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note77: ロスアンゼルス(2011.10.25)

【連載小説 77/100】

半月ぶりにアメリカに戻って感じるのは、この国は常に挑戦し続ける“チャレンジ”の国だということ。
グローバル社会における相対的な弱体化はありながらも、やはり世界を動かす覇権国であることは間違いなく、そのポジションをキープしているのは建国以来遺伝子的に持つポジティブなチャレンジ精神なのだと思う。

たとえば環境(エコロジー)に対するLA(ロスアンゼルス)の取り組み。

3日前、バンクーバーからロサンゼルス国際空港に到着して知ったのだが、この近代的な空港はイルミネーションにLEDを利用することで大幅な電力削減を達成し、建物にはリサイクル建材を75%も使用するなど革新的な環境対策を推進している。

また、市長が「アメリカで一番環境に優しい都市」となることを公約していて、レンタカー業者のハイブリッド・カー採用率は高く、地下鉄をはじめとする公共交通網は着実に拡大し、地産池消のレストランやオーガニック製品を扱うブティックなどが続々と誕生してブームになっていることなどは数日滞在するだけでもライブに感じることができる。

エコ対策といえば、新技術や企業の数値目標ばかりが先行することしばしばであるが、LAで感じるのはライフスタイルレベルで社会をポジティブに変えていこうとする息吹のようなもので、そこがアメリカ的な魅力なのである。

さて、映画好きの僕としては「LAと言えば何をさておいてもハリウッド」ということで、昨日あの有名なチャイニーズ・シアターで現在上映中の『三銃士』を見てきた。

17世紀フランスが舞台のアレクサンドル・デュマの名作を斬新な3Dで再現したエンターテインメント作品を映画の都で見るというのは乙なものだ。

おまけにちょうど取材に来ていたLA在住の日本人映画記者が「日本人の方ですか?」と声をかけてくれたのが縁で映画談義に花が咲き、意気投合して近くのレストランで食事を共にすることになった。

そして、彼から最近のハリウッド事情をあれこれと聞く中で出てきたキーワードもまた環境(エコロジー)だった。

曰く、近年のアカデミー賞におけるドキュメンタリー部門のメインストリームは「環境映画」らしい。

2009年に長編ドキュメンタリー賞を受賞した『ザ・コーブ』は、日本のイルカ漁を隠し撮りした作品で議論を呼んだが、その他にも天然ガス採掘法の現場調査を追い健康被害に苦しむアメリカ国民の姿を描いた『ガスランド』や、世界最大の廃棄物処分場でゴミ拾いを仕事にする人々の生活に焦点をあてた『Waste Land』、世界初の気候変動難民に焦点を当てた『Sun Come Up』などが世界的に注目されたという。

映画界のトレンドは間違いなくその時代の思想を反映したものとなる。
「9.11」以降、ドキュメンタリー映画の多くがイラクやアフガニスタンとテロを題材とする反戦作品と自然災害やエコロジー活動をテーマとした環境作品になっているのは、そこに21世紀の課題が集約されているからなのだ。

そういえば、2006年にアカデミー賞を受賞した元アメリカ副大統領アル・ゴアによる『不都合な真実』は映画作品としての興行的成功に留まらず、書籍版が世界各国で翻訳出版されてヒットし、世界レベルの科学者や研究機関とのコラボレーションプロジェクトとしてノーベル平和賞の受賞にまで至った。

僕は映画の方は見ていないが、書籍版は日本の書斎で常に手に届く場所に置いて貴重な情報源としてきた。
豊富な画像とデータを時間とコストをかけて編集した同書は環境問題を調べる上で極めて有益な参考書だからである。

完成度の高いドキュメンタリーは思想やメッセージを科学的な裏付けと共に世界に発信する強力な手段となる。

アカデミー賞のドキュメンタリー部門がいかなる作品を選ぶかが地球の未来に少なからぬ影響を及ぼすのだから、そこにアメリカでしか持ち得ないパワーを感じざるを得ないのだ。


>> to be continued

※この作品はネット小説として2011年10月25日にアップされたものです。

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