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note15 : シンガポール(2011.4.27)

【連載小説 15/100】

動物園にまつわる子どもの頃の記憶。

ライオン、トラ、ゾウ、サイ、カバ、キリン、シマウマ等々、大好きな野生動物の姿を生で見ることのできる動物園にワクワクしながらも、せまい檻の中に閉じ込められたり、限られたスペース内を右から左・左から右と行ったり来たりするだけの彼らの姿に、ある種の失望を感じる。

その中でも特に期待はずれだったのが、オオカミやトラ、ヒョウといった夜行性の動物たち。お金を払って見に来た僕らの前でサービス精神のかけらもなく彼らはひたすら眠っている。

やがて閉園の音楽が流れ、それでも最後までねばって動物園から夕方の町へ出る時、閉じられたゲートの向こう側、奥の方から幾つかの遠吠えが聞こえてくる。きっと眠っていた“やつら”が行動を開始するのだ。

後ろ髪を引かれる思いで家路に付く僕は、振り返り振り返り見物客のいなくなった動物園のことを考え、子ども心に確信していた。

「閉園後の夜の動物園にこそ、動物たちの“本当”の時間があるんだ!」


僕が初めてシンガポールへ来た10数年前、最初に訪れたのがナイト・サファリだった。
シンガポール動物園と隣接するこの施設は日没後夜中まで開園するサファリパークで、動物園を夜間に解放しているのではない。
夜行性動物にとって本来の活動時間をヒトに見てもらおうという、ごく“自然”な発想に基づくアトラクションなのだ。そこには子どもの頃に近所の動物園で感じた違和感はなく、檻や建物のない広大な敷地に放たれた動物たちを、人間は専用のトレイルを歩くかトラムに乗るかして静かに観察する。

ヒトが動物を見物するのではなく、ヒトが動物たちに監視されている感覚を味わうことができるナイト・サファリでは、自然に対する敬虔な気持ちを無理なく持つことができる。

「人類もまた同じ地球の生命体であることを認識してもらう」というオープンコンセプト設計のシンガポール動物園&ナイト・サファリは「世界で最も理想的な動物園」として評価が高く、その極めて自然に近い環境によって動物繁殖率も世界一らしい。

21世紀における動物園の方向性。
それは檻や塀の中に再現する見せかけの自然を“観察”する場所ではなく、文明という少し窮屈な檻から自らを解放し、自然の中へ分け入って地球を“体感”できる空間であるべきだ。
というのが、僕の持論である“地球ZOO”の考え方なのだが、実はこんなレポートを記しているのも、今日の昼ATJの学生スタッフにそんな話をしたからである。

実は、昨日のレポートでフラートン・シンガポールに滞在していることをアップした直後、iPhone上の「SUGO6」アプリで「friends」アイコンが点滅し、ちょうどシンガポールに到着したばかりだというEMさんという女子大生から「シンガポール観光についてアドバイスください」というメッセージが入ったのだ。

そこで今日の昼食に彼女を誘ってホーカー(屋台)であれこれ話したところ、まずはナイト・サファリに行くつもりだというので、上記のような話を聞かせたという次第。
おそらく今頃は現地へ向かっているところだろう。

ついでに記しておくと、絶滅危惧種の鳥類の繁殖や保護で有名なジュロンバードパークや、数千種に及ぶ熱帯海洋生物が泳ぐ水族館のアンダー・ウォーター・ワールド、色鮮やかな蝶が飛ぶセントーサ島のバタフライパークなど、彼女には自然界と文明をつなぐ充実した観光アトラクションの数々を紹介しておいた。

国土面積は約700平方kmで東京23区とほぼ同じという小国家ながら、この国の観光素材は質量ともに素晴らしい。

次回はミュージアムのことをレポートしよう。

>> to be continued

※この作品はネット小説として2011年4月27日にアップされたものです。

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