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災禍よ、鎮まれ

インドネシアの伝統工芸「バティック」は、ろうけつ染めのこと。
熱で溶かしたろうで布に模様を描き、それ以外の場所に染めを重ねていく高度な防染技術だ。


もともとは、ジャワ島の王家の人びとのために、宮廷の女性たちが一枚一枚描いたもの。

一般化した現在では、市場で流通しているバティックのかなりの割合が機械でプリントしたものだ。
つまり、バティックの柄をまねただけで、染めたものではない。

日本の着物と同じように、バティックの伝統的な模様には、それぞれに名前と意味がある。
パッチワークのようなこの模様は、「タンバル」(tambal) という。

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おそらくは西洋のパッチワークを模したものだと思うが、ジャワでは、病人の上掛けなどにこのタンバル模様を使う。
インドネシア語の「ムナンバル」menambal は、「(穴のあいたところに)継ぎをあてる」とか「貼りつける」という意味。
自転車の「パンクを修理する」ときにもこの単語を使う。

昔の人は、病気になるのは、その人のからだのどこかに穴が開いていて、そこから病気が忍び込んだと考えた。
つまり「穴のあいたところに継ぎをあて」て手当をしたというわけだ。

迷信、と片づけるのは簡単だが、〝穴のあいたところ〟を「免疫力の低下」とか「気力の低下」と考えると、現代でも十分通じる考え方なのではないかと思う。
疲れていたり、ストレスを抱えていると、元気なときなら問題ないはずのもので食当たりしてしまったり、風邪をこじらせて長引かせてしまうことは誰にでも経験があるだろう。 

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感染症の流行が話題になっている今だからこそ、地球にこのタンバル模様のバティックをかぶせたい。
不安が、無用な疑いや怒りにつながらないように、美の力でわたしたちの心の穴をふさいでほしい。


※写真は、いずれもインドネシアのバティック店で撮影

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