祭りの始まり ロシアワールドカップ旅日記5
日本vsセネガル戦の行われるエカテリンブルク・アリーナに着いたのは、試合が始まる1時間ほど前だった。
すでにスタジアム周辺は多くの観客で賑わっていた。日本のサポーターはもちろん、全身を国旗の3色カラーでペインティングしたセネガルのサポーター、そんな彼らを面白そうに見つめるロシアの人々……。
出会った人々の間で、自然と写真撮影大会が始まっていく。ただ日本代表のユニフォームを着ているだけだった僕も、たくさんの人たちに「一緒に写真を撮らないか?」と声を掛けられた。
4年前のブラジルでも思ったけれど、僕はこのワールドカップ独特のお祭りムードが大好きだ。世界中からありとあらゆる人が集まって、特別なこの時間を楽しもうという雰囲気で溢れている。
大切なことは、過去でも未来でもなく、今この瞬間を楽しむこと。そんな当たり前のことに気づかせてくれるのが、ワールドカップだと思う。
記念のビールを1杯呑んだ後、スタジアムの中へ入った。エカテリンブルク・アリーナはスタジアムから飛び出した仮設スタンドで話題だが、僕の席はメインスタンドの2階だった。
たぶん、日本サポーター向けに割り振られたエリアだったのだろう。僕の周りにいたのは日本から来たサポーターばかりで、仲間意識も自然と芽生えていく。
まだ太陽も眩しい20時、試合がキックオフされた。
序盤はセネガルが前がかりで攻めていたように思う。そのなかで11分、GK川島が跳ね返したボールをマネが押し込み、セネガルに先制ゴールが生まれた。
たった1発のゴールだったが、日本サポーターの間に「あー、やっぱりセネガルは強いな」という空気が漂い、いくぶん応援のボルテージが落ちてしまったように思う。
しかし34分、ゴールエリア内でボールを受けた長友からのパスを乾がシュート。これがゴールネットを揺らした!
この1発で、僕がいるエリアは一気に盛り上がった。歓声、拍手、ハイタッチ。それは僕にとっても、生で初めて見る、ワールドカップの日本代表のゴールだった。
後半は1-1が続いていたが、71分、ワゲが右からのゴールを決めて、セネガルに2点目が入る。これを受けて、香川に変えて本田が投入された。サポーターの間からも、「本田ー!」という大きな歓声が飛ぶ。
そして78分、GKが跳ね返したボールを乾が折り返し、そこに詰めていた本田がシュート。これがゴールネットへ!
その瞬間、1点目のときとは比較にならないくらいの大歓声がスタジアムに響き渡った。たぶん僕も、思わず大きな声で叫んでいたと思う。
試合はそのまま、2-2で終了した。結果は引き分けだったけれど、最後の本田のゴールが、決勝トーナメント進出への希望を繋いでくれた。サッカーの面白さを凝縮したような、気持ちのいい試合だった。
試合が終わると、日本サポーターの一部が「ごみ拾い」を始めた。事前にごみ袋を用意してきたらしく、そこにペットボトルやら何やらのごみを入れていく。
この光景を見て、僕は思ったことがある。というのも、ごみ拾いをする日本サポーターの姿を、空のごみ袋を手にしたロシアのボランティアの若者が所在なさげに見ていたからだ。
確かに、スタジアムを綺麗にして帰るというのは素晴らしいことだと思う。しかし、そうした日本サポーターの行為は、本来ボランティアの人たちがやるべき仕事を奪ってしまっているのではないか? ボランティアの若者の寂しそうな姿を見て、そんなことを思わないでもなかった。
スタジアムを出ると、時刻は22時。それでもエカテリンブルクの空は、まだ明るい。
僕は街に出て、1軒のバーに入った。今日の試合を反芻しながら、ウォッカを呑みたかったのだ。
さすがにウォッカは強いお酒で、一口呑むと、喉が焼けるように熱くなる。けれど、それがロシアの香りを感じさせて、清々しい。
明日は夕方の夜行列車に乗って、カザンへと向かう。これがエカテリンブルク最初で最後の夜と思うと、すべてが愛おしく感じられるのだった……。
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