「ようこそイタリアへ!」
世界一周388日目(7/21)
いつ降りるのか分からない。
寝よう。
他の乗客が降りるタイミングで僕も降りればいいさ。
もし、降りる場所を間違えてしまったら?それもいいじゃないか。
だって『どこだここ?』ってわけもわからない港町で旅を始めたかったんだから。
8時をまわると寝袋をしまった。乗客たちが甲板に出て行ったので、僕も出てみた。港に着いたようだ。
ついにイタリアにやって来たのだ。
ここはビディンディシという港町。聞いたこともない。何があるかもわからない。移動手段さえも。
イタリアかー。
名前が有名過ぎるけど、そこを自分が旅をするイメージがちっとも湧かないよ。ヒッチハイクできるのかなぁ?
なかなか船から降りることはできなかった。乗客が降りられるようになるまでは色々準備が必要なのだろう。港は見えているのに降りられないもどかしさにヤキモキしながら待った。
船を降り、みんが一斉にターミナルの出口を目指す。
僕の目の前に二人のバックパッカーがいた。バックパックには丸められたマットが括り付けられていうる。頭にハットを被り、お洒落な旅行者といった感じ。
「お互い良い旅を」
彼らの後ろ姿に指をクロスする。
マップアプリで町の中心地への道を確認し、僕は歩き出した。平らな地面ではPenny Boardで距離を稼いだ。
ターミナルから出てすぐに汗をかく夏のヨーロッパ。後ろからビディンディシの
町の中心地に行くバスを見て、おれは何をやっているんだ?と失った水分とエネルギーを後悔する。
イタリアで初めて口にしたものは水とプラム。皮をむかなくてもそのまま食べられるのがいい。お店のおばちゃんが「ボンジョルノ」と口にしたのを聞いて、ここでの挨拶がまた変わってしまったことに気づく。そうだここはイタリアなんだぜ?
何度もマップアプリで町の中心地への道を確認した。道路標識にはローマ字で「centro」と書いてある。英語と少し似てるな。分かりやすい。このまま中心地に行って何がある?町に滞在するのか?そんなゆっくりしてていい旅だったか?
頭の中にはシェンゲン協定のリミットがストップウォッチみたいに休むこと無く時間を刻み続けている。9月の終わりにはドイツかデンマークに行かなくちゃならない。だけど、このままヨーロッパに居続ければそこでアウト。アイスランドも行きたければ、イギリスも行きたい。そしてスペインに渡ってフェリーでモロッコに行ってー…
自分の頭の中にあるプランでは一度シェンゲンの外に抜けなくちゃな。グズグズしているひまはないぜ!よし!進もう!
次の町バーリへ。
町の中心地から次の町へ続く幹線道路へと針路を変更した。
もちろん移動手段はヒッチハイク。ギリシャで全然止まらなかったけど、ここではどうなんだろう?どこかで「イタリア人は世界一陽気」って聞いたことがあるぞ。もしかしたらヒッチハイクしやすい国かもしれないな。
ハイウェイの中で親指を立てても見込みがないことは分かった。時速100km以上でぶっとばしていく車が止まってくれるわけが無い。それに国によってはハイウェイ内でヒッチハイクすることが禁じられている場合もある。
ハイウェイに入る前のゆるやかなカーブで僕は親指を立てた。車も速度を落としている。車が止まってくれる可能性はなくもない!トルコでやったのよりも少し控えめなアピールで、運転席に手を振ったりしてヒッチハイクをする。
車は止まってくれないが、意外とレスポンスがある。警察の車も何台か通り過ぎたが、注意されることはなかった。幹線道路前だったオッケーみたいだ。
人差し指を伸ばして横に振ったり(「ノー」のサインだ)、違う行き先を指で示したり、投げキスをしてくれる女の人がいたり、中指を立てて来るヤツがいたり。
う、うん。そうだよな。だってハイウェイ前でヒッチハイクなんてしてるヤツがいたら嫌な気分になるかもな。
一台の車が止まってくれたが、行き先が反対方向だった。
『おーい!誰か止まってくれ~!』とそう心の中で何度も叫んだ。
どれくらい経っただろう?
最近腕時計のベルトが壊れてしまい、時刻はiPhoneで確認している。頻繁にジーンズのポケットからiPhoneを出し入れするので、右ポケットだけボロボロのジーンズ。そろそろ2時間か…。
行き先を訊いてくれる車すらない。ここはもしかしたらダメなのかもしれない。場所を代えた方がよさそうだ。
近くに線路が通っており、迂回するのにすごく遠回りしなければならなかったので、ハイウェイを使わせてもらうことに。バレたら注意くらいだろう。さっそと抜けてしまえば問題ないはずだ。
たまたま見つけたガソリンスタンドで、自分を元気づけるためにペットボトルのコーラを買う。2.5ユーロ(342yen)。ははは。マジふざけた価格だ。
外でコーラを飲んで、さてどうしたものかと考えていると、後ろから英語で声がかかった。
「やぁ、どこ行くの?」
「ん?バーリに行こうと思ってさ」
「僕たちもバーリまで行くんだよ。
乗せてって上げるよ。君一人?」
ま~~~~じ~~~~か~~~~!!!!
何??!!この展開!!!??
自分のツキっぷりにびっくりだよ!
声をかけてくれたビートゥは日本の文化に興味があるお兄さん。
弓道や武士道、日本の古い作家なんかも知っているジャパニーズ・カルチャー好き。ある分野では僕よりも日本の文化について知っていたかもしれない。
車を運転しているのはビートゥの友達のジジ。バーリの町で働いているらしい。
「それでこの後どこ行くんだい?」
ビートゥが尋ねる。
「ナポリかな?ナポリタンって日本の料理があってね~…」
「ナポリはやめておいたほうがいい」
「え”…???」
「ナポリはイタリアで一番治安が悪いところなんだ。マフィアって分けじゃないけど、チンピラが沢山いるんだよ。さっき野宿してるって言ったけど、野宿はできないだろうね」
「はい!じゃあローマにします!(即答!)」
「ローマ?もしよかったら明日ジジがローマ行くそうだから一緒に連れてってあげるよ。それに今日はジジの職場に泊れるってさ」
まじっすか??!!!
えっ???なんなんすか???
僕はてっきりバーリまで行ければよかったのに、
今日の寝床とローマ行きの車が一度に手に入ったぞ。
僕はなんてツイているんだ...!
「グラッツェ!僕もお返しにイラスト描くよ。漫画家なんだぜ?トラベリング・カートゥーニスト。旅する漫画家さ!日本の漫画知ってる?」
「"キャプテン翼"ならね」
ジジは風邪気味のビートゥをうちまで送り届けて、僕を職場に連れて行ってくれた。中国からソーラーパネルを輸入して売る会社らしい。ジジのお父さんと一緒に仕事をしているんだとか。
「ここがトイレでここがシャワーだから。好きに使ってくれていいよ」と慣れない英語でフレンドリーにしてくれるジジ。ジジの会社で働く仲間たちも僕によくしてくれた。
こういう時にギターがあるとまた役に立つんだ♪仲間たちは僕のギターで「Light my Fire」のサビの部分だけ仲良く唄った。
ここまでしてくれたジジにお礼の意味も込めて、僕は原稿用紙にイラストを描くことにした。イタリアって言ったらカフェのイメージもあるなぁ。額縁にいれたらしっくりきそうなイラストを描こう。今回は着色にもチャレンジしてね。
「今日はみんなでピザを食べに行こう。8時半頃戻って来るよ」そう言って、ジジと仲間たちは仕事場から帰っていった。僕は一人で机でイラストを描く。下描きなしのインスピレーションだけで描いた。ポップな絵を。
できた…。
あまりこういうイラストだけを描いたことはなかったけど、いい経験になったな♪
20時前になって急いでシャワーを浴びた。
時間より少し遅れ戻って来たジジたちと一緒に彼のボルボに乗り込む。
「あ~、今日は雨が降っているね」
ジジは少し残念そうに言ったが、僕は今こうして会ったばかりのみんなとご飯に行けるだけで嬉しかった。
車を駐車場に停めて、みんなで雨に濡れないようにお店までの20メートをダッシュする。
お店はジジたちがよく行くピザ屋さんのようで、ちょっと高そうなイメージがあった。
「やぁ、ジジ」
お店のスタッフもジジのことを、馴染みのお客さんみたいなように気さくに迎えた。
「じゃあ、何がいい?」
って訊かれても、こんな所に来たのも初めてだから何を注文していいか分からない。ソワソワしている僕をみんなは面白そうにして眺めた。
運ばれて来る前菜に「これはなんなの?」と訊いてしまう。ピザのように見えてピザじゃない。
チョチョだかチャルジャだか名前はよく分かんなかったけどー…
うめぇえええええ~~~~~!!!
えッ?なに?
人間って美味しいものを食べると
思わず笑っちゃうの?
生ハムってこんなに美味しいの?
モッツァレラチーズって
なんでこんなにふわっふわなの??
マルゲリータって
カリッカリだったんだ!!!
チーズがたまらない!
てかビール
うめぇぇえええええ!!!!
自分の気持ちを伝えたくて、ちょっとオーバーなリアクションで美味しさを表現した。それを見てみんなも楽しそうにしてくれてる。
ありがとうって何回言えばいいんだろ?
車でジジの職場まで送ってもらい、僕はソファに横になった。
アルコールの入った体はすぐに僕を眠らせてくれた。
そんな大満足のイタリア一日目。
そして明日はローマだ。
現在、自作キャンピングカー「モバイルハウス」で日本を旅しながら漫画製作を続けております。 サポートしていただけると僕とマトリョーシカさん(彼女)の食事がちょっとだけ豊かになります。 Kindleでも漫画を販売しておりますのでどうぞそちらもよろしくお願いします。