見出し画像

「僕はバックパッカーをやめられない」

世界一周423日目(8/25)

夜には近くのスタジムから歓声が聞こえた。

ドコスカと音楽が流れていた。

そして12時以降、
グングン気温が下がって行った。

靴下を持っておらず、裸足で寝袋に入るため、
足先がコチコチになっていた。
僕の寝袋は15℃までしか対応していない。


ただ、誰もここにはこなかった。

近くを人が歩く気配さえ感じなかった。
絶好の寝床だった。

この二日間、寒さのあまりよく眠れない上に、
夜中の4時に盗難にあって、
警察署に行く日々を繰り返したため、
僕が目覚めたのは朝8時半だった。

テントの出入り口のファスナーを開けると、
そこには清々しい朝の空が広がっていた。

画像1


ここはチェコ、プラハ。
中心地から6kmほど離れた川沿いの原っぱ。

僕は二日連続で盗難に遭い、
バックパック、ギター、雑貨、
一眼レフ、眼鏡を失った。

持っているのはパスポートやパソコンなど
貴重品の入ったサブバッグ、愛用の寝袋、
マット代わりの段ボール、
そして昨日手に入れたばかりのテントだ。

テントで寝ることはベンチで寝るのに比べて
格段に居心地がよかった。

ベンチで寝るのもすっかり慣れてしまったけど、
これなら何かに怯えるこもなさそうだ。

テントから出るとのんびりとテントをたたんだ。


近くの道で馬に乗る人の姿が見えた。

近くには乗馬をする場所があり、
原っぱの横にある道からは
馬に乗った人の姿が見えた。

さて、今日もやることがあるぞ。

画像18


まずは日本大使館に行ってみよう。

もしかしたらー、

もしかしたら
僕のバックパックが見つかって、
連絡が行っているかもしれない。

とりあえずいつもの朝メシを
パンとトマト、
そしてちょっと贅沢なソーセージで済ませた。

画像2



連日マクドナルドで
メールはチェックしているけど、
先に日本大使館に連絡が来ている場合もある。

ダメもとで日本大使館に向かった。

周りの人たちと同じように
トラムにチケットにチケットを
買わずに乗り込んだ。

画像3


こういう時に僕は
損得勘定で物事を考える。

お前は十分おれから持って行っただろう。
だからこのくらいはして当然だ。と。

自分がしょうもないことを
しているのは十分わかっている。

因果応報ならそれでいい。
だったら僕の荷物をごそっと持って行ったヤツは
どうなっちゃうっつーの。

画像19



日本大使館は

ただいま絶賛工事中だった。

画像4


鉄パイプで足場が組まれ、

力なく垂れた日本国旗からは
赤い日の丸は見えなかった。

マップアプリが示さなかったら
ここが日本大使館であることは分からなかっただろう。

受付時間は午前と午後に別れており、
午前の業務が終了する12時半前に滑りこむ形だった。


チェコの日本大使館はこじんまりとしており、
中には英語の喋れる優しそうなおばさんがいた。
僕の他に来訪者の姿はなかった。

僕は自分の盗難被害を簡単に説明し、
向こうの警察から連絡が来ていないか訊いてみたが、
連絡大使館のおばさんは
申し訳なさそうに首を横に振った。

バックパックは諦めよう…。


日本大使館でiPhoneを70%まで充電すると、
僕は別の場所へと向かった。

画像5


僕にはバックパックが必要だ。

荷物はほとんど失ってしまったけど、
サブバッグを背負い、寝袋が入ったビニール袋と
3kgのテントを両手にぶら下げながら
移動するのは手が疲れてしまう。

荷物を入れて背負える物が必要だ。

そして、

やっぱり僕は
バックパッカーを辞められない。

画像9


プラハの観光地を抜け、
MacBook Proの充電機を
クレジットカードで購入した。

充電器に100ドルもかかった。

だけど、パソコンがないと僕は日記が書けない。

写真の整理だってある。
情報収集の時にはパソコンの方が便利な場合がある。

だからこれも必要経費と割り切って充電器を買った。

画像6


アダプターを購入した後は
再びパタゴニアへ向かい、
どこでバックパックが手に入るのか
情報を手に入れておく。

画像20


パタゴニアのスタッフさんに対する僕の信頼は厚い。

日本で世界一周の資金を貯めたバイト時代、
給料日ごとにパタゴニア行っては装備品を手に入れ、
いろいろとスタッフさんに相談していた。

さすがアウトドアメーカーで
働いているスタッフさんだけあって、
プラハの街でどこに行けばバックパックが
手に入るかよく知っていた。


あ、クリシュナさんだ。

画像7


まずは昨日のショッピモールへと足を運んでみた。

だが、売っていたのは安くて、
すぐにダメになってしまそうな、
どこのメーカーか分からないバックパックだった。

ここに僕の探すバックパックはなさそうだ。

画像9

ちなみにここのショッピングモールでは
10ドルくらいのミニUSBプラグを買っておいた。
iPhoneのポータブルバッテリーの充電のためだ。


僕は別のアウトドア用品を扱うお店へと向かった。

そこには有名なマンモスのロゴの
無骨なマムートやめちゃくちゃ高いアークテリクス、
スマートなブラックダイヤモンドなんかのメーカーの
バックパックがずらりと並んでいた。

画像10


もちろん僕がこの間まで使っていた
ドイツのメーカー、ドイターのバックパックもあった。

今まで自分が使っていたのと
同じ型を見てみたのだが、値段が5万円近くもした。

他のバックパックも3万円以上する。

予算はせいぜい2万円。


店頭に並んだバックパックを
手にとって分かったのは、

いかに自分が使っていたバックパックが
優れたものだったかってことだった。


日本で世界一周の準備をするのにあたって、
僕はドイターの85リットルのバックパックを
ネット通販で2万3千円で買った。

これを選んだ理由は容量と機能と価格だった。

ドイターは「エアーコンタクト」という
背中に熱がこもらないシステムを採用していた。

店頭で実際に見ていなかったので、
このバックパックが家に届いた時は、
正直このバックパックのデザインが好きじゃなかった。

他の旅人はデザイン的にも
かっこいいバックパックを背負ってたけど、
僕のはなんだか"フツー"のバックパックに思えた。

サイドポケットに物を入れると
横に膨らんで不格好に見えた。


だけど旅を続けるに従って、
このバックパックの使い方が
だんだんと分かって来た。

どうすれば重たいコイツを
背負えるかも自分なりに考えた。


上部のポケットにはすぐに取り出せる
スペースブランケットやビニール袋を。

サイドポケットには洗面用具や速乾タオルが入っている。

反対側はあまり使わないので
パックセーフとレインカバーを入れておいた。

外のアタッチメントには
Penny Boardが取り付けてある。

背中の部分には書きかけの原稿用紙。

バックパックの底には細かい電子機器や
お裁縫セットなんか。
下のジッパーからすぐに取り出せるように。

衣類の詰まった3つの圧縮袋は
上から押し込むように入っている。

その上に、
ふたを開ければすぐに取り出せるように、
KEENのシューズ、野宿用のブルーシート、
パタゴニアの水着、nudie jeans、寝袋、
空いたスペースに食糧を入れたビニール袋が入ってる。

旅の途中で仕入れた雑貨は
ふたの裏ポケットにぎっしり入っていた。

これだけ入って容量はマックスじゃなかった。
バックパックの巾着状の縛り口がついている余白を
伸ばせばもっと荷物が入れられた。

長旅でいい感じに年期が入った、
世界にひとつしかない僕の相棒だった。


僕はそれを背負って、色々な国を旅した。

店頭に並んでいたバックパックはどれも、
以前使っていたバックパックには及ばなかった。

そのくせどれもそれ以上の値段がした。

僕は諦めて別の店へと足を運んだ。


次の店ではオスプレーのバックパックを
メインに扱うお店だった。

画像12


見本用に浮き輪の様なビニール袋を入れて
パンパンになったバックパックが目についた。

『これ、いいじゃん!』

画像13


どういうわけか一番容量の大きい
68リットルがセール価格で21,000円くらい。
これなら予算内だ!

何度も背負って、バックパックが
僕と一緒に旅する場面を想像する。


「これなら行ける!」


ここでもクレジットカードで支払いを済ませた。

ショッピングだったら
15万円までの上限がある。

そして、寒さをしのぐために
筒型になったサバイバルシートのような物も買っておいた。
こちらは2,000円くらいだった。


新しく手に入れたバックパックに
寝袋と代えのTシャツとテントを入れてみたが、
68リットルの新しいバックパックは
まだまだバックパックらしい形にはならなかった。

まだまだこれからだ。

もうどこかに行っちまうなんてなしだぜ。

荷物を失って2日後に僕は
再びバックパッカーとなった。

画像14



そして靴も新しいものを買うことにした。

今履いているズタボロのKEENのサンダル。
コイツももう限界だ。

画像15


くるぶしを固定する部分は
幾度となくぶち切れてきた。
その度に僕は何度も修理に出してきた。

今ではかかと部分はすり切れて穴が空いている。
長い距離を歩くと足が痛んだ。そして臭った。


手に入れたのは
同じメーカーの違う型のサンダルだ。

画像16


トレッキングもできるような
底がしっかりしたやつだった。11,000円。

サイズが少し大きいのしかお店にはなかったが、
紐で絞れば問題なく歩くことができた。

これが最低限の装備かは分からない。

服だってまだまだ必要だと思う。

だけど、バックパックやサンダルを
手に入れるだけで、大分安心感があった。

また新しいスタートだ。大丈夫。
おれならやっていけるさ。

画像17



いつものマクドナルドで作業して、
日の沈んだ後に寝床へと向かった。

昨日の場所とは違ったが、
静かな公園の茂みの中にテントを張った。

街灯のない真っ暗な公園だったが、
ジョギングしている人や、
犬を連れた人が時々横切った。


誰かが近くにいる気がする。

足音みたいなのが気になって眠れない。

相手もこちらが何者であるか分からない以上、
下手に踏み込めないはずだ。

足音みたいなのは時度「ザッ…」と聞こえた。
次の一歩をためらっているようにも思えた。

これは単なる枝や葉がこすれる大人なのだろうか?

それとも公園内の小動物が動き回る音なのか?


僕は相手を威嚇するために、
テント内で地面をバシッ!っと叩いて音を鳴らした。

ゴリラが威嚇する際に胸を叩く
ドラミングの意味が分かった気がした。

そんな硬直状態の中。

ポツポツと雨が振り出し、
だんだん雨脚は強まって行った。

気づいたら外は明るくなっていた。


現在、自作キャンピングカー「モバイルハウス」で日本を旅しながら漫画製作を続けております。 サポートしていただけると僕とマトリョーシカさん(彼女)の食事がちょっとだけ豊かになります。 Kindleでも漫画を販売しておりますのでどうぞそちらもよろしくお願いします。