見出し画像

note57: ジュネーヴ(2011.9.2)

【連載小説 57/100】

仕事柄、日本を訪れる外国人ツーリストにどこを案内するべきか相談されることが多い。

こうやって「SUGO6」のレポートをしているとトラベルライターとしての僕のドメインが海外のみのように思われるだろうが、実は日本国内を旅して紀行記を残す仕事も数多く手掛けているからだ。

で、日本を旅する人、それも日本の歴史や文化を学びたい志向の海外ツーリストには滋賀県を薦めることにしている。

その中央に琵琶湖を抱く滋賀は「近江」と呼ばれ、その昔「近江を制する者は天下を制する」と言われたほど重要な地だった。
織田信長や豊臣秀吉をはじめとする数々の武将が城を建て町を作り、戦国史に残る幾多の合戦が繰り広げられた地域である。

また、日本史をさかのぼれば平城京(奈良)や平安京(京都)の前に「大津京」という都が琵琶湖畔に置かれことなどもあって、滋賀県の国宝・重要文化財指定件数は東京・京都・奈良に次いで全国4位のポジションを誇っている。

そんな滋賀の観光魅力を支えているのが琵琶湖という大きな湖の存在である。
歴史はそれを取り巻く自然環境の賜物であり、近江の奥深さはそのまま琵琶湖の歴史に直結しているのだ。
※そういえば5月にベトナム、カンボジアを訪ねた際にメコン川を指して同様のことを記した。

さて、長々と琵琶湖のことに触れたのは他でもない。
ジュネーヴの日々を重ねるにつれ、僕の中でレマン湖と琵琶湖がオーバーラップしてきたからだ。

琵琶湖の面積約670平方kmに対してレマン湖の面積は約582平方kmでサイズが近い。
また、南北に細長い琵琶湖と東西に三日月型に広がるレマン湖は地理的にもよく似ていて、湖に沿って連なる町々を訪ねると常に対岸の町やその先に広がる山々が見える。

僕が滞在しているジュネーヴには湖上遊覧船の拠点で、高さ140mの大噴水が旅人を楽しませているが、滋賀県の県庁所在地である大津にもクルーズ港と噴水がある。

そして何よりも大きな共通点はレマン湖と琵琶湖が共にラムサール条約の登録地であるということだ。

ラムサール条約とは水鳥を食物連鎖の頂点とする湿地の生態系を守る目的で制定された国際条約で、登録される湖沼は自然を愛するツーリストを世界中から集めている。

今日乗船した遊覧船で偶然にも水鳥の写真を撮る日本人ツーリストに会ったが、レマン湖で見ることのできる鳥の名を聞くとカモやカワウ、ユリカモメだというから、これらも琵琶湖と共通していた。

さて、この3日間は毎日遊覧船に乗ってレマン湖沿いの町を訪ねたが、それらを簡単に紹介しておこう。

■ニヨン
先史時代からの歴史を誇り円形闘技場や神殿跡などの遺跡が発見された町。12・13世紀の古城や18・19世紀の貴重なコレクションが並ぶ陶磁器博物館などが見どころ。

■ローザンヌ
IOC本部とオリンピック・ミュージアムがある通称「Olympic Capital」。バレエや演劇、音楽など芸術活動も盛んな文化都市で若手バレリーナの登竜門「ローザンヌ国際バレエコンクール」が開催される。

■モントルー
優美なホテルやカジノが建ち並ぶエレガントなセレブのリゾート。ルソーやヘミングウェイなどの文人がこの地を舞台に作品を残し、1967年に始まったジャズフェスティバルは世界最大級の音楽イベント。

どうだろう?
これらの優れた観光地を繋ぐ湖をのんびりと遊覧船で巡る旅。
そこに極めて高品質な旅情を感じてもらえるだろうか?

「津々浦々の旅」
レマン湖の旅にそんなキャッチフレーズを残しておこう。

「つつうらうら【津々浦々】」とは全国いたるところを意味する四字熟語で、英訳は「all over the country」になっている。
語源は「津」が港、「浦」が入り江や海岸を意味しているところにあるのだが、広い湖で船に乗って風光明媚な土地を巡る旅に相応しい言葉ではないか。
※そういえば滋賀県には「大津」や「海津」といった「津」の付く町や、「大浦」や「菅浦」といった「浦」の付く地名が多い。

そもそも「世界一周」の旅は「津々浦々」の旅である。
その縮図がジュネーヴの日々にあったような気がしている。

明日ヘルシンキへ移動するが「森と湖の国」ではどんな「津」と「浦」に出会えるだろう?

>> to be continued

※この作品はネット小説として2011年9月2日にアップされたものです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?