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TRANS ISLAND 儚き島 回顧録

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2002年2月19日から5年間260週間をかけてオンライン配信された連載ネット小説『TRANS ISLAND 儚き島/真名哲也』。スマートフォン黎明期に掌上の端末で読む未来形の小…
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2022年4月の記事一覧

011.ノースウェスト・ヴィレッジ

2002.4.30 【連載小説11/260】 不思議な光景である。 まだヒトが住みだして数ヶ月しか経っていないのに、この村にはある種、完成された文明の落ち着きのようなものがある。 それも自然と反発し合わない文明… 完成したばかりの風車はいかにも人工的なデザインで、一瞬、違和感を感じるが、慣れると椰子の樹同様、ずっと以前からそこに根をおろしていたような気がする。 貿易風を受けて回るブレードの音も、草木のそよぎの一種のようだ。 他の村では木づくりの小屋が主流だが、ここにはソ

010.サウスウェスト・ヴィレッジ

2002.4.23 【連載小説10/260】 地球温暖化防止 淡水、海水域保全 熱帯雨林保護 絶滅動物保護 これらの環境問題は、近年、より切実なものとなってきた。 加速度的に進む破壊は、既に静観しているだけでは止まらない段階へと至り、積極的に反対の力を加えることでそれを抑止する時代を迎えている。 京都議定書に代表されるグローバルなトップダウン対策。 個人のボランティアに支えられる各種NGO、NPOのボトムアップ活動。 ベクトルの違いはあれ、人類が自然相手に取り組むエコロ

009.サウスイースト・ヴィレッジ

2002.4.16 【連載小説9/260】 「神々の島」と呼ばれるバリ。 島を訪れるツーリストを迎えてくれるのは、ヒンズー教の叙事詩ラーマヤーナを題材としたケチャや、レゴン、バリスなど独特の踊りの数々。 伝統的な民俗舞踏は、その根底に豊穣への願いや神への感謝があるから、それに触れる者は一気に濃密なバリの信仰の世界に引き込まれることになる。 そのバリの島中央部にウブドゥという村がある。 いくつものギャラリーや、絵画の土産屋が立ち並び、内外から集まったアーティストたちが、創

008.ノースイースト・ヴィレッジ

2002.4.9 【連載小説8/260】 子供の頃から地図を見るのが好きだった。 日常から飛び出して、鳥になった気分で人間界を見ることが出来るような気がするからだ。 今、僕の手元に一枚の古地図がある。 愛読している『ナショナルジオグラフィック』誌の最新号の付録で、「大日本沿海輿地全図」。 そう、伊能忠敬が作成した日本最初の実測地図だ。 日米に分散していた大小様々な原本と写しを、デジタル技術でひとつに復元したという。 忠敬はこの地図作成のために17年の歳月を全国踏破に費や

007.10000人の島

2002.4.2 【連載小説7/260】 日本の4月は新しい年度の始まり。 進学や就職という人生の節目に立って、希望に胸膨らませるたくさんの人たち。 彼らの眼に映る色彩は、どこまでも青い春空と満開のサクラの桃色。 ポジティブに未来を見つめる人の前で、自然はいつも色鮮やかだ。 トランスアイランドに住む僕も同様の気持ちで2002年4月1日を迎えた。 木造りのシンプルな小屋の前に広がる白砂のビーチはどこまでも白く、その先の太平洋と見上げる空はどこまでも青い。 小屋の背後に目を