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TRANS ISLAND 儚き島 回顧録

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2002年2月19日から5年間260週間をかけてオンライン配信された連載ネット小説『TRANS ISLAND 儚き島/真名哲也』。スマートフォン黎明期に掌上の端末で読む未来形の小…
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2022年8月の記事一覧

028.島の未来に光はあるか?

2002.8.27 【連載小説28/260】 ワークショップ報告(4) 「観光」とは産業の一分野ではなく、本来、一種の概念的な言葉だ。 その語源を辿れば、読んで字のごとく「光を観る」で、人がその活動の中に何がしかの光明を見出すことに、かつての「観光」は位置づけられた。 だとすれば、旅するというプロセスそのものが観光の重要な部分であることに間違いはないが、そこに「なぜ旅立つのか?」という動機や「なにを求めて旅するのか?」というスピリチュアルな動機が明確にセットされて、旅は

027.海の民のアイデンティティ

2002.8.20 【連載小説27/260】 ワークショップ報告(3) 子供の発想はいつもユニークで、でも、それがかなり的を得ていて、驚かされることが多々ある。 「日本の武士道みたいだね」 と、ジョンとワークショップを重ねていた島の子供が、ミクロネシアの伝統的航海術を評して言ったのである。 確かに、その根底に流れるストイシズムや孤高さと、長き時間をかけての熟成度は、航海術と武士道に共通するものだし、ミクロネシアの民も日本人も歴史を遡れば同じモンゴロイドの血を源流に持つ。

026.過去から未来への航海術

2002.8.13 【連載小説26/260】 ワークショップ報告(2) 人類の親しいペットとなった犬でも、危険時などに咄嗟に見せる表情や遠吠えの中に先祖のオオカミ時代の鋭さを感じることがある。 もはや空を飛ぶことなど忘れたはずのニワトリでも、その翼を必死に羽ばたかせて中空を舞うことがある。 どれだけ進化をとげたとしても、生きる者には全て、かつての「野生」が眠っているものだ。 ジョンの祖先は人類未踏の孤島を次々と開拓し、生活圏をオセアニアに拡大した勇敢なミクロネシアの海の

025.舵なる知恵と櫂なる知識

2002.8.6 【連載小説25/260】 ワークショップ報告(1) 「知恵者はその中に優れた知識者を蔵しているが、知識を蔵している者がそのまま知恵者であるとは限らない」 トランスアイランド、社会エージェント海野航氏の語録のひとつだ。 文明社会の営みは、ともすれば知識者を生み出すシステムになりがちで、知識の総量を増やすことをその使命にしてしまっているのではないかと感じることがある。 知識の総量が、そのまま民の幸福に直結するのなら、現代社会のかかえる閉塞感や各種難題はか