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旅はおどろきに満ちている

かつて沢木耕太郎さんは、「旅人には、旅に出ると不思議なことに遭遇するタイプと、遭遇しないタイプとがいる」と語っていたことがある。

その言葉を信じるなら、僕もまた、旅に出ると不思議なことに遭遇するタイプの旅人だと思う。

この夏、沖縄の宮古島を訪れたときのことだ。

空港に到着し、出迎えの車に乗って、予約していたレンタカー屋に向かった。

ローカルな雰囲気漂うそのレンタカー屋で、受付にいた青年に免許証を渡すと、その住所欄を見た彼が、びっくりするようなことを言う。

「もしかして、中学校は、○○中ですか?」

「えっ、そうだけど……?」

「小学校は、○○小?」

「そ、そうだけど……、どうして知ってるんですか?」

「僕もまったく同じだから」

そう言って、よく日焼けしている彼は笑った。

なんとレンタカー屋の彼は、僕とまったく同じ町の出身で、小学校も中学校も同じところに通っていたのだ。

もちろん僕の出身は、沖縄から遠く離れた神奈川の町である。

彼は神奈川の実家を離れて、沖縄でひとり働いているのだという。

「生まれたのは、○○産婦人科で……」

それを聞いて、さらに驚いた。僕が生まれたのも、まさにその産婦人科だったからだ。

出身地から遠く離れた沖縄の離島で、それもたまたま訪れたレンタカー屋で、自分と同じ産婦人科で生まれ、同じ小学校と同じ中学校に通った青年にばったり遭遇する。

その確率がどれほどのものか算定の仕様がないが、相当に低い確率であることは間違いない。

僕は旅に出ると、しばしばこの種の不思議な偶然に遭遇する。奇跡のような偶然、と言ってもいいかもしれない。

普段は平凡な生活を送っていて、面白いことなんてそんなに起きないのに、旅に出るとなぜか不思議な出来事に出会うことになるのだ。

その旅での偶然もまだ続きがあり、4日間の宮古島旅行を終えて空港へ向かうと、新たな客を出迎えに待っている彼と再び出会うことになった。

「ほんとに神奈川へ帰っちゃうんですか?」

彼が冗談っぽく、でも半ば本気で言う。

「絶対また来てください!」

心のこもった彼の言葉を聞きながら、僕は思っていた。

たぶんこの宮古島には、また来ることになるんだろうな、と。

そして、この不思議な出会いが、宮古島というありふれた存在でしかなかった島に、新たなつながりを作ってくれたような気がして、ただ嬉しかった。

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