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「僕が路上で歌う理由」

世界一周69日目(9/5)

僕はその日もHOLA GUESTHOUSEのテーブルを占領してハードディスクと戦っていた。

写真データのバックアップ用にポータブルハードディスクとやらをAmazonで買って持ってきたわけだけれど使い方が全く分からない。『パソコンにつないで写真ぶちこめばいいんでしょ!かーんたーんじゃーん!』と調子をぶっこいていたのだ。僕は方向音痴であると同時に機械音痴でもある。

いや、現代人はみんなわりかしそうなのかも。iPhoneが使えても仕組みが分かっていないのと同じように。中には機械の構造やシステムを理解して使いこなす人もいるだろう。だが、世の中の大半はLINEやSafariなど簡単なツールだけ使えればいいやという人が多いのではないだろうか?僕はそれが顕著なのだ。

2時間かけてやっとこさCANON kissX3で撮った1300枚の写真をHDにぶちこむことに成功した。残りのSDカードの写真はもうめんどくさくなっちゃってやめた。まあいいさ。また時間のある時にゆっくりやろう。

日本にいるときは、写真なんてiPhoneのものをそのままパソコンにバックアップしていただけだし、そもそもデータが紛失するかもしれないという可能性を考えたことすらなかった。旅に出てカメラで写真を撮るようになり、SDカードのデータをどこかにバックアップする必要性に迫られた。当たり前ようでも初めてやることだってある。


この宿にも僕と同じように困った状況にワタワタしている大学生たちがいた。持ってきたクレジットカードでお金が引き下ろせないらしい。ハノイにいた時の自分みたいに困っているようだったので僕は自分のアカウントからスカイプで銀行に電話をかけさせてあげた。結局なんでおろせないのかは解決しなかったんだけど。

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彼らの一件が片付くと僕は何もすることがなくなってしまった。漫画も描き終えたばかりだし新しい話を描くのには時間が足りない。

かといって中国、ピンヤオの宿で交換したジョン・アーヴィングの「ホテル・ニューハンプシャー」を読む気にもなれなかったし、ネットサーフォンで残りの時間をつぶすのはもったいない気がした。

旅をしていても中途半端な時間というものがあるのだ。



僕はふとこのベトナムに来てから路上ライブをしていないことに気づいた。

別にプロを目指してるとかそんな大それたものじゃない。ギターだって数曲のカバーソングと3曲の自作の曲しか持っていない。アルペジオのようなかっこいい演奏法なんかできやしないし、ましてや楽譜さえ読めない。コードを抑えるのが精一杯。

そんな僕が路上ライブをやる理由。それはこれが「真剣な遊び」だから。


歌うのが好きだった。

中学や高校の文化祭でバンドを組んでステージに上がるヤツらがカッコよく見えた。うらやましかった。

『あぁ、楽器さえ弾ければおれもあそこで輝けるのになぁ』そんな想いを抱えて浪人明けの大学では軽音サークルに入った。だけど、周りの音楽の知識についていけなかった。自分のやりたい音楽って言ってもコピーだけどを一緒にやってくれる人はなかなか見つからなかった。

大学で初めて組んだバンドは日程調整やらリーダーシップやら初めてのことだらけでそれに人間関係が加わるとバンドを組むことは難しいと感じた。毎週のようにある飲み会に嫌気がさしていたし、僕は最初の文化祭のサークルの人間しかこないような舞台で大好きな藍坊主の曲を数曲歌って、そのサークルを辞めた。

コンプレックスや挫折、羨望、自分がやりたかたっこと自分ができなかったこと。


ギターはコミュニケーションツールとして僕の役に立っている。ものすごく。

でも、僕がギターを持って路上に立ち、お金が入れられるためのギターケースを足下に置く時、それは「真剣な遊び」に変わる。ただ自己満足で歌うわけじゃない。エンターテイメント性をもって聴く人が何かが残せるよう歌う。

そして路上パフォーマンスはゲーム的な要素もある。何も伝わらなかったり残せなかった時はお金は入らない。誰がこんなアマチュアギター弾きにお金を落とすだろう?だが、自分のエンターテイメントがほんの少しでも伝わった時、それはレスポンスという形でギターケースの中へ置かれる。時に同情票という形でお金を落とす人もいるだろう。レスポンスをくれた人に感謝の気持ちを言うのに違いはない。

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バイクの走行音から逃げるように僕はバーのある通りに行き着きホテルの脇でギターのチューニングを始めた。

隣にいたヒマそうな警備のおっちゃんはニヤニヤしながら僕に椅子を差し出してくれた。「立って歌うことにするよ。ありがとう」といって差し出された椅子を断った。立って歌わなければ伝わらない気がするから。

通りに向かって数曲歌ってみたがレスポンスはちっともえられなかった。だが、歌うことが楽しかった。次の曲を歌いだした時欧米人の女性と目が合った。通り過ぎる彼女に僕はニッコリすると、彼女は引き返して5000ドンをケースの中に置いてくれた。

「thank you!」
歌の合間にポソッと言った。
コードが上手く抑えられない。

次にお金を入れてくれたのは雑貨売りのおばちゃんだった。
いつも同じ通りを何度も何度も行き来して観光客に物を売るおばちゃん。
いつも大変だろうな。

おばちゃんは僕が歌ってる最中何度か同じ路地を通り僕にニコニコと笑顔を向けた後お金を入れてくれたのだ。

横にいた警備員のおっちゃんから歓声に似た声が聞こえた。その後は欧米人、ベトナム人共に僕にレスポンスをくれた。時々日本人の旅行者と目が合った。彼らはほぼ一様にスタスタと通り過ぎていく。どう思われようと構わないさ。僕はここで歌っていること。誰かが聴いていてくれること。それだけで十分だ。

最終的にケースの中に集まったお金は148000ドン。約700円。今まで旅して来た中で一番の稼ぎだ。

聴いてくれたみんなありがとう。

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現在、自作キャンピングカー「モバイルハウス」で日本を旅しながら漫画製作を続けております。 サポートしていただけると僕とマトリョーシカさん(彼女)の食事がちょっとだけ豊かになります。 Kindleでも漫画を販売しておりますのでどうぞそちらもよろしくお願いします。