見出し画像

REGENERATIVE LEADERSHIP

本書は、リジェネラティブな未来の実現に向けてあなた自身が一歩踏み出すための行動計画(アクションプラン)――明日ではなく、今日から行動に移すためのアイデア――を考えるための本です。読みながら、ジャーナリングや内省、自然の中での散歩、同僚との対話する時間をぜひとってください。
 
〇多くの人が、自然の仕組みについて語るときには決まり文句のように「弱肉強食の無情な世界における過酷な生存競争」といった言い方をしています。
自然の仕組みは本当に生存競争でしょうか。

ベーコンは著書『ノヴム・オルガヌム』(岩波書店)の中で「知の目的は自然をコントロールすることである」とし、「自然を知ることで、それを支配し、管理し、人間の生活のために利用することができる。自然自体は目的を持たないのだ」と語っています(Bacon, 1620)。

競争は一つの側面でありますが、自然界には他にもたくさんの力学が働いていて、ネットワークやパートナーシップ、コラボレーションなど無数の方法で生命は活動しています。
私たちが生きていく環境そのものである自然との断絶や男性性による女性性の支配は、個人としても社会全体としても私たちの中に不均衡をもたらしています。いわば、精神的なトラウマを示す深い深い傷が、ヒトという種の中に埋め込まれているのです。この種としての全体の集団的なトラウマや不均衡やトラウマこそ、恐怖や不安、エゴイズム、個人主義、消費至上主義を増幅させる根本的な要因となっています。自分の内側が不完全で何かが足りないと感じると、私たちは「外の世界(どこか)」に解決策を探し求めてしまいますが、癒やすべき深い傷は「内面(ここ)」にあるのです。

〇世界を理解するために分析は有効でした。しかし、方法である分析が目的化していませんか。

「左脳新皮質には、世界を分析して問題を解決するために、物事を構成要素に分解して境界線を作り出す働きがあります。世界を理解可能なものにするために、私たちは分析という名のハサミを使って、本来は境界線のない生命の網の目を断ち切っているのです。しかし、その切り口や境界線を作ったのは自分たちの思考であることを忘れてしまい、その切り口や境界線が外側 out-there の世界に存在すると考えてしまうのです」
ピーター・ホーキンス(リーダーシップの専門家)

これからの時代のリーダーには、それぞれの個別部分の理解と同時に、それらがどのような全体性をもって相互作用しているかという両方の理解が求められます。そのためには、ここまでみてきた左脳と右脳、内面と外界、男性性と女性性、人間と自然の再接続(リ・コネクション)と再統合(リ・インテグレーション)が必要です。今こそ4つの領域が交わる再統合の旅への一歩を踏み出していく時なのです。

「我々が直面するあらゆる問題は、それをつくりだしたと時と同じレベルの考え方では解決することはできない」
アルバート・アインシュタイン(物理学者)

「先の見透せない混乱の時代における危機とは、混乱そのものではなく、従来と変わらない思考(ロジック)でそれに向かってしまうことにある」
ピーター・ドラッカー(経営学者)

こうした経済発展の仕方には大きな落とし穴がありました。多くの場合、人間本来の幸せやウェルビーイングの向上とは無関係(ともすれば逆の方向)に、ただ消費を拡大するためだけのの需要や欲望ニーズが喚起されてしまうことです。

〇人類はどのような世界を創っていくのでしょうか

人類は急激な気候変動や水害、6回目の大量第六次絶滅の危機だけでなく、大気や河川、海洋の汚染、土壌劣化に深刻な規模で直面しています。現代の集約型農業は土壌からカルシウム、リン、鉄、タンパク質、ビタミンなどの重要な栄養素を奪ったり、流出を引き起こしたりしています(Journal of the American College of Nutrition, 2004)。有毒な化学物質は河川や地下水を汚染し、飲料水として私たちの血液や細胞組織に流れ込んでいます(Wahl, 2016)。壮大なスケールで世界の均衡(バランス)を崩壊させているのは、私たち人間なのです。

ここで少し立ち止まって、深呼吸をしてみましょう。少し視点を変えるために、他の惑星からきた宇宙人が人類の文明社会や行動を観察していると想像してみてください。
「彼らは地球で一体何をしているのか。どこに向かおうとしているのか」

「階層型の組織構造の中で、どのボタンを押せば何が起こるかがわかっていた時代は終わりを迎えました。意思決定と指示がスマートに実行されるコマンド&コントロールの中央集権的構造は、複雑なネットワークへと変化していきました」
ニック・ゴーイング&クリス・ラングドン(リーダーシップのスペシャリスト)

オレンジ:現代社会が主に依存している思考様式です。人的資源の管理やプロセス改善のフィードバック(リーン・マネジメント)など組織運営や文化に効率性をもたらしてくれます。しかしその特性上、組織は機械的に運営され、数値目標を達成する以上の目的を持ちづらくなります。サステナビリティは限定的にしか捉えることができず、コスト削減やコンプライアンス、ブランディング、マーケティングなどの取り組みに回収されてしまいやすい傾向があります。
グリーン:オレンジからのステップアップであり、人的資源の管理やコントロールではなく、社員のウェルビーイングを高め、エンパワーメントを大切にした文化が育まれます。組織運営やサステナビリティの考え方は、ステークホルダー・エコシステムの全体をより広範に捉えたものとなっています。
第二階層:組織運営や文化、サステナビリティに関するアプローチは、現場のニーズや状況変化に呼応してより自己組織化され、アジャイルで流動的なものになっていきます。リーダーの役割はあらゆる立場の社員に分散委譲され、一人ひとりが組織の文化や業務、サステナビリティの取り組みに活力を吹き込んでいく役割を担います。

「私たちは生命であり、自然であり、生命の共同体と家族のような絆で結ばれた存在で、そのことによって人の健康も地球の健康も成り立っているという真実に従って生きるならば、それぞれの地域に適応した多様でリジェネラティブな文明社会を世界中で生み出していくことこそ、これからの時代の創造的な挑戦なのだと気付くだろう」
ダニエル・クリスチャン・ヴァール(リジェネラティブ・デザインの実践者)

〇自然界は、相互に作用し合い、自己組織化し、創発する豊かな知性に溢れています。これを有効に活用しない手はありません。

本書が提示するリジェネラティブ・リーダーシップのDNAモデルには、生命や地球環境の再生に向かう新たなビジネス観を解き放つために必要な、内面と外界の双方を扱う技術やツール、マインドセットが凝縮されてしています。従来のようにサイロ化されたアプローチを繰り返すのではなく、膨大な量の研究、異なる領域、専門的な方法論を包摂し、多様な点と点をつなげ、編み直した統合的なフレームワークです。

ホモ・サピエンスは地球の生涯からみれば、わずか数秒しか存在していません。そして、この数秒のうちの99%の時間を、人は自然との深いつながりの中で生きてきました。何千年もの間、自然を崇拝し、自然のリズムや季節と調和し、その癒しの力に感謝しながら暮らしてきました。
しかし、ここわずか数世代の間に、人類は地球の生態系を破壊し、自らが依存している生命維持システムそのものに致命的な傷を与えてきました。愚かなことですし、正気の沙汰ではない!という人もいるでしょう。ですが、これは第1部で取り上げた分離に伴う副産物であり、自然と人の分離、女性性と男性性の分離、内面と外面の分離、そして右脳と左脳の不均衡(アンバランス)が生み出した結果なのです。
分離の旅を経て物質的な豊かさが得られた一方で、私たちは今、その大きな代償に直面し、バランスとつながりを取り戻すことが急務となっています。このバランスが崩れてしまった状況を乗り越えるためには、リジェネラティブ・リーダーシップの新たなビジネスパラダイムを通じて、自然の叡智に、生命システムに宿る知性に、そしてロジック・オブ・ライフ(生命の論理)に立ちかえる必要があります。自然界は、相互に作用し合い、自己組織化し、創発する豊かな知性に溢れています。これを有効に活用しない手はありません。

自然界は絶えず不均衡状態にあります。完全な均衡は静止状態をもたらし、生命の流れと進化を止めてしまうからです。均衡の定まらないゆらぎの中でこそ、あらゆる部分が全体の中で自らの居場所を見つけ、あらゆる種がニッチに適応し、絶え間ない変化による創造的混沌(クリエイティブ・カオス)を通じてシステム全体が動的に一貫性(コヒーレンス)を保ち続けます。ロジック・オブ・ライフに立ちかえることで、そうした全体像、つまり豊かな多様性を育みながらも、調和に向かい続ける自然界の様相がみえてくるのです。

「自分の心を見つめるとき、はじめて視界が澄み渡るだろう。外を見る者は夢をみ、内を見る者は目覚めゆく」
カール・ユング(心理学者)

〇リジェネラティブな関わり方を育むことで、思考をより生命指向型の生き方やリーダーシップに活かしていくことができるのです。

スタンフォード大学ビジネススクールのアドバイザリー・カウンシルのメンバー75人に、リーダーが身につけるべき最も重要な能力を挙げてもらったところ、回答はほぼ全員一致で「セルフ・アウェアネス」だったそうです(Elworthy, 2014)。セルフ・アウェアネスとは、何よりもまず私たちが自分自身を知ることです。それによって自信を育み、未来への予測や不安、影(シャドウ)に飲み込まれることなく、現在の豊かな生命の瞬間に深く根ざすことができます。

内なる対話を訓練し、手なづけ、質を高める方法を学べば、大きな力に変えることができるからです。内なる対話によって気力が吸い取られていく(ディジェネレイト)のではなく、活力が再び生成されていくようなリジェネラティブな関わり方を育むことで、常に湧き上がってくるこれらの思考をより生命指向型の生き方やリーダーシップに活かしていくことができるのです。

「21世紀最大の躍進(ブレイクスルー)は、テクノロジーによるものではなく、人間存在の意味が拡張されることによって起こるだろう」
ジョン・ネイスビッツ(未来学者)

ミッションは、組織の方向性を示すものです。集団にとっての北極星のようなもので、戦略の核となります。リジェネラティブなビジネスにおけるミッションとは、大量消費や分断、環境悪化を加速させていくような従来のビジネスの慣行から、生命を育み、つながりを取り戻していく持続可能な社会や、環境への影響を配慮した暮らしへと社会システムを変容(トランスフォーム)させるものを指し、私たちは「変容型ミッション」と呼んで区別しています。
パーパスは、個人や組織の営みの根底で体現されていくものです。自身の存在目的に触れ、導かれていく感覚は自分自身のいのちを生きることそのものであり、私たちはそれを「パワー・オブ・パーパス」と呼んでいます。これは、リジェネラティブなビジネスにおける重要な側面の一つであり、のちほど詳しく説明したいと思います。
バリューは、ミッションを果たすために組織で共有されている行動様式です。CEOが就任するたびに変わったり、外部のコンサルタントやリーダーシップチームによって外から与えられたものではなく、自社のDNAに刻み込まれ、日々の業務や意思決定の中ですでに形づくられているものです。組織がミッションを果たし、発展し続けていくことを導いてくれます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?