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コロナ禍を生きる クズの極み作戦

2021年の世相を表す漢字は「金」だったがピンとこないのは私だけかと疑問に思った。しかしどこかの調査では「耐」という漢字が圧倒的一位を獲得したという話を聞いて私の違和感は自然なものだと納得した。

もしかすると偉いお坊さんもあれこれ思うものがありつつ筆を起こしたのかと察する訳だが、2021年を表す漢字が「耐」だと言われてもより一層暗い気持ちになるばかりで...  結局はそれで良かったのかも知れない。


私はフリーランスで音楽関係の仕事をしているが、コロナが蔓延し始めた2020年初めは働けど働けど日々数万円の売り上げが消えていく珍現象に悩み、車の中で発狂していたのをよく覚えている。気を確かに保つために色々な事を試してみた。まず最初にやってみたのが一日に出た損失分だけ外食で豪遊していいというルールを設けた事だ。

損失が出る事はショックだがつまりは美味しいものが食べられる訳で、かなりの損失が出た日は北新地の『かが万』で『笑笑』の様に飲んだものだ。美味しいものを食べると心が救われるのでドローみたいな気持ちになっていたが、冷静に考えると二倍のペースで金が無くなっていく訳でドローでも何でもないと気付き、数日でこの作戦は中止に追いやられた。


次に思い付いたのが自給自足案だ。この騒動もそう長引くものではないだろうとその当時はあまい事を考えていたので、2020年の春先までに稼いだ金をできるだけ使わない様に生きるため、魚を釣って釣って釣りまくる事にしたのだ。

およそ大人の解決法とは思えないが、何をやってもダメなご時世に仕事で攻めたプロジェクトを展開しても損益を増やすばかりな気がしたので、浦島太郎の様に生きつつ時代が上向くのを待つ事にした。しかし時代が上向く様子は全然ないわ、魚は変なのしか釣れないわで、この作戦も長続きするものではない事に気付くのだ。

 
音楽関係の中でもライブミュージックに関わる仕事をしている我々は矢面に立たされていたので音楽に関係のない仕事の立ち上げも考えてみたが、音楽以外の仕事をした経験のない私は青イソメの養殖くらいしか思い付く事がなかったし、緊急事態宣言で釣り場が閉鎖されまくっている話を聞いてしまうと大量の青イソメ在庫を抱える事はこの上ない恐怖に感じ、青イソメプロジェクトはお蔵入りしたのであった。

 
短期間に稼いで仕事に余裕ができたら海外にばかり遊びに行っていた私の人生は激変し無気力の極地へと突入していく。ある日、第三京浜で車を運転していると緊急事態宣言で空いているはずの高速道路が急に渋滞し始めた。全く動かないので事故でもあったのかとツイッターで情報を確認してみると誰かが橋から高速道路に飛び降りたとか。

その様な選択をすべきではないがそう思い至る気持ちも分からなくはない。このままでは自分もよからぬ事を考えてしまうかも知れないので、私は自分の精神をコントロールするためにまたある斬新な作戦に打って出たのだ。なんとそれは!何かと気にしないという事...

 
何にも抗わず寝て起きて美味いものを食べ釣りばかりして遊んでいるというクズの極み作戦だ。来る日も来る日も釣りをして、ウナギ、真鯛、カツオ、クエ、アオリイカ... とどんどん釣り上げ、ついには陸っぱりから90センチ近いブリまで釣り上げる様になりダメ人間を極めた。

当然ながら物凄い勢いで金や自由、尊厳、仕事仲間といった大切なものがなくなっていき、反比例するように無職の釣り仲間が増えていったのだが、自分の人生が底に着いた頃、意外な感情が湧き上がってくるのに気付いた。人間底を極めると前や上しか見ない様になるものなんだね...!
 
耐え忍ぶ事が大切な世の中ではあるが耐え切れなくなった私は我慢しないという選択をした事で今再び闘うエネルギーを得る事ができた。
 
みんな私の様になりたくないから必死にがんばっているのかも知れないが、大切なのは生きる事であって人生を上向かせるタイミングは人それぞれ違っていい訳だ。がんばって耐え続けた結果、疲れ切ってしまった人はもう我慢するのをやめればいい。私は十分に心の休憩ができたのでこれから全力で生きるし如何なる苦難も耐え忍び乗り越えて見せる。

我慢に代わる選択肢など私には“我慢しない事”しか思い浮かばない。人生において絶対に選んではいけない選択肢はそう多くはないのだから、この時代を生き抜く事はそう難しく捉えない方がいいかも知れない。自分が今まで築き上げてきた人生ばかりが人生ではない。我々は長い長い航海の途中にいるのだから。



◾️ネットラヂオ『旅の鳴る木』

自分の人生を見つめ過ぎた結果、大切な想いを失いそうになった2021年。そんな自分への自戒の念も込めつつ一年を振り返りました。聴いてみて下さい。

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