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note60: ニューヨーク(2011.9.11)

【連載小説 60/100】

ニューヨーク、ジョン・F・ケネディ国際空港に到着した。

入国審査を終えて荷物を受け取り、カフェに入ってこのレポートを入力しているのだが、おそらく通常より張り詰めた空気が空港内に流れていることに間違いない。

初めて降り立つ空港だから以前の記憶などなく、比較できるはずもないのだが、そう感じるのには訳がある。

現在時刻は9/10の午後16:50だが、時差がサマータイムで13時間あるから日本は翌午前5:50で既に日付が9/11に変わっている。

そう、僕はあの「9.11」からちょうど10年目を迎える前日にニューヨークに降り立ったのである。


世界を一周する「SUGO6」の旅で、2回だけ訪れたい都市を自ら選ぶことのできる「Dice Free」システムを使ってニューヨークへ来たかった理由はひとつ。
どうしても「9.11」後10年という節目の“アメリカ”をこの目で見たかったのである。

ただし、まさかこのタイミングでニューヨークへ来ることになるとは思っていなかった。
明日「9.11米国同時多発テロ」の現場となったワールドトレードセンターの跡地では追悼記念式典が行われ、なくなった2つのビルを象徴する巨大な光の柱を立ち上げる記念イベントが開かれるということで、空厳戒態勢に入った空港へ到着したのである。


忘れもしない10年前。

あの日、仕事を終えて帰宅した僕がTVのスイッチを入れた途端に飛び込んできたのはアメリカン航空機が突入し炎上するツインタワー北棟の映像を興奮気味にレポートするキャスターの声。

そして唖然として画面を見る僕の前で2機目となるユナイテッド航空機がツインタワー南棟に激突した。

その後のことはうろ覚えだが、何度も繰り返される悪夢のような映像を深夜まで見続け、ただ途方に暮れる感じで眠りについたのだったと思う。

そして「9.11」後の世界はご存知の通り。

テロとの戦いを宣言したアメリカはアフガニスタンを攻め、次いでイラクとの戦争を始めるも泥沼化し、結局は同時多発テロを超える数の米兵を失い、国際社会におけるその地位を弱めることになった。

さらには、この間に中国をはじめとする新興国の急成長が続き、サブプライム問題やリーマンショックなどによる経済危機が基軸通貨ドルの下落を招き続き、つい先日も米国債がデフォルトの危機に陥るなど、冷戦後は「米国一極」とさえ言われた世界のガバナンスは「無極化」と呼ばれる時代に変わってしまった。

では、僕自身にとってそんな「9.11」以降の10年がどんな意味を持っていたのかといえば、旅を重ねる生活を通じて世界の「多極化」と「多様化」をライブに見る機会となった。

相対的に力を弱めた欧米の姿を見ると同時に躍進する新興国のパワーを肌身で感じる体験の数々は、極めて大きなバランスの中に世界があって、一方にネガティブな現実があれども他方にはポジティブな可能性があり、全体としての世界は未来へ向かって進んでいるのだという確信を僕に与えてくれた。

ただし、世界の現在が“楽観”にあるのか“悲観”にあるのかと問われれば、残念ながら“悲観”に傾いているという現実は否めない。

だからこそ、今僕が注目したいのがアメリカのこれからなのだ。

「9.11」から10年という節目を迎えたこの国が、これを機にその持ち味である“ポジティブ精神”をもって、負の歴史をどう超えていこうとしているのか?

その希望の光の柱のようなものを探す旅にしたいと考えている。


>> to be continued

※この作品はネット小説として2011年9月11日にアップされたものです。

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