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「元陽。ボラれたりセビられたり」
世界一周54⇨55日目(8/21,8/22)
昆明(kunming)からバスに揺られること7時間。僕は元陽(yuanyang)にたどり着いた。ここにやって来たのは棚田が見たかったからだ。
去年、世界一周の資金集めのためにバイトにあけくれるかたわら漫画を描くための資料として入れていたアプリfotopediaの中国版(なぜか中国だけは異常に充実している)で見つけた美しい棚田に心を奪われた。
ガイドブックや旅ブログによるネタバラシ的なその土地の紹介に反感を持っていなくもない僕は(まあ人それぞれだよね)どういうわけかこのアプリで知った元陽の風景だけは素直に『見てみたい』と思えたのだ。
昆明駅のバスターミナルから5元で元陽行きのバスが出る大型ターミナルまで移動し、そこから前日139元で買ったバスのチケットで朝の10時20分に出発した。
ここで僕はある特技を身につけた。
とことん寝られる特技だ
いつからだろう?硬座の列車に繰り返し乗るうち、アホみたいに時間のかかる車内でやることと言ったら現地の人に絡むか、本を読むか、音楽を聴くか、外の風景を見るか(すぐに飽きちゃう)寝ることくらいしかない。
脳みそが退屈だということを認識しているからだろうか?車内での睡眠が浅いからもあるんだろうけどトコトン寝れてしまうのだ。起きてようとしてもまたすぐに眠くなってしまう。これを特技と言わずになんと呼ぼうか?
たぶん僕の前世はのび太くんだったに違いない。
前日ぐっすり寝たはずなのにこの日も僕はバスの中でうたた寝を繰り返した。おかげで7時間のバスの移動もあっという間に感じた。
せっかくの旅の移動を睡眠に費やしてしまうの勿体無い気もするが、とにかく僕は元陽にやってきたのだ。
バスは1時間遅れて夕方6時に元陽、新街(xinjie)のターミナルに到着した。
予約したユースホステルまではミニバスを使わなくてはならない。
ミニバスの出る場所を尋ねたお姉さんがたまたま英語に堪能だったこともあり僕はすぐにミニバス乗り場に行くことができた。(まぁ歩いて5分の所にあったんだけど)
「ラオジャイまで行きたいんだけど、
いくらかな?」
「100元」
ミニバスの運転手が言う。
とんでもない!ここまで139元も払ったのにそこらへんまで車を走らせるのに1,600円もかかるなんて!明らかにボッてきてる。
ここから僕は値段交渉にはいるんだけど、おっちゃんは一向にして値段を下げようとしない。僕は周りにいた他のドライバーに浮気をするそぶりを見せたんだけど、それも効果なし。それどころか他のドライバーも似たような金額をふっかけてきやがる!
さっき道を訊いたお姉さんがやって来て、「この時間は遅いから値段が高くなっちゃうのよ」と言う。それでもバックパッカーにとっては高い。
僕はなんとか粘って値段交渉をつづけ、60元(千円)で妥協してホステルのあるラオジャイに向かった。
ミニバスの中から見える棚田は圧倒的だった。
急な斜面に作られた無数の棚田。これだけのものを作るのに一体どれくらいの年月がかかったのだろう?
棚田を眺めながらも僕はあることがことが気になっていた。さっきからちょいちょい乗り込んでくる現地の人たちは一体いくら払ってるんだろう?ということだ。
運転手のおっちゃんは「おーい!乗ってくかー?」と、道ゆく人に尋ねる。
現地の人たちは「それじゃ乗っけてってもらおうかしら」とホイホイ乗り込んでくる。
降りたと思ったらまた別の人が乗り込んでくる。そして払ってる金額が明らかに少ない
『ちがうんだ...そうじゃない。僕は60元支払ってこの車を走らせたんだ。それを他の人がシェアしてもいいじゃないか...それにこの距離を日本のタクシーで走らせたら千円は超えちゃうんじゃないかな?うん!きっとそうだよ。中国では高い金額だったとしてもこれはwin-winの取引だったんじゃないかな?
でも、やっぱり高いよなぁ...だってユースホステルのドミトリーが一泊40〜30元だぜ?』
僕は必死に自分の払った金額が妥当であったと思い込むことにした。
宿に着くと、僕はホステルのスタッフにここまでの値段を尋ねてみた。
「フィフテーンだね」
「fifty?あぁ、50元ね」
「いや、fifteeeeeeeen」
「………」
この日の僕の夕食はインスタントコーヒーとひまわりの種だった。
山奥だということもあり元陽の朝は冷える。
僕は布団から出られないまま朝の10時に目を覚ました。
前日洗っておいた洗濯物を屋上に干して近くの村を散策した。
棚田が有名なここら辺では観光地化が進み、英語表記の看板が立っている。観光地化されていたとしてもビレッジ感がちゃんと残ってることに僕はなんだか嬉しくなった。
バイト時代に読んだ世界一周ブログ「神林一馬の世界一周」(これはとてもドラマチックなお話なんだけど、興味のある人は是非)の神林くんが都心よりもビレッジ感の残る場所が好きだと言っていた気持ちがよく分かる気がする。
なんだかこういうところって落ち着くんだよな。
僕はおばあちゃんが織物をしているのを見つけた。ニコニコして僕を見るおばあちゃん。「何を織ってるんですか?」って尋ねたらジェスチャーで頭につける被り物を織っているのだと言う。
僕は一眼レフで写真を数枚撮った途端、おばあちゃんの態度が豹変した親指と人差し指をこすりつけるサイン。
お金の要求だ。
今後の旅でも写真を撮ったことに対してお金を請求されるシチュエーションは度々あることだろう。気持ちも理解できる。自分たちの生活を観光客に対して見世物にしているんだ。彼らは自分たちの生活の一部を切り売りしているわけだ。
僕はお財布から1元のコインを取り出しておばあちゃんに渡そうとした。すると、おばあちゃんの不満の態度を露わにした。
「あんた!寝ぼけたこと言っんじゃないよ!5元だよ!5元!」
手のひらを僕の目の前に突き出してお金を請求してくるおばあちゃん。さらには全く関係ない取り巻きのガキンチョたちもお金を請求してきた。
「いやいや。1元でいいでしょ?」
これでもフンパツしているのだ。1元あれば中にあんこの入った揚げパンが買えるよ。(モチモチしてて超うまい)それに5元って言ったら僕にとってはその日のメシ代に近い。
7元で食べるラーメン。6元の朝マック。5元のスナック。2元で乗れる市バス。1元のパン...
ちょっと足を止めて、数枚パシャパシャ撮った写真に5元はデカい。これが彼らの時間を割いてまで撮った写真なら話は別だ。僕は別におばあちゃんの作業を中断させたわけじゃないし1元が妥当な価格だと思った。
観光客慣れしたおばあちゃんに僕は呆れてしまい、お金を払わず笑ってその場を後にした。(おばあちゃんは頑なに1元を受け取ろうとしなかったのだ)
しばらくしてドイツ人の女子二人と村を散策することになった。
観光地化が進むこのラオジャイ近辺では棚田を一望できる場所はチケットがないと入れない。
僕たちは棚田が見渡せる場所を探して村の中に入って行った。
片方の女のコは僕と同じく世界一周をしていると言う。
この後、インドネシア、オーストラリア、ニュージーランドと僕とは反対方向に世界を回る。
そうか。いろいろな国に世界一周という旅をしている人がいるんだね。
村をまわると僕たちは別れを告げ、僕はユースに戻ることにした。
昼間のユースホステルには僕の他に宿泊客はいなかった。
僕はギターを思いっきり鳴らして気持ちよく歌ったあと漫画の製作に入った。
桂林で降られた雨と湿気のせいで思うように漫画が描けなかった。場所が変わるとペンタッチも変わる。
上達してるのか下手になってるのかわからないまま僕は他の宿泊客が戻ってくるまで漫画を描いたりギターを弾いたりして過ごした。そんな元陽ライフ。
明日僕は新街(xinjie)に戻り、ベトナム国境の町河口(hekou)行きのバスのチケットを買う予定だ。
現在、自作キャンピングカー「モバイルハウス」で日本を旅しながら漫画製作を続けております。 サポートしていただけると僕とマトリョーシカさん(彼女)の食事がちょっとだけ豊かになります。 Kindleでも漫画を販売しておりますのでどうぞそちらもよろしくお願いします。