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「旅にはギター持っていこう(むっちゃかさばるけど)」

世界一周61日目(8/28)

「はいはいそれじゃありがとね〜!
さよなら〜!バイバ〜イ!」

これでようやく厄介者を追い出せるとでも言わんばかりにホテルのお姉さんに僕はバスに乗せられた。

夜通し大音量でベトナム音楽がかかるバスの中でいつも肌身離さず持ってるいるサブバッグが自分に割り当てられた寝台に収まりきらず、枕代わりにして夜を明かした。中に入っている一眼レフやら本やらゴツゴツしたもののせいで安眠することはできなかった。


そしてやって来たのはフエという名前の町。

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日本で言う、京都、奈良的な場所らしい。

僕は5ドルの部屋があると言ってきた客引きのあんちゃんのバイクに二人乗りし、とりあえずは今晩の宿を確保した。

あんちゃんは一日で街をまわれるツアーを熱心に僕に勧めてきたが僕は節約するために断った。もちろん先日ボられたことを言い訳にするとあんちゃんは残念そうな顔で退き下がってくれた。

僕はレセプッションで明日のホイアン行きのバスのチケットを7ドルで購入し、さっそく町に繰り出した。観光地化し、欧米人で溢れひっきりなしにバイクが行き交うハノイと比べるとフエの街はいくぶんか落ち着いた印象だ。

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Googleマップを頼りにまずは駅へと向かう。

ボられてないか確かめるためだ。ここまで行くと疑心暗鬼だ。

『もしかしたらホイアンまでもっと安く行けたんじゃねえか?』という考えが頭にちらつくのだ。自分の足を使って確かめるのも重要だ。気を抜いてはいけない。ここは既に戦場なのだから!

持ってきたPennyBoardでバイクのクラクションにビビリながらも車道を飛ばし、駅に到着すると僕は運賃表を探した。だがホイアンの文字を見つけることはできなかった。

親切なおっちゃんが言うにはフエからホイアンに電車で行くためにはダナンと言う駅からタクシーを使わなくてはならないらしい。だから、バスの方が安いそうだ。

ボられていないことに安心した僕は近くのカフェで1万5千ドン(69yen)のアイスコーヒーを注文し(もちろん練乳入りだ)持ってきたMartin BackPackerで作曲をした。

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列車が駅に到着すると乗客やタクシーの客引きたちで駅はにぎわうが、それが過ぎ去ってしまうとのんびりとした空気に変わった。

僕はカフェの中からそんな波のように繰り返す通りを眺めながらギターを弾いてた。ここでは誰も変な目で自分のことを見てこない。東南アジア独特の自由な空気が僕は好きだ。


しばらく気持ちよく歌っていると、さきほど僕にホイアンへのアクセスを教えてくれたおっちゃんがやって来て、にっこり僕に向かって親指を立てたあと、細長いタバコを僕にくれた。

「これ、日本製なのかい?」とおっちゃんが僕に尋ねる。
「いや、メイドイン・メキシコだよ。中古で買ったボロギターだけどね」

ベトナム人の英語は時々何言ってるかわからないんだけどそんな感じのやりとりをした。

「どっかでコイツを修理したいんだけどさ、いい場所ないかな?」と僕は尋ねた。するとおっちゃんは僕にこう言った。



「何を言っているんだ?そんな必要はないだろう?
音楽を奏でるのはお前さんの『手』であって、
『ハート』であって、『ソウル』だからさ。
つまり、お前さんはどこにいても音楽が奏でられるってことだ」



おっちゃんの言ったことはすごい詩的だった。
そして普遍的なことのように思えた。

持ってきた山盛りの装備品や1年4ヶ月かけて貯めたお金。ペンとインクと200枚の原稿用紙。PennyBoardにMartin Backpacker...

自分の持っている物に固執しがちだけど、大事なのは物じゃない。

僕が世界を旅することだ。

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1時間ほどカフェに居座った後、僕は町歩きを再開した。

川を渡ると城壁が見えた。

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中に入ると街はまた違った姿を僕に見せてくれた。

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壁内といことで道幅は狭くなり、通りによって交通量が異なる。緑が多く、道端ではサトウキビのジュースが売られている。

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「バカ!」

突然、カフェで暇そうにコーヒーを飲んでいるおっちゃんたちに声をかけられた。きっと知っている日本語を使って気を引こうとしたんだろう。

こういう茶目っ気のある絡みは東南アジアによく遭遇するシチュエーションだ。心に余裕があるときはコミュニケーションのきっかけになることもある(逆に心に余裕のないときは無視するだけだ。いちいちキレていたらキリがない)。

僕は彼らに話かけギターを披露した。するとお店の人が僕にアイスコーヒーの差し入れを出してくれた。本日2本目のアイスコーヒーだ。親父ゆずりの甘党の僕は断る姿勢を見せつつもしっかりアイスコーヒーで喉を潤しハーモニカも披露した。

ついついエンタメ性を発揮してしまうのだ。「なんか変なヤツだったけど、面白かったよな」と言ってもらえれば旅人冥利に尽きる。

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歌うことに疲れると僕はカフェのおっちゃんたちに別れを告げ、フエの壁内の散策を再開した。

壁内には池があって、水路があった。歴史を感じさせる街だ。

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壁のすぐ外でフォーを食べた時、バッグにハーモニカが入っていないことに気がついた。

きっとカフェに忘れてしまったに違いない!道路のサイドに目を配りながら来た道を辿った。方向音痴の僕は奇跡的にさっきのカフェに戻ってくることができた。

「ハア、ハア...。あのさぁ、さっきここにハーモニカ落ちてなかったかなぁ?」

僕はお店の人にこう尋ねた。するとお店の人はキレ気味でこう言った。

「はあ?何寝ぼけたこと言ってんだよ?
お前さっき、自分でバッグに入れてたじゃないか!」

いや、別に疑ってるわけじゃないんだけど...

「ごめん、もしかして置き忘れちゃったんじゃないかなと思ってさ。」

お店の人は自分にハーモニカを盗んだ容疑がかけられていると勘違いしたのだろうか?僕だって彼が盗んだなんてこれぽっちも思っていなかった。だって人のハーモニカなんて盗っても意味ないでしょう?

ああ、きっとスケボーに乗ってる時にバッグから落ちたに違いない。ハーモニカけっこういいやつだったのにな。言葉は通じなくても色んな人たちと仲良く慣れるコミュニケーションツールだったのに…。


僕は元気を失くしトボトボとホテルまで引き返した。近くの川沿いで沈む夕日に向かってギターを弾いた。周りの人たちがニコニコして聴いてくれた。

「ピーーーンッッッ…」

一弦が唐突に切れた。中国で買った弦。一ヶ月ももたなかった。

僕のギターを聴きながら釣りをしていたおっちゃんが僕の方までやってきてこう言った。

「いや!まだ行ける!」

根性と気合いで切れた弦をわっかにしてピンに固定し、慎重に弦を張っていく。

「お、おっちゃん...」
「あと少しだー...」
「ペーーーーーーンッ!!!」
無惨にも切れる一弦。

「楽器屋、すぐそこなんだけどー...行くか?
バイクに乗せてってやるよ...?」
「い、いいんすか!?」

HONDAのバイクに股がり、僕たちはフエの路上を走り出す。ベトナムでのバイクの二人乗りが妙に楽しかった!

バイクは風を切り、僕は叫んだ。



「I WILL GET STRRRRRRNG!!!」

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歩くとあんなに時間のかかった距離がバイクだとあっという間だった。

お店の人に手際よく弦を交換してもらったあと、僕たちは再び元の場所に戻り、

街の明かりがゆらゆらと反射するフエの川沿いでギターを弾いた。


現在、自作キャンピングカー「モバイルハウス」で日本を旅しながら漫画製作を続けております。 サポートしていただけると僕とマトリョーシカさん(彼女)の食事がちょっとだけ豊かになります。 Kindleでも漫画を販売しておりますのでどうぞそちらもよろしくお願いします。