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004.地球温暖化

2002.3.12
【連載小説4/260】


世界地図を想像してもらうといい。
アジア大陸、南北の米大陸、オセアニア大陸からほほ等距離をおいた太平洋の真ん中。
日付変更線の少し右側にポツンと浮かぶ島。
それがトランスアイランドだ。

ここに暮らしてみて、実感として思うこと。
それは世界がひとつに繋がっているということだ。
空間的には海で。
テクノロジー的にはネットワークで。

そして人類は今、改めてその連鎖のことを見つめ直さなければならない時を迎えているのではないだろうか?
「繋がる」ということは、距離を越えて全てが関係し合って存在しているということ。
つまり、どこにいても我々には、もはや自己完結などありえないのだ。

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少しシリアスな内容になる。
ボブが語ってくれた、「この島を脅かす大敵」のことを説明しておこう。
ある意味で、僕のトランスアイランドへの移住を決定付けたのが、その敵なる存在だったのだから…

敵の名は「地球温暖化」。
そう、人類による化石燃料の過剰消費が生み出した見えざる環境破壊者だ。
地球の温暖化は海面上昇をもたらし、島々を海へと引きずり込む…

島は「浮かぶ」と例えられるが、どんな島も海上を浮遊しているのではなく、海底から突き上げる大陸の一部が海の上に頭を出したものである。
大雑把には、その面積の大きいものが大陸で、小さいものが島と考えていいだろう。

大洋の中に点在する島には海抜の低い島が多く、海水位の上昇による影響は大である。
例えば、ここトランスアイランドからそう遠くないマーシャル諸島は標高が2メートルしかなく、海水面が1メートル上がると国土の80%が水没してしまうという。

陸地の減少は生活圏の内陸側への移動を強いられるだけでなく、食に直結する植生や栽培エリアの縮小に連鎖し、瞬く間に、島そのものが生活不適地となる可能性が多分にある。

つまり、一見のどかな楽園にしか見えないトランスアイランドでさえ、場合によっては、その一部を過剰文明の波にさらわれる危険性をはらんでいるということ。
文明から最も離れた場所が、文明のもたらす危機に最も近いところに位置するという矛盾。故に、トランスアイランドはある種の使命をもって、少数の島民と共にその歴史をスタートさせるのだ。

で、我々は何をすればいいのか?
原始共産的コミュニティをつくり、文明に背を向けて生きる。
文明諸国に対してその責任を追及し続ける。
それらはNOだ。

当事者たる人類側の対立構図の中に真の解決の道はありえない。
自然の側からすれば、東西南北の価値観を問わず、人類は人類である。
「連帯責任」という表現は適切でないかもしれないが、今や大国も小国も、大陸も島も全てが連携して、つまりは「繋がった」中で解決策を模索すべき時代なのだろう。

ボブによるとトランス・コミッティの究極の目的とは、「自然との共生」という人類の永遠のテーマに真正面から取り組み、それをグローバルなムーブメントとすること。
それもスローガンだけではなく、そこに具体アクションを伴わせること。
さらには、それをテクノロジーの知的かつ適正な活用の延長線上に実現することだった。

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複雑化した文明システムや、わずらわしい各種の人間関係から離れて、穏やかな南の島で自由に、静かに暮らす…
Trans Islandプロジェクトが、ただそれだけの現実逃避型の「理想郷」づくりだったなら、僕は今、ここにいなかっただろう。
各地を転々と旅した半生で、「繋がり」を捨てた中に真の安らぎや豊かさは芽生えない現実を多数見聞きしてきたからだ。

ある種の使命感。
それが僕をトランスアイランドに導いたのだと思っている。

------ To be continued ------

※この作品はネット小説として20年前にアップされたものです。

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【回顧録】
確か小学4年生だったと思う…

1999年に人類が滅亡すると書かれた『ノストラダムスの大予言』がベストセラーとなり、未熟な僕の脳裏には不確定な終末イメージが刷り込まれました。ベトナム戦争から公害問題や石油ショックなどの社会不安まで、大人の世界はどこか汚れたものだらけであることを諦めと共に受け止めながら高度成長時代の申し子である僕たちの世代は大きくなりました。

結局1999年に人類は滅亡することはなく、少しの安堵と共に迎えた21世紀。
念願の世界を飛び回る仕事も順調になった僕が南洋の島々で知ったのは、地球の温暖化で島が消えていくかも?という「不都合な真実」でした。

この回に記した「ある種の使命感」。
それは自分のためでなく、もっと大きな何かのために生きていかなければ…という気付きだったように思います。

2001年6月。
縁あってマーシャル諸島共和国を訪問し、あまりにも青い海に驚くと同時に、その島が抱える未来リスクを知ったことが、さらに半年後にこれまた不思議な縁でつながったマイクロソフト社とこのネットワーク小説を創作するきっかけになったのです。
/江藤誠晃

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