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「空を駆けるバイク」

 オートバイのグランプリを転戦して31年目のシーズンを迎えた。今年は新型コロナウイルスの感染拡大でシリーズ戦は大きな影響を受け、3月にカタールで開幕戦が行われたのを最後に延期や中止の発表が続いている。再開の目処は立っていないが、グランプリを運営統括するドルナ・スポーツは7月下旬にスペインのヘレスで再開する方向で調整を始めた。確かに、5月に入ってから、ヨーロッパ、アメリカでは感染者が減っており、このまま終息方向に向かい、人間の移動が出来るようになれば再開も可能ではないだろうか。

 とにかく、いまは、大会が行われず取材もできないので、家にいて原稿を書き、写真の整理をするだけ。今年は僕が所属する日本レース写真家協会(JRPA)が創立50周年を迎える。毎年、協会主催の写真展が行われているが、今年は50周年ということで広い会場で盛大に行われるのだそうだ。その写真展に向けて、自宅ひきこもりのこの時間を利用して自分のベストショットを探している。

 記念行事ということもあり、基本的にチャンピオンになった選手や大きな業績を残した選手が中心になる。しかし、そういう選手ばかりではなく、印象的な走りやレースをした選手のいい写真にも作業の手は止まる。

 ここで紹介するのは、いまや世界のトップライダーとして押しも押されもせぬ選手の若い頃の写真である。実は、同様のカットですごくいいのがあった。それは写真展に提出するのでここでは出し惜しみするが、この写真を見てもらいたい。

 これは、2015年から19年まで、スーパーバイク世界選手権で5年連続チャンピオンに輝き、今年もゼッケン「1」をつけて戦うイギリスのジョナサン・レイである。彼がまだブリティッシュ・スーパーバイク選手権(BSB)に出場していた19歳のころの写真である。

 場所はイングランド中部リンカーンシャーにあるキャドウエルパーク。コース前半はハイスピードコーナー、後半セクションはタイトなコーナーが続く。全体的にアップダウンに富んだレイアウトで、後半セクションの「マウンテン」は、ロードコースなのに豪快なジャンプシーンが見られることで人気があるエリア。モトクロスやトライアルではめずらしくないが、ロードレースのマシンが空を飛ぶサーキットは、おそらく世界でもここだけであり、初めてここを訪れたときは度肝を抜かれた。まるで川を遡る鮭が堰堤や堰を超えようとぴょんぴょんはねてくるように見えたし、夢中になってシャッタ−を押した。

 そもそも僕は文章を書くのが本業であり、写真はデジタルの時代になり必要に迫られ本格的に撮るようになった。原稿は何度も書き直せるし、追加取材もできる。極論を言えば、その場にいなくても書ける。しかし、写真は、やり直しが利かない。レース展開を見ながら選手たちの動きを予測する。優勝するのは誰なのか。そして優勝した選手がどこでどういうパフォーマンスをするのか。予測があたればいいが、まってく見当外れのときもある。狙い通りのものもあれば偶然の一枚というのも多くあるが、ここぞという瞬間を捉えたときはうれしい。写真の醍醐味はそこにある。

 撮って書く。書いて撮る。一枚の写真からストーリーは広がるし、書きたいストーリーに合わせて撮る写真もある。いずれにしても、二股家業は忙しい。どっちも中途半端に終わることもあるが、それだけやりがいもある。カメラがデジタルになって仕事は忙しくなったが、取材の幅はまちがいなく広がった。今年もレースが再開する日を待ちながら、しばらくは写真の整理をしていようと思う。

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