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note66: ニューヨーク(2011.9.23)

【連載小説 66/100】

「アメリカの今後と国際社会のポリティカルバランスのキーになるのは日本だよ」

待ち合わせたウォールストリートのカフェで、直接会うのは1年以上ぶりになるUncle-Tomが開口一番そう切り出した。

前回のレポートで僕が触れた内容を受けて、国際的に活動するネゴシエイターとしての考え方を披露してくれたのである。

彼の話を要約すると以下のようになる。

今、国際社会におけるアメリカの力は極めて弱くなっている。

冷戦終結以降「一極支配」とまで言われた構造は「9.11」で脆くも崩れ、その後10年にわたって繰り広げてきたアフガン・イラクにおける戦争では失地を回復するどころか多くの犠牲者を出し、傷を深めるだけの結果になった。

国内においては愚かなマネーゲームがサブプライム問題やリーマンショックへとつながり、民間においては失業者と破産者を増やし、国家レベルでは巨額の負債増とドル安を招いた。

2008年にはオバマという若いリーダーの登場に“change!”を期待し、世界は前倒しのノーベル平和賞までを準備したが、思った成果はあげられず、今や来年の再選も厳しいとされる状況。

そこに出てきたのがパレスチナの国連加盟問題。
覇権国家として中東和平に乗り出した頃の政治・経済的パワーは既になく、ユダヤ国家イスラエルとの関係もあって立ち往生している。

そんな中にあって、パレスチナ・イスラエル間の中立ポジションを持つ唯一の先進国が日本だ。

これはイランとアメリカの関係や、突き詰めるとイスラム・キリスト教間についてもいえることだが、彼らの根深い対立から歴史的に距離を置き、弱体化したと言われながらも世界3位の経済力を持つ日本は、そのグローバルポジションを活かして国際外交の舞台でそのプレゼンスを高めるチャンスなのだ。

幸いにも日本の技術力に対する評価は高く、通貨としての“円”は強い。
「3.11」を受けた民衆の忍耐力と国民の結束に対しては世界中から賞賛が集まった。

確かに今、日本は内なる様々な問題をかかえ国家的危機にあるが、自らの復興計画を国際社会の課題解決シナリオにリンクさせることで、21世紀のイニシアティブを取るくらいのビジョンがあってもいいのだ。

と、極めて明快に順序だてられた持論を展開してくれた。

「野田首相が明日の国連演説でそのあたりに触れてくれるといいんだけどね」
ともUncle-Tomは語っていたが、ちょうど今ニューヨークで外交デビューをはたしている日本のニューリーダーに期待したいところだ。

さて、ウォールストリートにいると否応なく為替の動きが気になることもあり、金融分野にも詳しい彼に最近の円高傾向についても意見を求めた。

何せ今日もドルは下がって76円台で、調べると「9.11」直前の1ドル135円に対して45%ほど価値が下がっている。

「3.11」で苦境に立つ日本の“円”が、この時期なぜこうも強いのか解せないからである。

この件についても以下、彼の持論を要約しよう。

人々にとって通貨価値は労働と生活に直結する指標だが、国家レベルで見れば通貨の価値は国力そのものである。

その国の国際社会におけるプレゼンスはGDPや人口数も大きな指標だが、相対的な価値としてはやはり通貨に着目しなければいけない。

アメリカの政治的、経済的パワーダウンは基軸通貨ドルの安さに明確に現れていると見て間違いない。

では、何故、円が高くなるのか?
経済的に不安要因の多い日本に資産が移動するのか?

それは世界中の投資家の発想が「安心して資産を預けられる国家はどこか?」という一点に絞り込まれているからだ。

戦争に巻き込まれず、宗教的対立から距離を置き、治安がよく、高い技術力と優秀な人材が豊富、といった条件を併せ持つ国の貨幣が最も安全となれば、今の国際社会で行き着く先は“円”しかない。

これほど財政難の国家が資産の預け先として世界中から選ばれる事実に対して、日本はもっと自信を持っていいのだ。

そして、今求められているのはそんな強い“円”を背景にグローバル社会で何をなすべきかを再考し、行動に移すことである。

「なるほど」と唸るばかりの僕だった。

明後日も彼に会うので続けて面白いレポートができそうだ。

>> to be continued

※この作品はネット小説として2011年9月23日にアップされたものです。

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