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note29: ヤンゴン(2011.5.31)

【連載小説 29/100】

青空を背景にして最も映える色は何か?
と問われたら、今の僕は迷うことなくいう「ゴールド」と答える

ヤンゴン市街の北、丘の上に輝く聖なる黄金の仏塔群シュエダゴォン・パヤーは紀元前585年が起源と伝わる。

中心にそびえ立つ仏塔は高さが99.4mで約9000枚の金箔が使われ、最頂部にはダイヤやルビー、ヒスイなどの宝石がちりばめられている。
そして、これら全てが信仰心の強いミャンマー仏教徒の善意の寄進によるもというからすごい。

ちょうど金箔の張り替え作業も行われていたが、シュエダゴォン・パヤーに限らずヤンゴン市内には金で飾られる仏塔や寺院が多い。
この国にはどれほどの金が眠っているのだろうかと考えずにはいられない。

前々回、鎖国後の日本を旅して『日本奥地紀行』を記したイギリス人作家のイザベラ・バードに触れたが、彼女が日光を訪れ徳川家康が祀られる日光東照宮に感動したという記録がある。
東洋の未知なる国に17世紀に完成した建造物が極めて精巧な彫刻と金の装飾によって演出されていた芸術性に驚嘆したというのだ。

そして21世紀の今、未知なる国ミャンマーを訪れた僕はイザベラ・バード同様、眩しいほどの仏塔を前にしてこの国の奥深さを前に驚嘆している。
なんとシュエダゴォン・パヤーの歴史は2500年以上も昔にさかのぼるのだ。

有史以来「金」は富の象徴であり、権力の象徴であったが、様々な王朝が入れ替わり立ち代わり守ってきたシュエダゴン・パヤーを前に「観光」という言葉の語源のことを思い出した。

観光の語源は中国の『易経』に中にある「国の光を観る、もって王に賓たるに利し」という一節に由来する。
「王たる者は国の光(優れたもの)を見せることで、賓客をもてなすのがよい」と意訳されるが、僕がヤンゴンで感じたミャンマーの「光」はこのまばゆい黄金の建造物群だけではない。
そこに集う人々の信仰の篤さと敬虔なる祈りの様なのだ。

ガイドのミンさんいわく、ミャンマーの人々にとってお参りは日常の習慣として定着し、祈ることが功徳を分かち合うことになるという思いが自然に身に付いているらしい。

個々の祈りの集積もまた“国の光”であると思う。

この先訪ねるバガンやマンダレーも独自の王朝が栄えた地だが、いにしえの王たちがいかなる“光”を見せんとしたのかをしっかり観察してみたいと思う。

そうすることで、ひとりのツーリストにすぎない僕がこの国の“賓客”になれるような気がするからだ。

さて、ヤンゴンを離れ、明日からミャンマー中央部のインレー湖を旅する。
少数民族が多く住む風光明媚な地で、ミャンマーを代表する観光地らしい。

この4月に誕生したミャンマーの新航空会社「エアカンボーザ」でインレー湖観光の玄関口となるヘーホー空港へ1時間強のフライトだ。
※これも意外だったのだが、ミャンマーには4社もの航空会社が存在する。

暑気のヤンゴンは暑かったが、インレー湖は標高900mにあって過ごしやすいらしい。


>> to be continued

※この作品はネット小説として2011年5月31日にアップされたものです。

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