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「いつ死んじゃうかわからないからね」と彼女は言った

世界一周283(4/7)

朝食を食べると僕と昨日ドミトリーで合ったブロガーのお兄さんはパソコンに向かっていた。同室のリュウさんとコウスケさんはご飯を食べるとどこかに行ってしまった。キーボードを叩く音だけが室内に響き渡る。作業中はむやみに話しかけないところが大人のたしなみだ。

長期旅行者と言っても観光ばかりしているわけではない。ネットサーフィンをしたり、近況をSNSに投稿したり、日記を書いたり、情報収集をしたり、室内でやることも沢山あるのだ。

作業がひと段落すると僕は雑貨の仕入れに向かうことにした。

デリーのメインバザールはツーリストにとって必ず足を踏み入れる場所と言ってもいいかもしれない。メインバザールの周辺に宿があるし、インド中の雑貨がここに流れてくるそうだ。そういえばハンピで仕入れた皮のコインケースと同じ物を見かけたなぁ。

それでも、ゴアで売っているらしいお洒落なデザインのタイパンとかコルカタで笛吹きのおっちゃんが売っていた「竹クラリネット」とかはさすがにここでは見ていない。もちろんデリーでしか見かけないような雑貨もある。

今回デリーで仕入れようと思っているのは「シーシャ(水タバコ)」だ。

「シーシャ・カフェなんてやったら面白そうじゃない?」という友達の
アイデアを実現すべく僕はシーシャを仕入れるべくこの二日間、何回もお店に足を運んだ。

シーシャは4つ仕入れる予定だ。3つはシーシャ・カフェの用に。ひとつは友達へのお土産。4年前一緒にインドを旅した友達はここでシーシャを買って行ったらしいんだけど、日本に着く前に割れてしまったそうだ。そりゃショックだったね...。これで4年ぶりにシーシャが吸えるわけだ。良い物を仕入れなくては!

ちなみにメインバザールには4軒くらいシーシャを扱うお店がある。僕は何軒も足を運んだが『これだ!』というシンプルなデザインがなかなか見つからなかった。

最近のトレンドなのか装飾が付いているシーシャの方が多いのだ。デリーには自分のセンスに頼ってしまうと、悲惨な結果に終わることが多い。僕はそのことをよぉく知っているから、できるだけシンプルな物を買おうと思ったのだ。

そんな中で見つけた一軒のお店。外から見えるショー・ケースに飾られたシーシャは30センチくらいの大きさで余計な装飾のない、ほんとうにシンプルな形だった。

お店の中に入って、実際にシーシャを手に取る。思っていたほど重くない。だが、長い間ここでディスプレイされていたのか、埃が膜のようにシーシャを覆っていた。シーシャを指でなぞると細かい埃が指の先端に付着した。

「あの~、シーシャが欲しいんですけど、他のカラーってありますか?」

お店のおっちゃんに僕は尋ねる。

「ああ、あるよ。これなんてどう?」

箱から取り出されたのは、ディスプレイとは若干違う型。

「いや、こういう装飾のないシンプルな型が欲しいんです!」

「いくつ買うの?」

「4つっすかね?」

「ついて来な」

お店の二階に上がるとそこは在庫部屋だった。

大きな段ボールの中からおっちゃんは
ひとつひとつシーシャを取り出し、僕に見せてくれた。

「色は?」

「赤/黄色/緑/青ですね」

僕は出されたシーシャをひとずつチェックしていった。箱に入っているのにも関わらず、中に埃が入っているものが多い。これは日本で一度掃除してもらわなきゃだめだな。

自分のリクエスト通りのシーシャを無事に4つゲットし、お店で炭やフレーバーも購入しておく。う~ん…。たぶん他のお店で買った方が安いかもしれないけど、一度にここで購入した方がお店の人も割引してくれるだろう。大きなビニール袋をぶら下げて、僕は一旦宿に戻った。

ドミのみんなは僕の大きな荷物を見て少し驚いている。

「何買ったんですか?」

「シーシャっす♪」

「飛行機乗るって言ってたのに、そんなに買ったんですか!?」

「日本に郵送しちゃうんスよ」

これで僕の仕入れが終わったわけじゃない。もう一度メインバザールへと足を運ぶ。

今度は仕入れる雑貨は「スターライトカバー」だ。

4年前、この場所で星形の紙でできたライトカバーを発見した時の衝撃ったらなかった。裸電球に被せるだけで、その空間を演出してくれる素敵なライトカバー。日本のフェスでもよく見かけるコイツを僕はここで仕入れておきたかったのだ。

コルカタから始まり南へ西へとインドの雑貨屋さんをざっくり見てきたが、どうやらちゃんとした「スターライト・カバー」はデリーにしか置いてないようだ。

チェックしておいたお店に向かい、店頭に山積みされているライトカバーをチェックしていく。中には塗装がはげてしまったり、先端が折れてしまっている物がある。人の手に届くまではできるだけ綺麗な状態で持っていたい。そこからどんなストーリーをこのスターライトカバーに詰め込んでいくかはお客さん次第だ。

「この9つに三角のあるカバーって他にないですか?」

僕がそう尋ねると、おっちゃんは言った。「ついて来な」と。まさかこのパターンは!!?

ドキドキしながらお店の細い階段を上がっていった。
空気のこもった感じがした。案内された倉庫にはー…

そこに広がっていたのはまさに「宝の山」だった。
ほとんどがビニール袋に入っていた。おっちゃんは「ビニールの空いているやつだったら選んでいいよ」と僕に言ってくれた。いつもは貧乏性の僕だがここでは選びに選びまくった。これが欲しかったんだ!(誰が買ってくれるか分からないけど)

スターライトカバーを60点ほど仕入れて僕は宿に戻った。

満足して宿に戻ると、バゲッジルーム(倉庫)で倉庫整理のようなことをやっていたお姉さんからドミにいる僕らに対して声がかかった。

「パズル得意な人いる?誰か手伝ってくれない?」

雑貨も仕入れたし、満足して昼寝をしようと思っていた僕だったが、

何か「面白いことが起こる」予感を察知したのだ。

「あ!手伝います!」

宿のバゲジルームには沢山のバッグやら、丸めたカーペットくらいの大きさの何かにビニール袋を被せたものやら、物が散乱していた。

「これをこの箱に詰めたいんだよね」

とサッパリした口調の、薄い水色のタイダイタンクトップを着たお姉さんが言う。

「これ、全部ですか?」

「全部だね!」

「無理っしょ~…」

後ろから顔をのぞかせたコウスケさんが思わず口に出した。

この大量の荷物を見れば分かる。このお姉さんは雑貨屋に違いない!!

「もしかして雑貨屋さんですか?」

「やー、違うよ。マッサージやってる」

富山でマッサージをやっているというチャコさん。

片手間で雑貨を仕入れたそうだ。

「まあ売れたらビールで「かんぱーい!」みたいな?」

にしても、凄い量の雑貨だ。そしてインドっぽくない。

中でも驚いたのはマナリで仕入れたという皮製品たちだ。特にルームシューズのチョイスは秀逸。10年は使えると言う。先ほど丸めたカーペットだと思っていたものはランプシェイドだった。

手伝うとか言ってたくせに、チャコさんが仕入れた雑貨は僕には扱えない様な気がした。部屋の入り口につったってチャコさんい色々と質問をする。

どれくらいの予算で仕入れたんですか?とかどこで仕入れたんですかとか。友達に現職の雑貨屋さんや、雑貨に詳しい海外の友達がチャコさんの周りにはいるそうだ。このクオリティの高い雑貨たちを見ると、現職の雑貨屋さんなんじゃないかと思ってしまう。

チャコさんの作業中はずっと質問をしていた。逆に作業の邪魔をしてしまったんじゃないかと思ってしまう。それでもチャコさんはそんなこと全然気にしない様子で僕に色々話を聞かせてくれた。

毎回「仕入れ」とかそれなりのことを言っているけど、別に雑貨屋で食べていこうだなんて考えていないし、「ごっこ」の域であることには変わりない。それでも真剣に遊んでいるから、良い物を仕入れようと思っている。
でも、チャコさんの仕入れた雑貨に囲まれ、チャコさんの話を聞けば聞くほど格の違いのようなものを思い知らされた。そして、もっと良い物を仕入れたいという気持ちになることができた。

すげえ勉強になりました。ありがとうございます。

「何やってるの?大丈夫?インキ?」

寝る前に、喫煙スペースで日記を書いていると、チャコさんに声をかけられた。

「インキ(陰気)?」
「インキンだなんて言ってないよ(笑)!」

聞き間違いなのは分かるけど、チャコさん面白過ぎです(笑)

雑貨以外の話もとても面白かった。チャコさんの旅したインドの話や(ボラれた話も含む)そこで会った瞑想中毒の男の子の話。凄腕の日本人ディジュリドゥ吹きの話や、名前の由来の話、守護霊の話、エネルギー問題の話。話はいつまでも尽きなかった。

「パソコンでやってたの?」

「日記書いてたんすよ」

「日記かー。私全然書いてないなー。
「今日も最高だった!」って(笑)」

チャコさんは一瞬一瞬を全力で楽しんで生きていた。

時々自分がこんな歳になってまで自由気ままに旅をしていていいいのだろうか?と考える時がある。でもそれは社会一般の尺度に照らし合わせた時の自分の立ち位置に過ぎない。スタンダードから逸脱することによる不安はいくらでもあるだろう。
だが、旅をしていると人生を100%楽しんでいる人たちと出会うことがある。彼らを見ていると生き方には決まりなんてものはなく、ある種のリスクを引き受ければ日本人の僕たちは生き方を作り上げていくことができることがわかる。彼らおかげで僕は自分の世界を少しだけ広げることができるのだ。

「いつ死んじゃうかわからないからね」
とチャコさんは笑いながら言った。

やることがあまりなさそうなここデリーでも、僕はなんだかんだで素敵な人たちに出会えている。その出会いを引き寄せてくれたインドに感謝しよう。

現在、自作キャンピングカー「モバイルハウス」で日本を旅しながら漫画製作を続けております。 サポートしていただけると僕とマトリョーシカさん(彼女)の食事がちょっとだけ豊かになります。 Kindleでも漫画を販売しておりますのでどうぞそちらもよろしくお願いします。