「聖地マシュハド」
世界一周292日目(4/16)
13時間に及ぶバスの移動。だけどインドの長距離移動に比べたらこんなの屁でもない。というか、イランの長距離バスのクオリティは抜群に高い。毎回ジュースとお菓子がついてくるんだ。甘党の僕はそれだけでイランのバスを高く評価する(笑)
まぁ、やっぱり横になって寝た方が睡眠はしっかりとれるけどね。そこはしょうがないさ。
やって来たのはイランの聖地マシュハド。
今回は宿の情報をしっかり下調べしておいた。「Vali's No somoking Homestay」というホームステイチックな宿のよう。けっこう安いみたいだ。
降ろされたバスターミナルでマップアプリを広げると。宿まで2kmくらいということが分かった。じゃあPennyと徒歩で行けるな。
今まで旅してきた国々では道路がしっかりと舗装された首都やその次に大きな街くらいしか乗る機会がなかったPenny Board。
おもちゃみたいなスケートボードなんだけど、地味に1.3kgという重さ。僕はトリックはできないクルージングオンリーのスケートボーダーで、2011年に日本に輸入された時にコイツを手に入れた。一番初期のモデルで同じ型は日本では手に入らない。まぁ、ネジ穴の形が六角形でトラックのデザインがちょっとシンプルってなだけなんだけどさ。
日本では大学時代に電車代を浮かすべくスケートリップをし(この言葉好き)、バイト時代にはほぼ毎日通勤に使っていた。走行距離なら日本一だと思っている。
そんなハナクソみたいな自尊心を胸に2年間使ったPenny Boardを世界一周の旅に持って来たわけだがー、何度日本に送り返そうとしたことか。泣き言をLINEで友達に言うと、「きっとヨーロッパあたりで活躍するさ」とたしなめられてここまで一緒に旅してきた。飛行機に乗る際はバックパックに入れて受託荷物として運んだ。機内に持ち込むのにはバックにおさまらない限り厳しいのではないかと思ったからだ。
だが、ようやくイランに来て、Pennyが活躍する舞台がやって来たと言ってもいい。
クルージング時の強敵である野良犬もイランには全くいない。その代わりに猫がいるかな?道路も比較的平らで起伏もほとんどないので、バックパックを背負ったままでもなんとか乗ることができる。
まぁ、トータル30kgの荷物を背負いながらだとすぐ足が疲れちゃうから、あくまでも移動時間を稼ぐくらいかな?ただ、イランはいくらか砂っぽい国なので、メンテナンスは必要だと思う。僕がやっているのはティッシュでベアリングを掃除してオイルをさすくらい。代えのパーツは持っていないけどそれでも今のところ問題なく滑れている。そういやエスファハーンのスポーツ店でスケボー売ってたな。
そんな愛用のPennyで距離と時間と労力を稼ぎ、僕はチェックしていた宿周辺にやって来た。
だが、マップ上に表示されているはずの宿がどこにあるのか分からない。
近くをウロウロしているとチャドルを着た女の人が「宿ならそこよ」とジェスチャーで教えてくれた。
「ここ…、ですか?」
た、確かに宿の名前が書いてあるけど、こりゃいくらなんでもひっそりし過ぎだろ!隠れ家か!!??トリップアドバイザーにも紹介されているくらい有名な宿なんだけどね。イランを訪れた日本人もよく泊まっているらしい。
扉が開かなかったので、ブザーを鳴らすと隣りのドアから宿のママさんが出てきて僕に鍵を渡してくれた。中に入ると一面絨毯で覆い尽くされていた。
バリーさんの娘さんが出てきて僕はパスポートを渡す。
ベッド脇に置いてあったホワイトボードには現在の宿泊料および食事やWi-Fiの料金が書いてあった。
「ドミ一泊10ドル。朝食2ドル。Wi-Fi一日につき1ドル」た、高くないか?
ヤズドの宿なんて8ドルで朝食つきだったぞ?どうする?ここに泊まるのやめるか?でも、パスポートも渡しちゃったし、他に宿…ないだろうしなぁ…。ケチんぼの僕はここでの滞在も1日にすることを決めた。
パスポートが帰ってくる間、ママさんが僕に紅茶を出してくれた。
「Wi-Fiのパスワードは4ー」
「や、大丈夫です!」
ケチります(笑)
ここには情報ノートがあった。日本人の方の書き込みも見ることができた。
どうやらこのマシュハドはトルクメニスタンのビザ申請し入国できる最寄りの街として旅人が訪れるようだった。
今回の旅では僕は中央アジアには行かない。トルクメニスタンにある燃え続ける「ガスクレーター」を見てみたいけどね。あれ写真で見たけどすごいよ。
さてと、僕の方は聖地とやらに行ってみようじゃないか!
でもなんて名前なんだ?
そういう下調べをしていなかったので、どこに向かえばいいのかわからない。マップアプリとにらめっこして、それっぽいところを目指すことに。3km以上あるかな?Pennyだとしんどい距離だ。
ただ、大通りを一直線に行けばそこに辿り着けるようだったので、僕はローカルバスに乗ることにした。進行方向を確かめて、「ここに行きたいんだけど」とマップアプリを運転手や他の乗客に見せる。
目的地の手前でバスを降り、100%のオレンジジュースを飲み干すと、ほどよく人通りのある場所で僕はバスキングを始めた。聖地っつーくらいだからけっこういいレスポンスがくるんじゃないか?
演奏し始めると超近距離で若造どもが僕をとりかこんだ。注目してくれるのは嬉しいのだが、かなりの至近距離にこられたのでなかなかの圧を感じた。
一曲が終わりるとおっちゃんの一人が「ここでやったら警察がくるぞ」と僕に教えてくれた。
イランの警察にはいい思い出がない。たぶん公共機関の近くとかモスクの近くでバスキングをしたらしょっぴかれることだろう。僕は素直に忠告を受け聖地に向かうことにした。
僕がマップアプリと睨めっこをして検討をつけた通りの場所にマシュハドのモスクはあった。
や、「行けて当然でしょっ?」て思うかもしれないけど、ガイドブックを持たない(下調べちゃんとしてない)僕からしたら『やったぜ!』って感じなんすわ。これも旅の楽しみ方のひとつだね。違うか。
サブバッグとギター、Penny Boardを持ってそのまま中に入れるわけではなかった。
ふさふさしたは黄色のはたきを持った係員に「荷物を預けて来い」と言われ荷物を預けると、僕はツーリスト用の手続きをとらされた。
「宗教はなんだい?」という質問に対しては「ブッディストです」と応えておいた。ばーちゃんちとかを思い浮かべると、少なからずお寺と関わりがあるからだ。信仰心は別としてね。
10分くらいの英語のビデオを見せられ(全然リスニングできなかったよ)、「Friendship」と書かれた冊子や大判のポストカードを渡され、そして最後にガイドがやってきた。
聞いていた通りだ。ここを見てまわるのにガイドがつくんだよ。人によっては30分の自由行動とかあるみたいだけど。
ゆっくりと聞き取りやすい英語でガイドのお兄さんは色々とモスクの説明をしてくれる。でも、基礎知識はあったほうがよかったかもしれない。「イマーム」というワードが何回も出てきたけど、それが結局何を指すのかは分からなかった。「神/アッラー」なのかなぁ?勉強不足だね。
ただ、知識がなくても分かることもあった。モスクに書かれたペルシャ語はコーランの一部だということ。建物によって書かれている内容が異なること。モスクのつぼみのような形は神が住まう天空へと向かっていること。
「なんでモスクってほとんどブルーなんですか?」
「あのブルーは「空」を表しているんです。神が住んでる天空、空と同じ色なんです」
訪れたモスクで吸い込まれそうになるあの感覚は間違っていなかったのかもしれない。
人々はモスクで祈ることにより、より神に近づくことができるわけだ。空で祈っているわけだ。ネパールやミャンマー、タイの仏教のパゴダがよく高い場所に建てられていたけど、神様に近い場所で祈りを捧げるというのは同じなのかもしれないなぁ。
敷地内を自由に見てまわる時間は僕には与えられなかった。
お兄さんの話を聞いていても面白かったし、僕がミュージアムへは入らない代わりに図書館を案内してくれた。
中には祈りの場があったり、イスラム教らしく男女別の図書室があったり、日本のそれと同じく勉強するスペースもあった。
「医療でも治せない病気を抱えた人がここやって来ることもあるんです。その病気が治ることだってあるんですよ」
「すごいっすね~…」
この場所にやって来て涙するイラン人もいるそうだ。
僕はそういうシチュエーションを興味本位で覗こうと思っていたけど、
うん。そうだよな。ここはイスラム教を信じるイラン人にとっての大切な場所なんだよなぁ~。
ガイド料を請求されることなく僕はここを後にした。ガイドのお兄さんのお給料はどこから出てるんだろう?
ガイドしてもらったのは30分ほどの時間だったが、僕にとってはなかなか内容の濃い30分だったと思う。
「写真を撮っていいですか?」と僕が尋ねると、お兄さんは優しい笑顔をレンズに向けてくれた。
そしてピントを合わせている間に真顔になった 。
「それじゃあ僕は
駅にチケット買いに行くよ!」
と言ってお兄さんとはバイバイした。
マシュハド駅は 大きく、そのくせチケットカウンターが小さかった。
よく見ると「男性用」と「女性用」に
入り口が別れている。
おっちゃんたちは気にしてないけど(笑)
きっと事前に旅行代理店かなにかで
チケットをゲットするのかもしれないな。
カウンターに行くと
あっさりとテヘラン行きのチケットを
ゲットすることができた。
6ドルくらい。バスより安い♪
外でタクシードライバーのおっちゃんちとタバコを吹かしながら談笑し、僕は宿に戻った。
にしても、足が疼く。
僕はベッドの上で左足の側面にあるおできを見つめていた。
今日はけっこう歩いたからな…。この疼きは一体なんなんだろう?
インドでケガしてからそろそろ一ヶ月経つぞ。病院に行った方がいいかもしれない。
左足の側面にあるおできにはちょこんとカサブタのようなものがあるのが分かる。だが、傷口がどんな具合なのか足の側面なので顔を近づけて見ることができない。膿か何かが溜まってるなら早く出した方がいい。
よく見ることのできない足の側面のカサブタを皮をひっぱるようにして剥くと透明な体液が出た。やっぱり!溜まっているんなら出しちまえ!
そのまま爪で皮をむしっていると出てきたのは白い石の破片。
これが疼きの原因だったのか!
足の中に入ったこの破片が長時間歩くいたり、足に負荷をかけるとチクチク刺さってたんだな!
てかこんな綺麗な白い石がどこで僕の体内に入り込んだのだ?
足を怪我したのはインドのバラナシだ。ということはこの石はインドからやって来たわけだ。そう考えるとこの石を無下に扱うことができなくなってしまった。
『インドからここまで一緒にやって来たこの石はひょっとしたら僕を守ってくれるかもしれないぞ?』と僕は考えた。や、むしろ逆なのか?早々に投げ捨てた方が良いのか?吉と出るか凶と出るか。
僕はその綺麗な白い石の破片を財布の中に入れた。
宿ダブルルームに泊まっていた医者志望のドイツ人のお兄さんが僕に袋に入った濡れガーゼをくれた。
「あとは綺麗にして絆創膏を貼っておきなよ」僕は言われた通り傷口を丁寧に洗い、傷口に絆創膏をした。
思い出したのは村上春樹の「神の子供たちはみな踊る」の短編「日々移動する腎臓のかたちをした石」という短編だ。サンタナバラナシにその本が置いてあった。「その石は彼女を揺さぶろうとしているのよ」。
世にも奇妙な物語のような作中話。
主人公が導きだした応えは
「大事なことは全てを受け入れること」
ということだった。
現在、自作キャンピングカー「モバイルハウス」で日本を旅しながら漫画製作を続けております。 サポートしていただけると僕とマトリョーシカさん(彼女)の食事がちょっとだけ豊かになります。 Kindleでも漫画を販売しておりますのでどうぞそちらもよろしくお願いします。