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新・哲学入門

新・哲学入門    竹田青嗣 2022年

「人間の世界は、自然の「存在」の世界ではなく、意味と価値が常にその関係を変様させる「生成」(変転)の世界である。」
どのようなものや人に出会うか、そこから何を得て、どのように世界に働きかけるかが自分自身を創っています。

以下、引用です。



哲学の目指すもの:概念、原理、再展開(再始発)という方法によって、宗教、民族、文化の限界を超えて普遍的な「世界説明」を行う。
哲学の弱点:哲学の世界説明が概念の論理的使用によってなされるため、形而上学と相対主義(懐疑主義)がつきまとう。

普遍洞察の方法:哲学、数学、科学、歴史、論理学の根本方法として理性に働きかける。
物語の方法:詩、文学、歴史として感情と心情に直接働きかける。

現代の資本主義社会が直面している大きな困難は、「近代市民社会」の原理の本質的な欠陥に由来するのではなく、むしろ「自由な社会」の原理が本質的な仕方で歪曲されていることに由来する。

人間の世界は、自然の「存在」の世界ではなく、意味と価値が常にその関係を変様させる「生成」(変転)の世界である。

世界はそれ自体として「存在」してはいない。世界は「力」によって分節されつつたえず「生成」する。
「あらゆる力の中心」は生き物の力、その「欲望―身体」という中心を意味する。生き物の「欲望―身体」という中心がその生の力において世界を「解釈」する、つまり対象の「有用―有害」「よい―わるい」を「価値評価」的に区分し、そのことで自己の「世界」を分節、形成する。

自然世界(事実領域)における客観認識を可能にする方法原理は「自然の数学化」である。これに対して、「関係世界」(本質領域)における普遍認識の唯一の方法原理は、欲望相関性の概念と、価値的領域についての「本質洞察」の方法である。この新しい方法によって、はじめて、「人間的世界」における共通確信の成立の本質構造を把握する可能性が現れる。

人間のみならず、生き物の世界認知にとって、その第一の契機となるのは、知覚ではなくむしろ情動の契機である。

ベルクソンの「知覚」は、それ自体としては刺激と反応の事物的な因果系列と想定されている。だが、このプロセスに「記憶」の原理が働くと、事物的因果の連鎖は不確定なものとなり、ある種の選択の余地が生じる。つまり、一般的な事物的因果性のうちに「選択―判断」の要素が生じ、そのことで生き物の「知覚」は「意識」の原理を帯びる。
欲望論的には、動物の世界が「環境世界」であるのに対して、人間の世界は他者との関係幻想が織りなす「関係世界」である。動物の身体は生理的な身体だが、人間はその身体を「関係性身体」として、あるいは「幻想的身体」として形成する。

人間の自我は、まず他者との関係のうちで、自分の欲望を対象化し、その価値を評価し、その上で他者関係に主体的に働きかけて欲望を実現する「主権的主体」である。つぎに、他者関係のうちでたえず「関係感情」の世界を形成し、そのことで喜び、悲しみ、嫉妬、憎悪、愛着といった対他的感情世界を生きる「心的存在」となる。さらに、自分の欲望と充足の結果を自己の生の全体のうちで評価し、そのことで「生の目的」を形成しつつ生きる実存的な生主体である。

人間の心は何らかの不安に襲われると、これに対処する手段を探そうとする。だが、その対処の能力が無効であるという経験が重なると、不安の情動は蓄積され、「身体化」されて、たえざる不安の感覚が人間の幻想的身体の基礎的情動となる。これを私は「不安身体」と名づける。「不安身体」の体制化が、多くの心的障害の中心的原因である。

人間の欲望(エロス的力動による衝迫)はその直接性から自らを分離し、人間は自己の欲望とその対象自身に対して一つの主権的主体となる。ここに人間の「自由」の本質的根拠がある。

動物は、その身体によって環境世界に働きかけ、糧(質料)を得ることで生存を維持する。 人間の世界は環境世界ではなく関係世界である。それゆえ人間は、身体によって事物に働きかけるだけでなく、むしろ関係世界に、つまり他者に働きかけねばならない。
とはいえ、人間の関係世界、つまり言語ゲームの世界の基底をなすのは、やはり自然的「糧」の交換システム(生産、交換、所有、享受)である。しかし動物の欲望と身体の「能う」が直接自らの糧に向かっているのに対して、人間の欲望の本質的対象は自然的糧ではなく、関係世界を生きることそれ自身である。それゆえ人間の身体は、関係世界(価値―意味の世界)へ働きかける力能としての「能う」をその本質としてもつ。
関係世界に働きかける人間身体の「能う」は、二つの契機を持つ。第一に、関係世界の感受の力能としての「能う」であり、すなわち人間的な幻想的身体の「能う」の形成である。第二に、「語り」の「能う」であり、それは他者に働きかけることを通して関係世界へと働きかける力能である。


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