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「僕は旅する漫画家」

世界一周208日目(1/22)

誕生日をインドの列車の中で迎えた。25歳。世界を旅する年だ。

列車の到着時刻より早めにアラームをセットし、外を見るとまるで日本の冬景色のように靄がかかっていた。それにインドで経験したことのない寒さを感じる。
次に訪れる予定のネパールはもっと寒いんだろうな。

バックパックを出入り口に運び、駅に到着するのを待っていた。同じくジョードプルで降りる兄さんたちとちょっとお喋りをし、僕の誕生日が今日だということを伝えると彼らは笑顔で「congraturation!」と握手してくれた。150ルピーで泊まれるような安い宿が駅周辺にあるらしい。だが、僕はそこへは泊まらないだろう。

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列車は予定よりも少し遅れてジョードプル駅に到着した。

世界一周するために日本でバイトをしていた2012年。僕はいろんな人の世界一周ブログを読んだ。そこでインドを訪れた旅人たちが必ずと言っていいほど訪れる「ジョードプル」という街。崖に囲まれたこの街を高い場所から見渡すと、いくつもの水色の建物がこの街を彩っているのを目にすることができる。そんな写真をブログで知った。

僕は日本にいた時からずっとこの街に来たいと思っていた。インドを旅しながら、25歳の誕生日をこの街で過ごしたら最高だろうなと思っていた。


『さて、どっちに進めばいいんだ?』

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とりあえずマップアプリでゲストハウスがいくつかある方向に進んでみることに。

駅を出て、トゥクトゥクの客引きをかわし、あてもなく進んでいく。道端ではストールを巻いたおっちゃんたちがチャイをすすりながらたき火をしていた。

近くにあった旅行代理店に「ガイドブックなくしちゃってさぁ、ブルー・シティにはどっちに行ったらいいのかなぁ?」と尋ねる。ガイドブックなんて持ってないんだけどね(笑)。

代理店のおっちゃんはすぐに「あっちだ」と教えてくれた。進んでいる方向は間違いないようだ。が、ゲストハウスのある場所へ進んでいってもブルーの建物どころか古びた茶色い建物しか見えてこない。これじゃブルー・シティどころかブラウン・シティーだ。ここを訪れた何人かは「青の街だなんて言い過ぎだ」とブログに書いていた。

僕は間違った場所に来てしまったのだろうか?ちょっと不安な気持ちになった。

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いやいや!間違いじゃないはずだ!

さっき列車であった兄さんも青い建物は有名だよと言っていたし、旅行代理店のおっちゃんもすぐにあっちだと教えてくれたではないか!そう自分に言い聞かせる。

宿には他にも3人組の韓国人の男の子たちや欧米人ツーリストの姿もあった。古びた茶色い建物の群れを抜け、朝の市場に出た。市場の中央に時計台が建っていた。

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さっきまでは見えなかったが、徐々に薄くなっていく朝靄の間から街を囲む大きな絶壁が見えた時、鳥肌が立った。

『間違いない!僕が来たかったのはこの街だ!』


時計台を抜けると、ゲストハウスや水色の建物を目にするようになった。だが僕はいつものように値段を訊くどころか入り口に入ることさえしなかった。

『違う。僕が泊まりたいのはここにある宿じゃない』

街を見渡せる街の高い場所にある宿で温かいチャイを飲みながら青の街を眺める自分の姿のイメージがずっと自分の中にあった。きっとそういうところはちょっと宿泊費が高いのかもしれない。だけど、僕はそこに泊まらなくてはならないのだ。

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ガイドブックを持っていればどこに自分のイメージする宿があるのか一発でわかるんだろうな。だけど僕はガイドブックを持っていない。そのほうが新鮮に感じることができるから。

当てのない予感とイメージで絶壁に向かって進んでいった。バックパックの重さが肩にきている。

急な坂道のてっぺんにまさに自分のイメージしていたゲストハウスがあった。

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ニット帽をかぶったおっちゃんが建物から出てくる。宿泊費を訊く前に値段交渉に入る。

「ここに一週間とまるから!1400ルピー、いや!1500ルピー(2,473yen)でいい?」
「う~ん…」
「そんなまとまったお金が手に入るんだよ?ね?いいでしょ?」
「ちょっと待ってな」
「コンニチワ~♪」

いたずらっぽく笑う宿のママが僕を出迎えてくれた。さっきおっちゃんに言ったのと同じことを宿のママに尋ねる。

「それに今日は僕の誕生日なんだ!だからさ、お願い!」
「ホント~!!?オーケー。そのかわり他のお客さんには「シィ~~~ッ…」だよ」

そういってママは人差し指を唇の前に立てた。

「チェックアウトするお客さんがいるから二階のレストランで待ってな」

バックパックを置かせてもらい、宿のすぐ向かいにあるレストランのテーブルに着くと、世話好きで愛想のいい韓国人の女のコがメニューを持って来てくれたり、Wi-Fiのパスワードを教えてくれた。

「君はここのスタッフなの?」
「いいえ。ただのお客さんよ」

宿には他にも3人組の韓国人の男の子たちや欧米人ツーリストの姿もあった。

20ルピー(33yen)のブラックコーヒーを注文するとインドでは信じられないくらいの大きなマグカップに入ったブラックコーヒーが出てきた。

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まさにここは自分がイメージしていた宿だ。二階のレストランから街が見渡せる。朝靄でまだぼやぼやとしているが、まばらに水色の建物を見ることができた。

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宿のスタッフのひとりは「マジデ~~~!!?」という日本語のフレーズを知っていた。

チェックインした後は部屋に荷物を置き、洗濯物を済ませて、繋がらないWi-Fiをどうにかしてもらい、(これにけっこう時間がかかった)漫画製作をした。

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西北に位置するジョードプル。夕方になると寒さを感じる。

夕方になり自然光が十分じゃなくなると僕は少し街を歩いてみることにした。

狭い路地。絶壁に寄り添うように家が建っている。

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子供たちは僕の姿を見ると元気よく「ハロー!」と声をかけてくれる。近所のおじさんがニコニコしながら僕に手を振る。二階で洗濯物を取り込んでいるおばさんと目が合う。なんだか旅人慣れした人たちがここにはいる。

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建物はどれもが水色というわけではない。だが、ほんの数分この街を歩いてみただけで、僕はすぐにこの街が好きになった。絶壁の頂上にある要塞には曜日の関係で入ることができなかったが、街を一望することができた。角張ったブロックの様な建物たちがまるでおもちゃ箱に入れられた様にぎっしり詰まっていた。



日は沈み、街にはオレンジ色した蛍光灯が灯る。

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『唄うしかない!!!』

ここは人通りもないしバスキング向きじゃないけど、このシチュエーションは唄うしかない!

自分の部屋に戻るとギターだけ持って外に出た。場所によってはバイクやトゥクトゥクが衝突防止のためにクラクションを鳴らし、声がかき消されてしまう通りもあった。

だが、僕が唄い始めると子供たちは面白いものを見るように集まってきた。別のゲストハウスの前で数曲唄わせてもらうと、「いいね~!」と拍手をもらいパラパラとお金が入った。

21時。バスキングを終え、暗いオープンテラスでキラキラと赤や青の電飾が回る、人の少ないレストラン。冷たい風を感じながらタバコを吹かした。

いい誕生日だったな…。


「シミサ~~~~ン!!!「ハッピーバースデー・トゥー・ユー♪」

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宿のスタッフが集まり、ママの手にはバースデイ・ケーキが。その場にいた何人かのツーリストたちもバースデーソングを歌ってくれた。

僕は宿の宿泊費をディスカウントしようと、かなりしつこく「ね!今日誕生日だからさ!」と言ってきた。(パスポートの出生日まで見せて証明したのだ)

ママは「じゃあ今日はパーティーだね~♪」と言っていたが、冗談なんかじゃなかったんだ!

てかこのケーキ。僕のためにわざわざ買ってきてくれたのか。

体中が幸せで満ちる。

心の底からインドに戻って来てよかったな。この街で誕生日を過ごしてよかったなと思った。

インドが、僕の誕生日を祝ってくれたんだ。

「本当にありがとう。おれ、幸せです。インドに戻って来てよかった。人生の様々なきっかけや指針をくれたのはインドなんです。おれー…
インドめちゃくちゃ大好きです!!!」

スタッフのみんなはママが切り分けたケーキをむさぼっている。

話を聞いてくれたのは横にいたドイツ人のお兄さんだけ(笑)。ははは。インドらいしや。

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二曲唄わせてもらい、150ルピー(247yen)のキングフィッシャーを頼んだ。

後から戻って来た韓国人の男の子たちとビールを飲みながらお喋りをして、僕の誕生日は幕を閉じた。

さよなら24歳。
今日で僕はひとつ歳を重ねた。未熟な部分は多くて、まだまだ迷惑をかけるだろう。だけど、追い求めている夢は必ず叶えてみせる。

僕の名前は清水陽介。
ニックネームはシミ。
そして「旅する漫画家」だ。

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現在、自作キャンピングカー「モバイルハウス」で日本を旅しながら漫画製作を続けております。 サポートしていただけると僕とマトリョーシカさん(彼女)の食事がちょっとだけ豊かになります。 Kindleでも漫画を販売しておりますのでどうぞそちらもよろしくお願いします。