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「貧乏ゆすりがゆるせない」

世界一周66日目(9/2)

朝焼けに包まれながら海を泳ぎたかった。

明け方、ちょっと涼しくなった頃に東の空から昇ってくる朝日を見ながら一人で海を泳ぐ。めちゃくちゃ気持ちいいんだろうな。僕はiPhoneのアラームを5時にセットして前日は眠りに就いた。

明け方5時。耳元でやかましく鳴るアラーム。

部屋は夜遊び組のためにカーテンが閉め切られている。朝日なんてこれっぽっちも入らない。

『うぅ....眠い...
寝よう..』



まぁ、海なんて入らなかったよね笑。
そんなもんだ。僕は。

せめてカーテンが開いていて朝日が拝めれば『頑張っても海行かなきゃ!』ってなたけどね。でも、部屋の中は昼でも薄暗いし、仮に海に行ったとしよう。濡れた水着はどうすんのさ?前日にサイゴン行きの列車のチケット買っちゃったし、いくら速乾性に優れていても乾かないんじゃ意味ないもん....早い話めんどくさかったんで。

結局、8:30に二度寝から覚醒し、僕は身支度を整えてTrue Friend Hotelから歩いて30メートルのところにあるカフェに向かった。

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 昨日もこのカフェで漫画の下描きを3時間させてもらった。僕がお店に行くと昨日と同じ店員さんがいた。

「Can I use table today?」と訊くとお姉さんは「全然大丈夫よ!」とでも言うようにニッコリ笑ってくれた。「いいカフェ」ってのには素敵な店員さんがいるもんだ。

僕は昨日と同じ風景を見ながら原稿用紙にインクを入れていった。朝10時過ぎから始めた漫画製作は順調に進んだ。時々僕はGペンを置き、通りを眺めた。向かいのカフェでは欧米人が日差しから逃れるようにテーブルに腰を落ち着けダルそうにタバコを吸っている。

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安そうなパチもんのサングラスを売るおじちゃん、おばちゃんたちに何度も声をかけらそうになる。彼らと目を合わせようものなら『商機!』と言わんばかりに絶対こっちに来るのだ。そんなパチモノいらない。

キャンディーからタバコ、ボールペンなど様々な小物を売るおばちゃんはテーブルの上に置いてあるタバコの箱を見て「タバコもっとどう?」と訊いてくる。
「もう持ってるから。悪いけどいらないよ」と僕は断る。漫画を描いているだけでこのやりとりを何度もした。

おばちゃんたちもこんな暑さの中でも観光客を相手に物を売るって大変だよな。物を売るって大変だよな。食べ物や雑貨ならまだ買っていく人はいるだろう。五度目くらいの営業に僕も根負けしてタバコを買い求めた。

タバコをふかしながら考える。「サングラスの需要はどれだけあるんだろう?」それくらいこの街にはサングラス売りが多かった。

5時間くらいカフェのテーブルを占領した頃ついに同じテーブルのお向かいのチェアに欧米人のおっちゃんが座った。僕は急いで原稿用紙をどかし、おっちゃんのスペースを作った。

僕は店員さんに長い時間テーブルを使わせてもらったことでお礼を言うと店員さんはニッコリと返してくれた。「いいカフェ」には素敵な店員さんがいる。

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よたよたとバックパックを背負って僕はPennyでニャチャンの路上に出た。ホイアンでさぶちゃんに荷物の仕分けを手伝ってもらったことにより今までよりかはバックパック、サブバッグを身につけたままPennyに乗りやすくなった気がする。

ニャチャン駅に到着すると僕は時間を持て余し、ギターを取り出した。夕暮れに似合う歌を歌いたかったのだ。出だしのコードを鳴らした瞬間に一弦が切れた...。フエで買って、まだ一週間も経ってない…。中国の弦もそうだったがベトナム製の弦もすぐ切れてしまうようだ。ちゃんとしたメーカーの買わなくちゃダメなようだ。

駅のホームでコーラを飲みながら僕は一弦のないギターで静かに歌い、いつもどうり遅れてやってきた列車に乗ってサイゴンを目指した。

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指定された座席に着いてしばらくすると僕の隣にチケットなしのヤツが座って
貧乏ゆすりをし始めた。

浪人時代、入試が近づいてくると不安やプレッシャーから些細なことにもイライラすることがあった。コンビニ袋から食べ物を取り出す音やイヤホンから漏れる音楽。ヒソヒソと話す声。本をせわしくめくる音。そして貧乏ゆすり。

あの「サワサワサワーーーーー!!!」ってのがダメなんだよね。
隣のヤツが「貧乏ユスラー」だと音よりも振動がくるんだよね!

浪人時代の嫌な思い出から、貧乏ゆすりをするヤツを憎むようになった。あの動作が許せない。目障りだ。

「僕の席はここなんだけどさ。君さチケット持ってんの?」
「ん?ないけど?」
「他の席空いてるよ」
「…」

僕は日本人に備わった婉曲表現で彼を隣の席から追い出し、ベトナムスタイルで列車の狭い木製の椅子に横になった。

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現在、自作キャンピングカー「モバイルハウス」で日本を旅しながら漫画製作を続けております。 サポートしていただけると僕とマトリョーシカさん(彼女)の食事がちょっとだけ豊かになります。 Kindleでも漫画を販売しておりますのでどうぞそちらもよろしくお願いします。