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note55: ジュネーヴ(2011.8.27)

【連載小説 55/100】

ジュネーヴ・コアントラン国際空港からタクシーで20分足らず。
レマン湖のほとりに建つ英国風のホテル「アングルテール」にチェックインした。

まだ到着したばかりで町を歩いたわけでも観光スポットを訪れたわけでもないが、ホテルの窓から湖を見ただけでジュネーヴの町を気に入った。

かの喜劇王チャップリンや女優オードリーヘップバーンもレマン湖の魅力に引き寄せられて近くに暮らしたらしいが、目に入る景色だけでなく窓を空けると吹く風も爽やかで心地良い。
初訪問となるジュネーヴの1週間は、湖畔でのんびり過ごすことにしよう。

さて、スイスという国家に対するイメージを振り返って考えてみるとまずは小学校の教科書に載っていた「赤十字の父アンリ・デュナン」を思い出す。
「人道・公平・中立・独立・奉仕・単一・世界性」の7原則を掲げ世界各国に活動する人道団体の創始者である。

その次に浮かぶのが社会で習った「永世中立国」というスイスの代名詞ともいえる国家体制のこと。

「豊かな自然に囲まれて戦争をしない国です」という先生の説明を受け、子ども心に「なんて素晴らしい国がヨーロッパにはあるのだろう」と感動した記憶がある。

その後成長してスイスが極めて強力な軍隊を持ち“軍備なき平和主義”ではなく、独力で国家守る軍事力を有するが他国間の戦争に介入しない“武装中立”が「永世中立国」の概念であることを知るが、そこに不思議な独立性を感じたものだ。

そしてスイスが生んだ伝説の英雄ウイリアム・テル。

オーストリアの支配下にあった14世紀のスイスでの話。
圧政者に捕われるも息子の頭の上に置いたリンゴを矢で射抜いて自由を得、その決死の行動がスイス独立へのきっかけとなったという誰もが知るあの物語の主人公だ。

前回スイスがEUに加盟していないことに触れたが、これらの歴史を知ればそれも無理なく理解できる。

欧州連合への参加は国民投票によって否決されたらしいが、民の中に根付く独立心がそうさせたのだろう。

ヨーロッパ地図をEU加盟国と非加盟国で色分けするとスイスだけがまるでそこに湖があるかのように周辺国に囲まれて存在する。
周囲に海のない内陸国にあって美しきレマン湖が気高い存在であるかのように、この国は中立性と独立心の中に歴史を重ねていくのだろう。

そんなスイスを象徴するのが数々の国際組織本部の存在ではないだろうか。

首都のベルンに万国郵便連合(UPU)、チューリッヒに国際サッカー連盟(FIFA)、ローザンヌに国際オリンピック委員会(IOC)、バーゼルに国際決済銀行(BIS)の本部が置かれ、ジュネーヴには世界保健機関(WHO)の本部がある。
※本部ではないが国際連合欧州本部もジュネーヴにある。

スポーツや金融、医療など“中立”ありきの分野における中枢機関がスイスに置かれている事実には極めて興味深いものがある。

さて、ジュネーヴ滞在は1週間だから今夜が「DICE ROLL」デーとなるがダイスの目はどう出るだろう。

次なる目的地がヨーロッパ大陸最後の都市になるのか?それとも…

>> to be continued

※この作品はネット小説として2011年8月27日にアップされたものです。

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