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TRANS ISLAND 儚き島 回顧録

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2002年2月19日から5年間260週間をかけてオンライン配信された連載ネット小説『TRANS ISLAND 儚き島/真名哲也』。スマートフォン黎明期に掌上の端末で読む未来形の小…
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2024年6月の記事一覧

124.神話共創

2004.6.29 【連載小説124/260】 トランスアイランドの夜20時30分。 この時間はほぼ100%の晴天率だ。 80%に近い確率で降る夕方のスコールが一日中陽光を浴び続けた地面の熱を冷まし、空気を浄化してくれるから星空観測に最高の環境が準備される。 今夜も人気プログラムとなったスターライトビーチの「ストリームライヴ」に多くのツーリストが集まってくる。 その中にはNWヴィレッジのプラネタリウムを体験した直後の人もいるはずだ。 スターライトビーチ。 このプログ

123.池袋の満天の夜

2004.6.22 【連載小説123/260】 「一緒に神話をつくらない?」 と、スタンが笑顔で持ちかけてきた。 彼とのつきあいも長いから、それが単なる思いつきの発言ではないことがよくわかる。 多分、その頭の中には既に計画のプロットと幾つかのアイデアが出来ているはずだ。 「神話を創作するなんて、物書きにしてみれば大それた行為だよ」 と、僕が返すと。 「いや、神話なんてものは、創作される段階では全てが時代時代の変わり者か夢想家による気まぐれなフィクションだったに違い

122.ふたりのharuko

2004.6.15 【連載小説122/260】 宇宙という大海原においては地球が島であり、その地球においては大小様々な国家が海に対する陸地の島として点在する。 さらにミクロに目を転じれば、そこに生きる個々人が、社会という見えざる海に浮かぶ孤島として生きている。 これらの関係性が別々のものではなく、繋がっている実感をもって3次元の世界に僕らが生きていることを前回に記した。 そこで、次に、こんな飛躍的な発想を試みることにする。 「自分を中心に回る地球」だ。 これは、決

121.輪の中に生きる

2004.6.8 【連載小説121/260】 書斎のデスクに置いてある愛用の地球儀。 その台座から上下2本のネジを緩めて球体部分を取り外す。 直径30cmの小さな地球を持って砂浜に出る。 地軸の傾きからも、自転からも解放されたモバイルな地球。 僕はそれを使っておかしな地球観察を行う。 当たり前となった北が上部に位置する地球をさかさまに砂上に置いたり、90度回転させて赤道を縦にして世界を観察してみたりする。 いつもとは違った地球を楽しみながらも、同時に、宇宙には上も下も

120.満天の島

2004.6.1 【連載小説120/260】 灯台、風車、天文台。 小さな島が、海、空、宇宙と繋がる3つの窓口。 トランスアイランドにあるこれらの施設が波照間島にも共通してあった。 そして、いつもは生活に近いところにあって特に意識しないそれらが、他所へ来るととても魅力的なものとして目に映るのだ。 見知らぬ誰かの航海の安全を祈って、孤高に光を発し続ける灯台。 無尽蔵なる自然の力を、淡々と我々の生活パワーへと変換してくれる風車。 僕らが島を超え、地球を超え、もっと大き