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note63: ニューヨーク(2011.9.17)

【連載小説 63/100】

僕が博物館好きであることは以前にも触れたことがある。

[note16]でシンガポールでのミュージアム巡りをレポートしたこともあったが、今回の旅ではその他にもマカオ・マニラ・プノンペン・バガン・イスタンブール・ジュネーヴなどで各国を代表する博物館を訪ねてきた。

そんなミュージアムマニアの僕にとってマンハッタンは極めて魅力的なエリアである。
セントラルパークの周囲だけでも10カ所近い博物館と美術館が点在し、既に幾つかを訪ねたが、その中でも最も気に入ったアメリカ自然史博物館を紹介しておこう。

The American Museum of Natural Historyは1869年の設立で、自然科学や博物学に関わる多数の標本と資料を所蔵し、1200人を超えるスタッフを擁する大きな博物館である。

施設はこれぞアメリカというべき見事なもので、映画『ナイトミュージアム』の舞台にもなったのでご存知の方も多いと思うが、館内には恐竜の骨格標本や巨大なジオラマが並び“地球”そのものを体感できる展示となっている。

また、併設するプラネタリウムは最新の天体物理学データに基づく高解像度投影システムを備え、地球を超えて宇宙規模の“学び”も準備されているのだ。

そんなアメリカ自然史博物館と“ある人物”の関係を知って、僕はおおいに喜んだ。

その人物の名はロイ・チャップマン・アンドリュース。
1884年にアメリカで生まれた探検家&博物学者で「恐竜ハンター」の異名をとる人物だが、彼が1934年からこのミュージアムの館長を務めていたというのだ。

確か講談社の「青い鳥文庫シリーズ」だったと思うが、『恐竜探検隊』という氏の冒険記があって、モンゴルやゴビ砂漠を探検し、手に汗にぎる苦難と争いの末に恐竜の化石を発見するストーリーを読んで小学生の僕は冒険や探検ジャンルの書物にのめり込むことになった。

その影響もあって、その後考古学や文化人類学、博物学関連書籍を多数読みこなしたことが、今の仕事におおいに役立っているからロイ・チャップマン・アンドリュースは僕にとって“恩人”のひとりなのである。

ちなみに「好きな人物は?」とか「作家として目指す像は?」などの質問に対して僕は常に「インディアナ・ジョーンズ」と答えてきた。

そう、映画『インディ・ジョーンズ』シリーズの主人公にして架空の考古学者である。
プリンストン大学の教授でありながら、トレジャーハンティング(宝探し)の旅にばかり出て大学を留守にする“不良教授”ながら、学生達に「真の考古学者は図書館に用事はない」と説く現場主義者は僕の理想像であるが、なんとロイ・チャップマン・アンドリュースこそがインディアナ・ジョーンズのモデルと言われているのだ。

学者や冒険家にこそならなかったが、トラベルライターという今の仕事における僕の信条も「物語は机上ではなく旅する中に生まれる」という現場主義である。

世界一周の途上で、幼い頃に出会い今の僕へと導いてくれた歴史上の“恩人”に再会したのも現場へのこだわりゆえだろう。

ロイ・チャップマン・アンドリュースもインディアナ・ジョーンズも、そして僕も“旅を人生の住処に”しているのだ。


>> to be continued

※この作品はネット小説として2011年9月17日にアップされたものです。


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