。
「やー、ありがとうございました!」
肩からストラップをはずし、
ギターをケースにしまおうとすうと、
聴いてくれていたおっちゃんが僕に
「あんなの気にするこたぁない。
ほら続けて続けて!」
とジェスチャーする。
えっ??
やっていいの?
周りの人もおっちゃんに同調するように
「ウンウン」とうなずく。
そこから再びパフォーマンスを始めたが、
警察がまたやって来ることはなかった。
てかなんだ!トルコかなり反応いいじゃないか!
場が温まってきた時に限って弦が切れやがる。
急いでエンドピンをはずし、中の留め具を
ギター揺すってサウンドホールから取り出し、結びつける。
切れた弦の再生している時間で
また演奏を始めた時に逆戻りだ。
こっちもせっかくノってきたってのに…。
それでもなかなかいいパフォーマンスをすることができた。
唄を聴いてくれていた大学生の男の子が
「何か食べに行かない?」と誘ってくれたので
ついていくことに。
「ここがトラブゾンで
一番美味しいケバブ屋さんさ!」
オススメのケバブとコーラをごちそうになった。
彼とその友達とお喋りをした後は
インドのように「一緒にどこか行こう!」とか
「明日も会おう!」とかそんな発展も無く
「じゃ、友達と待ち合わせしてるから!」と
爽やかにバイバイすることができた。
トルコが親日国だとは聞いていたけど、
初日からそれを体験することになるなんて!!!
ケバブ屋さんのあった通りは
歩行専用の道だった。ここでも人の流れが淀みない。
適当な場所でギターを構え、
再び演奏を始めるとまたすぐに人垣ができた。
5ラリ札が入った時には驚いた。
えっ?なんでたってこんなにレスポンスがいいんだ?
おかげでこっちも超ノリノリだ。
曲も自然とテンポが上がる。
見回りにきた警察に注意されて
僕は2回目のパフォーマンスを終了した。
てか、話と全然違うじゃないか!トルコ!
トラブゾンなんていい町なんだ!
バックパックを背負って、
そのまま町の中心をフラフラと散策した。
アパレル店や飲食店が多く立並び、
原宿の竹下通りみたいになっている。
そして
見つけてしまった
トルコアイス。
日本で「トルコ風アイス」が
発売された時には衝撃だった。
今までのアイスにはないもっちりかん。
お店の冷凍庫から出した時はまだアイスが固いので、
買った時にもらえる木のスプーンをよく折ったものだ(笑)
「こ、これが…!
夢にまで見た本場の
トルコアイスか!」
と顔で表現してたら、
横にいたおっちゃんが僕にアイスをおごってくれた。
な、なんなの!!!
トルコなんなの!!!
町歩きは続く。
このごちゃごちゃした感じ、石畳、建物のデザイン。
トラブゾンの町は歩いているだけで
僕をワクワクさせてくれた。
大きな幹線道路を挟んで黒海が見えた。
そうかここも海沿いの町なんだ。
「おーい!ツーリスト!チャイ!」
とお店の中からお兄さんたちに呼び止められた。
うん。もうそれだけで分かります。お言葉に甘えて。
中に入ってチャイをごちそうになった。
話したのはどこから来たのか?
これからどこへ行くのか?とかそんなトピックス。
チャイをごちそうしてくれたお兄さん、
アダムのはデザイナーだった。
27歳には見えない貫禄のある髭を蓄えたお兄さんだった。
こちらもお返しに名刺を描いてプレゼント。
最近意外と喜んでもらえることからさ。
まぁ、似てなくたっていいのさ♪
こんなに外国人にフレンドリーな国。
別に僕が「日本人だから」というわけでは
ないようにも感じる。
この街でアジア人を見かけることはない。
シーズンとかにもよるんだろうけどね。
だからきっと珍しいんじゃないかな?
トルコの人たちの懐の深さってのもあるけどね。
僕が最後に
バスキングしたのはさっきの広場だった。
夕方から日のくれるまで。
ここでもレスポンスは入った。
グルジアで
『あ~、おれの実力なんて
こんなもんだよなぁ』
ってヘコんでたのが嘘のようだ。
その国の人々の反応と外国人としての珍しさ
というアドバンテージ(それと今日は金曜日だ)。
国によってこんなにレスポンスが違うなんて。
やっぱり今日、トルコ来てよかった。
小銭入れはかつてないほど膨らんでいた。
トルコの1リラ(49yen)コインが重たいってのもある。
広場の近くにあるマクドナルドで
Mサイズのスプライトを注文した。
4.5リラ(222yen)。おつかれさまてことで。
2階の奥の方の席でコインを積み上げて行く。
物価が確実に上がっていることが実感できた。
この旅はじまって以来のアガリ。
コインの多さとレートアプリが叩き出す金額に
現実味が湧かなかった。
集計を終え、テーブルで日記を書いていると、
スカーフをかぶった二人の女の子に声をかけられてた。
ここはムスリムがメジャーな国なんだ。
イランと違って規律がゆるいみただけどね。
「where are you from?」
という当たり障りの無い質問。
「ジャパンだよ」と帰すと、
ちょっと驚いたようだった。
「私たちてっきり
あなたのこと
女のコだと思ってたから」
え~~~~~~~….????
長く伸びた髪がうざったくてしょうがないので、
僕は最近後ろで束ねるようになった。
今はパソコンで日記を書いてるから
黒縁の眼鏡をかけている。
何年か前に日本で流行った型だ。
もちろん僕に胸のふくらみはないし、
ジーンズにシューズという姿。
まぁ、そこまで観察しないでしょうけどね。
「ねえ、あなたって
私たちの宗教についてどう思う?」
「どうって?」
「アッラーについてよ」
まさか20代そからの女のコから
宗教について訊かれるとは思わなかったな。
とりあえず僕は仏教徒ということにしておいた。
日本はどこもじーちゃん、ばーちゃんが仏教徒だろう?
最近、僕は仏教のゆるさを気に入っている。
親鸞からブッダよりも開祖がエラくなった日本の仏教。
宗教戦争がない宗教だと相棒が言っていた。
僕は勉強なんてしてないし、
知識もないに等しいんだけど、
仏教の「煩悩に捕われるな。
全ては移り変わる「空(くう)」なのだ。
全てを受け入れよ」
みたいにな半ば諦めの感じがいい。
Everything is OK. なるときゃなる。
ならないときゃならない。
そんな感じか?
僕がそう言うと彼女たちは「ふーん」と
そこまで興味を示した様子はなかった。
「私はね、アッラーの存在を信じるは。
あなたにはブッダが、クリスチャンにはイエスがいるけど、
それは今は存在しないわよね。
でも、アッラーは存在するのよ」
英語が不慣れな彼女は
「exist」という単語を使った。神の存在か。
この女のコが言うにはこの世界が終わっても(死んだあとも)、
イスラム教を信仰することによって、
楽園へと導かれるというのだ。
「え?じゃあ君は今の世界に興味を持ってないの?」
「そんな!今私たちが暮らしている世界でも、アッラーが導いてくれるのよ!」
片方の女のコは一方的に喋り通しだった。
日記も書くこともできず、僕は諦めてパソコンを閉じた。
何が言いたいんだろう?
きっと外国人とお喋りがしたかったのかもな。
24時過ぎに彼女たちは帰って行った。
女子大生で寮だかシェアハウスで暮らしているらしい。
この時間まで女のコが出歩いているんだ。
治安はいいんだろう。
彼女たちが去った後、僕も荷物をまとめて外に出た。
広場の電灯は未だに灯っている。
ビーチへ向かい、誰も来なさそうな芝生の上を
今日の寝床に決めた。
木とバックパックにビニール紐を結びつけて
簡易テントを作る。海から吹く風にブルーシートが
ずっとはためいていた。
いつものように1時間程、辺りに様子を伺い、
何回もブルーシートの間から顔を出して周りの様子を確認した。
そして誰もが寝静まった頃、
物音に敏感な動物のように僕も眠りに就いた。
現在、自作キャンピングカー「モバイルハウス」で日本を旅しながら漫画製作を続けております。 サポートしていただけると僕とマトリョーシカさん(彼女)の食事がちょっとだけ豊かになります。 Kindleでも漫画を販売しておりますのでどうぞそちらもよろしくお願いします。