「デッドベアのレックスくん」
世界一周68日目(9/4)
僕と一緒に世界一周の旅をしている仲間がいる。デッドベアのレックスくんだ。
レックスくんはいつもサブバッグの中にいて度々、僕の旅の写真に登場してくれる。僕が漫画を描いている時のトレードマークとしてテーブルに彩りを加えてくれたりもする。レックスくんはテーブルの上にいる時は女の子ウケがいいのだ。モテモテなのだ。レックスくんは。
ちなみにデッドベアというのはアメリカのサイケデリックバンド「ザ・グレイトフル・デッド」のマスコットキャラクターで、色々なバリエーションを持つ熊のぬいぐるみだ。正直なところ、本家のバンドの方はほとんど聴いたことがない。野外フェスやキャンプ、ヒッピーカルチャーが好きな人はけっこう持ってたりするんだよね。デッドベア。
そんなデッドベアのレッススくん。
僕が世界一周に旅立つ前に「コイツも旅につれていってくれ」と友達からもらったものだ。
レックスくんの名前の由来は渋谷で僕と友達がボルダリングをしている時に出会ったドイツ人、アレックスからきている。一緒にボルダリングしたり王将の餃子を食べに行ったりパチンコに行ったりもした。そんな日にもらったデッドべアだったから「コイツの名前何にする?」と訊かれた時に僕の頭に思い浮かんだのは「アレックス」だったのだ。
レックスくんには日本にいる双子の兄弟がいる。アレックくんだ。
なんと友達はまったく同じデッドベアを二体用意していたのだ。「無事シミが旅から戻ってきて二人を再会させよう。コイツがレックスのことを日本で待ってるから」と友達は言った。
この話をするとBL好きの女のコはむっちゃ興奮して、僕のことを変な目で見るんだけど、いやいや、そういうんじゃない~_~;
友達が洒落ていただけだ。
僕が世界一周の旅を終えて二人が再会した時にレックスくんがどんな変貌を遂げているのか楽しみでしょがない。
今日はそんなレックスくんにほんのちょっと関係のあるお話。
僕の泊まっているHALO GUEST HOUSEのスタッフさんたち(お母さん、娘、息子の3人)はいつもヒマそうにしている。中でも息子のユーミン・ホーに至っては宿泊客の対応をする時以外はいっつもYouTubeを見ている。もしくはFacebookで友達の近況を除いているかのどちらかだ。
団欒スペースで同じようにヒマそうにしている宿泊客を見つけてはひとこと、ふたこと冗談を飛ばしてはいたずらっぽくケタケタ笑う彼はなかなかユニークなヤツだ。僕が漫画を描いていると彼はよく製作現場を除きに来た。
「ねえ、何やってるの?」
「いつ終わるんだい?」
「まだやってるの?」
漫画を描くのがめずらしいのかテーブルの脇にちょこんと座ってけっこう長いこと僕の作業風景を見ていた。仕事はしなくていいのだろうか?
ユーミンは大学を卒業したばかりの21歳。自前のノートパソコンのデスクトップはタンクトップ姿でカッコよくキメたモノクロの彼の写真。ゲストハウスのスタッフだけあって英語はずいぶん喋れる。
彼の欧米人宿泊客とのやり取りを見て「ちゃんと仕事してるんだ〜」と冗談めかして僕が言うと、彼のお姉さんは
「何言ってるのよ!コイツはお客さんに対してニコニコ笑ってることしかしないんだから!」と言った。ひどい言われようだ。
まぁ、そんなヤツなんだよユーミンって男の子は。
ゲストハウスの仕事があまりないのか、いつもヒマそうにしているユーミン。僕も漫画を描くためにゲストハウスのテーブルを半ば占領していたから彼と話す機会は多かった。
世界一周をする旅人としての僕の生き方(それでいてリスキー)の話や日本の経済的豊かさの話をすると彼はこう言った。
「いいよね。自分の好きなところへ行くことができて。ベトナム人はそんな風に自由に旅することができないよ。だからさ、コイツも運がいいんだな。君と一緒に世界中を旅することができるんだもんな」
彼はレックスくんを見てこう言ったのだ。「運がいい」と。
僕は世界をめぐる旅をしているけど、ユーミンが僕と同じことをするのは難しい。だけど、僕が旅をすることでレックスくんはユーミンができないことをしているのだ。
だれもかれも世界を旅することができるわけじゃない。僕は彼らの生活のほんの一場面に登場したに過ぎない。彼らの生活はまた同じように繰り返されていく。申し訳ないと思うのも違う気がする。
相対的に見れば僕は運がよく恵まれていると思う。自分の置かれた立場をもう一度見直して旅を続けられることに感謝しよう。
現在、自作キャンピングカー「モバイルハウス」で日本を旅しながら漫画製作を続けております。 サポートしていただけると僕とマトリョーシカさん(彼女)の食事がちょっとだけ豊かになります。 Kindleでも漫画を販売しておりますのでどうぞそちらもよろしくお願いします。