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「カフェ難民」

世界一周186日目(12/31)

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チェックイン/アウトが24時間制の宿はわかりやすくていい。

自分がやって来たのと同じ時間までに出て行けばいいのだから。

荷物をまとめてバックパックだけ宿に預けた。パックセーフにくるんで付属の南京錠で中の物が盗れないようにロックする。

宿のスタッフたちがギターに興味津々だったのでギターは外に持っていくことにした。

監視カメラのついている宿だったので、客の私物に手を出すようなことはないと思ったが念のためだ。金網の隙間からサイドポケットの物は取り出すことができてしまうが、こういう時にパックセーフは安心感を与えてくれる。


さてと…。

まずは列車のチケットのコンファームからだな。

今回取ったチケットはWL(ウェイト・リスト)ではなく、WLよりも優先順位の高い「RAC」というもの(なんの略なの?)。調べたところによるとキャンセルが出次第、席がもらえるということらしい。

キャンセルが出ないなんてことはほぼないから、このチケットは実質有効だ。

6日も前に取ったチケットなので、駅に行ってコンファーム(チケットの有効化みたいなもの)をしてもらうことにした。

ネット屋が近くにないので直接駅に訊きにいくしかない。不便だなぁ。

「あなたの乗ることになっている列車はここには来ないわよ」
「えっ!!?」
「だってこれ、「Chennai Egmore駅」発のチケットだもの」

どこだよ!!?チェンナイ・エグモアー駅って!


チェンナイは大きな街なので複数の駅がある。

チケットをネットで取る際、出て来た選択肢を特に何も考えずに選んだのだが、まさかここに来ないなんて!

「エグモアー駅ってどこにあるんですか!?」
「ここからだいたい2キロくらいね」

歩いて行けないくもないけど、今夜の列車旅を考えると無駄な体力の消耗は避けたい。バスだな。安いし。まぁ、ラッキーだった。事前に分かって。これが出発の1時間前とかだったらアウトだったもんね(笑)

列車の発車予定時刻は22:30。

パソコン、一眼、アウター、その他諸々の7キロのフル装備のサブバッグと

移動用に20枚程度に軽くした原稿用紙、Gペンなど漫画製作のための道具が入った手提げバッグ、そしてギターを持ってまずはネット屋に足を運んだのだが、やっていない。

しかたなしに今度は漫画製作できそうなカフェを探すことに。

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『このテーブルはよさそうだな』とホテル兼カフェの外から眺めていたら若い店員に手招きされ、僕は呼び寄せられるように中に入っていった。

一杯20ルピー(33yen)のチャイなんだかミロなんだかわからないホットコーヒーをお供に旅ノートに漫画の構想を書き始める。

お店には僕以外にお客さんはいない。これならたっぷり作業できそうだ!そう思ったのも束の間、開始10分でボス的店員から嫌な視線を感じた。


「サー、他にご注文は?(おい…お前、コーヒー飲んでさっさと出て行けよ…)」

直接言わなくても副音声が聞こえてくる。


確かにお店側からしてみたら、吉野屋みたいに食べ終わってお金払ってバイバイまたねー!的な回転率を上げる方がいいだろう。フードも頼まずにコーヒー一杯で長居するのは厄介な客なのかもしれない。

でも僕はね、これは「あり」だと思うんだよ。だって加藤登紀子も唄っているじゃないか「コーヒーを一杯で一日」って。えっ?何の歌かって?「紅の豚」だよ。「時には昔の話を」って曲名でエンディングに流れるだろう?

そりゃお客さんでいっぱいの混雑時はコーヒー一杯で粘ってるようなヤツを追い出してもいいと思う。お店も利益を出さなくちゃいけないしね。でも今は11時。しかもノーゲス(お客さんが一人もいないこと)なんだぜ?

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「サー、他にご注文は?」
「うん、今はこれだけでいいよ。もしかしたら後で頼むかも」
「すいません、ここの部屋はまだ掃除してないんですよ。他の部屋に移ってもらってもいいですか?」

奥の部屋はホテルの宿泊客が朝食をとる様な薄暗い照明の部屋が。作業するのには向かない。


「いや、僕はこっちのテーブルがいいんだ。掃除の終わった場所のテーブルを使うよ」
「ですが、サー。掃除しなくてはいけないんです」


鼻を手でつまみ、スプレーをばらまく仕草をする店員。そういえば何匹かハエが飛んでるな。「わかったよ。じゃあそっちに移るよ」と案内された別室でできるだけ照明の明るいテーブルを選んでノートを広げた。今度は5分もしないで偉そうなマネージャーみたいなヤツがやって来て僕に言った。

「ここは個人的な仕事をする場所ではない。チェックしてくれ」

オイオイオイオイ!まだ30分も経ってねえじゃねえか!こっちもむざむざ20ルピーは払う気はない!


「他にお客さんいないじゃないですか?せめて1時間はいてもいいでしょう?」
「ダメだ」


ガラガラのお店で追い出しを食らうなんて思わなかった。僕を手招きして呼んだ若造は「10分くらいで出て行くかと思ったから」なんて言い訳がましく言う。僕はお小遣い帳をつけただけでカフェを後にした。

あ〜、よかったねお客さんが来て。




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「カフェ難民」だ。僕は。

一体この街のどこに行けば漫画製作にうってつけのテーブルにありつけるっていうんだ?他の国でもそうだったが、特にインドでは、日本の様にちょっと行けばチェーン店のテーブルにありつけるわけではない。
宿にはほとんどテーブルなんてないし、照明の不十分な部屋のテーブルで絵や文字を描くのは骨が折れる。頻繁に客の出入りがある飲食店じゃ1時間以上作業するのは無理だろう。
となるとカフェしかない。まぁコーヒーすすりながら作業するのが好きなんだけどね。

マップアプリを頼りに2キロ先のマクドナルドを目指す。

とりたてて目印もない中途半端な場所にあるので何と言ってバスに乗ればいいのか分からないので歩いて行く。

じわじわと照りつける太陽。
車の排気ガスに巻上る砂煙。

バスで行けばあっという間の距離だが、歩いて行く2キロは、しかも通ったことのない道は長く感じる。

大きなカフェの入っていそうな商業用のビルかと思いきや車の販売店だったり。歩いてもマックが見えてきそうな気配はない。



『はぁ...はぁ...、おれ、なんでこんなことしてんだろう?』



そう思った矢先にまるで想像が現実になったようなカフェが入ってきた。

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こっ…!これだ!

カフェの店員がようこそ!と言わんばかりに僕に笑顔を向けてくれる。

さっきの二の舞は避けたいところなので「ここで数時間絵を描いてもいいですか?」と尋ねると「もちろん!さぁ!中に入って!」と僕の到着を待っていたかのようにカフェに案内してくれた。

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お洒落な内装に2階建て。

やはりカフェということでいつも食事を済ませる安いメシ屋に比べたら格段に高いんだけど、僕は一番安い49ルピー(81yen)のサウス・インディア・コーヒーと
55ルピー(91yen)の桃の天然水的なペットボトル飲料をオーダーして2階のテーブルについた。

コーヒーを運んできてくれた店員は「ほんとうにご注文はこれだけでいいんですか?」とけっこうな食い下がりっぷりだったが、「まずはこのコーヒーを楽しませてくれ」とちょっとかっこつけて言ったらそれ以上は追加のオーダーを訊いてきたりはしなかった。

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出されたコーヒーに僕は驚きを隠せなかった。

きめ細かいフォームにマキアートが施されている。

このクオリティの高さはインドを越えた。ハイデラバードのカフェで頼んだ80ルピーのグランデサイズのカプチーノなんて目じゃない。

僕はこんどこそ正真正銘のコーヒーをお供に、3時間ほど漫画を描いた。

ほんとうは、もう少しいたかったんだけど…

うなりをあげるエア・コンディショナーが強敵だった。最初は涼しいと感じていたのだが、気づいたら徐々に手の感覚がなくなってきた。線もうまく引くことができない。僕は店員に「寒いから温度を上げてくれ」と頼んだが、気持ち程度にしか室温は調整されなかった。




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時刻は16時。

そろそろ宿にバックパックを引き取りに行ってチェンナイ・エグモアー駅に向かうとしよう。

バスでセントラル駅まで戻り、宿に行く前にバスキングをしたのだが、3~4曲でストップがかかった。はいはい。すぐ去りますよっつの。

預かってもらっていたバックパックを引き取り、エグモアー駅へ向かうバスを教えてもらい、駅前で再び唄った。

場所が悪くて音なんて全然聞こえなかったのでかなりシャウト。アガリはそこそこ。

「あなたは何で唄っているの?」
女のコが僕に尋ねる。
「パフォーマーだからさ♪」
と僕は答える。



そんなことをしていると時間はすぐに経つ。

時間通りにやって来た列車のサイドアッパーに横になり目を覚ますといつの間にか25時をまわっていた。

旅に出て6ヶ月が過ぎた。

寝台の物を入れる網にトンボのミイラが入っていた。横になってそれをぼんやり眺めながら考えごとをしていた。

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現在、自作キャンピングカー「モバイルハウス」で日本を旅しながら漫画製作を続けております。 サポートしていただけると僕とマトリョーシカさん(彼女)の食事がちょっとだけ豊かになります。 Kindleでも漫画を販売しておりますのでどうぞそちらもよろしくお願いします。