日本をめぐる旅が紡いでくれたもの
柔らかい日差しに恵まれた3月、新潟県の佐渡を旅してきた。
それは僕にとって、この1年続けてきた「日本をめぐる旅」の、ひとつの最終章だった。
海外へ行けない日々に終わりが見えなかった去年の春、思い決めたのだ。
これからの1年間は、好奇心の赴くまま、日本の各地を旅してみよう、と。
そして毎月のように、飛行機や新幹線に乗って、日本のあちこちを旅することになった。
長崎県の対馬に始まり、青森県の津軽半島、沖縄県の与那国島、北海道の札幌……。
海外の旅にばかり意識が向いていたから、こんなにも日本の各地を旅した1年は初めてだった。
そんな「日本をめぐる旅」の最後に、佐渡へ向かった。
1年前、最初に訪れた対馬と同じく、佐渡もまた日本海に浮かぶ島だった。
その大きくも美しい島を旅しながら、ふっと気づけたことがある。
ほんのちょっと前までは、海外の旅に比べて、国内の旅はつまらないと思っていた。
だけど今、「日本をめぐる旅」に魅せられている自分がいる。
佐渡の青い海を眺めながら、あるいはそこに沈む夕陽を見つめながら、その旅に心惹かれている自分がいるのだ……。
1年前の春、たまたまコンテストを受賞することになった「旅という物語を紡ぎたくて」というエッセイに、僕はこんな文章を書いている。
確かに今は、海外へ自由に行けないという大きな制限がある。でもその中で、今行ける場所へ、あの頃のような純粋な好奇心を持って向かえば、それはきっと、ひとつの旅という「物語」になり得るのではないか。
たぶん大切なのは、どこへ旅に出るかではなく、どんな気持ちで旅をするかなのだ……。
今思えば、海外へ旅に出られなくて困惑していた自分を励ますような気持ちで、この文章を書いた気がする。
それまでの10年間、僕の旅は、いつも海外にあった。
パスポートを手に日本を出て、見知らぬ異国の地を、ひとり自由に旅する。
その解放感やドキドキは、国内の旅では味わえない。
遠い海外だからこそ、旅はきらきらと輝くし、「物語」も生まれるんだと思っていた。
長崎県の対馬から「日本をめぐる旅」を始めたとき、本当に良い旅ができるだろうか、という不安もあった。
ひとつの「物語」になり得るような旅は生まれるだろうか、と。
それでもとにかく、国内の行きたい場所へ、あるいは気になる土地へ、毎月のように旅に出た。
海外の代わりに国内を旅するのではなく、日本を旅したいから国内を旅する。
意識的にそんな旅をするうちに、国内の旅ならではの魅力を知ることになった。
ずっと暮らしてきた日本に、こんな風景があったんだという驚き。
どんな町であっても、安心してカメラ片手に散策できる嬉しさ。
旅先で出会った人と、同じ日本語で心ゆくまで会話できる幸せ。
海外の旅でしか味わえない解放感やドキドキがあるように、国内の旅でしか味わえない感情もいっぱいあることを知った。
たぶん、海外の旅と国内の旅は、比較するものではないし、どっちが素晴らしいと決めるものでもないのだ。
どっちの旅にもまったく違う魅力があって、どっちの旅も素晴らしい。
それに気づけた今、海外の旅だけでなく、国内の旅もまた、人生の大切な存在になったのを感じている。
アジアの雑踏やヨーロッパの古い町を愛おしく思えるように、東北の田園風景や沖縄の離島、北海道の雪景色に心惹かれるようになったのだ。
短くも長い人生の中で、海外へ行かれない日々がまた訪れることだって、あるかもしれない。
でも、そんな日々も、もう恐れることはないんだと思える。
日本を旅するという、もうひとつの心の支えを手に入れることができたからだ。
対馬から佐渡へ、1年に及んだ「日本をめぐる旅」が、もしもひとつの「物語」だったとするなら……。
その最後に、国内の旅を心から好きになれるというエピローグを、そっと紡いでくれたのかもしれなかった。
そして。
桜が咲いて、また散る頃、久しぶりに海外へ旅に出ようと思っている。
まだ手探りではあるけれど、きっと少しずつ、海外へ旅に出る日々も戻ってくることだろう。
けれど、国内の旅も、これからも続けていくつもりだ。
世界遺産の屋久島へも行きたいし、寝台特急のサンライズにも乗りたい。
見てみたい風景も、歩いてみたい町も、日本にはたくさんある。
だから、「日本をめぐる旅」は終わらない。
たった1年なんかではない、もっともっと長い「日本をめぐる旅」が、これから始まっていくのだ。
旅の素晴らしさを、これからも伝えていきたいと思っています。記事のシェアや、フォローもお待ちしております。スキを頂けるだけでも嬉しいです!